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私の兄は。  作者: 棚田もち
学生生活
2/34

2ー茶を飲む

 今私の前には、リチャードから何度か聞かされた事のある、学校長が手ずから淹れた紅茶が置かれている。

 ヤマダの話をする為、執務室へ学校長を訪ねてきたのだ。


「どうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

 そっと手に取り、じっくりと味わう。

 正直言って味は普通だが、付加価値が美味しさをアップさせる。それは黒髪に碧い瞳で長身の、目の前のいい男による派生効果だ。さりげなく組まれる脚の長いこと長いこと。骨張った大きな手。その手が繊細に動いて大雑把な紅茶を淹れる。もうご馳走様です。


『俺の淹れたお茶が、君の身体中に染み渡ったかな?』

『もう溢れ出るほど……カモーンです!』


 萎えた。私に妄想のセンスは無かった。


「それで相談とは?」

 丁度冷静になったところで良かった。

「ヤマダ・スットンさんの事なんです」

 名前を出した途端に、うっと呻くのはどうなのか。

「続けて」

「はい。彼女に無闇に触れてくる男子生徒がいるんです。注意はするのですが、そもそもエドワード殿下やリチャード様が接触を多く持つので……」

  「実はダグラス・フォードからも同様の報告が挙がっている」

「まあ、それでは」

 なんだ。一気に解決か?

「しかし殿下から別の要望出ている」

「?」

「スットン研究会の設立だ」

「犯罪です」


 研究されたいと思う令嬢がいるだろうか。いたら承認欲求強すぎだろう。


「勿論認める訳は無いが、そこまで執着している王族を引き離すのはちょっと難しい」

 まあ下手に離そうとして、逆に盛り上がられても困るか。

「ではヤマダさんはどうしたら」

「フォードに間に入ってもらう事にした」


 これは乙女ゲーム補正というやつだろうか。

 リチャードの友人なので、ダグラス・フォードとは面識がある。

 黒に近い茶色の髪と金茶の目をした、若いのに何だかエロいイケメンだ。

 派手な金髪に菫色の目の、何処の王子様だよ!という外見をしたリチャードと並ぶと矢鱈と目立つ。

 ちなみに本物の王子のエドワードは、柔らかい金髪に茶色の目の優しげな人物だ。今日変態だとわかったが。


 三人目の攻略者は、ダグラスだったのかも知れない。


 ヤマダにまとわり付くロリコン三人衆・ブーフーウーに(ブライアン・フィリップ・ウィリアムみたいな名前だった)学校長から注意をしてもらう約束を取り付け、執務室を後にした。


 ……やはりいい男は尊い。

 面倒事の相談でも癒され成分がある。憂い顔も堪らん。

 週一で相談に行きたいものだ。




 ところで私には騎士団勤務の兄サイモンがいる。

 プラチナブロンドにタンザナイトの様な瞳の、とんでもない麗人だ。妹の私も似たような色彩と造作だが、劣化版でしかない。

 しかしその事で余り僻んだ事はない。

 やはり男女差が大きい事と、兄が眉目秀麗で腹黒陰険インテリ眼鏡な外見をした脳筋なので、これと比べても……という気分になってしまう。

 彼を攻略対象者と考え無かったのは、ゲームの舞台が学校内であった為だ。


 そして兄が見た目で招いた誤解のとばっちりを受けるのが私だ。


 兄は口数が多い方では無い。何も考えていないので、特に喋る事もないからだ。

 しかし周りはそうは思わない。

 何か深慮遠謀があるのではないかと思うのだ。

 そのせいで私は誘拐された事がある。


 紳士クラブに行った兄が、そこで会った侯爵を見て、ほんの少し眉をひそめたのだ。

 それに気付いた目敏い侯爵は、自身の不正がバレたのではと不安になり、脅そうと私を誘拐するに至った訳だ。馬鹿だ。

 実際には、兄は『この頭の毛は本物か?』と考えただけだったそうだ。本当に馬鹿だ。

 脅迫状を見た兄は、騎士団の仲間に声を掛け、一気に侯爵邸へ踏み入った。


 騎士の突入に侯爵は「お前、こっちに来い!」と私を盾にする為、ナイフを片手に腕を掴もうとしてきた。勿論何の訓練も受けていない私はどうする事も出来ないが、せめて気持ちだけは虎でいたい(大分テンパっていた)。一撃でいいから入れてやると拳を握りしめ、睨みつけたその顔がグニャリと歪み、


 侯爵は華麗に宙を舞った。


 兄の飛び蹴りを喰らったとも言う。

 目の前をすっ飛んで行く侯爵、その後を追うように、蹴った姿勢のまま視界を流れて行く兄が、スローモーションのようにはっきりと見えた。


 騎士団が踏み込んだ事により、数々の不正と毛髪の秘密が明らかになった。

 一緒に飛んでたからね。


 後ろ暗いところがある人や、腹黒な人、『私なら』と考える肉食系の女性程兄を勘違いする。自分を基準に考えるからだろう。

 逆に騎士団は居心地が良いらしい。ありのままの自分を見てくれる人が多いと言っていた。


 そんな理由から、よく美人のお姉さんに絡まれたり、腹黒のおっさんに絡まれる私だが、このような話を始めたのには勿論理由がある。


 今まさに迷惑を被っている最中だからだ。







 

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