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私の兄は。  作者: 棚田もち
学生生活
11/34

10ー見せる

 然程広い部屋では無いが、正面に兄、向かって右手に両親、そして振り返って見れば、扉には家族の肖像画が飾られている。

 左手にある窓からは柔らかな日差しが入りこむ。ゆったりとしたソファに木目の美しいテーブル。季節の花と、父に取り寄せてもらった大小の観葉植物が至る所に飾られている。


 そしてお気に入りアイテムの数々が、磨かれた棚に美しく並べられた、まさに私のお城というべき部屋である。


「さあ、先ずはお座りになって。厳選して持って参りますわ」

「心して拝見しよう」

 彼は生真面目な顔をしてそう言った。


 私の内心はうっきうきだ。

 棚からいくつかのアイテムを取り出し、自分も対面に座る。


「先ずこちらをご覧ください」

 そっと陶器の小物入れを差し出す。

「失礼するよ」

 ノアが蓋をとり、中を改める。

「これは、ポプリ?」

「惜しい。十年物のお茶ですわ」

 彼はそっと蓋を戻した。


「確認しておきたいのは、これが安全なものかどうかだが」

 真剣な顔で何を聞くのかと思えば失礼な!

「正直ヤバいわ」

 つい本音が漏れてしまった。


「偶に干してたけど、今はいつ虫………そうではなく、現存が奇跡的な時代を証言する物であるということよ」

 コホンと咳ばらいをして先を続ける。

「これはね、私が初めて摘んだお茶なの」

「侯爵令嬢に茶を摘ませるか?」

「単に庭に生えてたのを摘んだのよ」


 ある日、自分に優しく接してくれる美しい兄に、美味しいお茶を飲んでもらおうと考えた。

 母が以前お茶会で「古くなると香りが飛ぶわね」と話していたのを思い出し、なら新鮮なモノをと用意したのがコレだ。

「兄は美味しそうに飲んでくれたわ。毒草だったらしくてその後吐いてたけど。大泣きしながら謝ったら、青い顔をしながらも『騎士を目指す私を鍛えてくれてありがとう』って」


 私イチオシのほっこりエピソードだ。この時、自身を責める過程で『自分は本当に正体の分からぬものを飲ませる危険性を知らなかったのか』との思いが生まれ、前世の記憶が徐々に甦る切っ掛けともなった。


「問題のある結果だが、互いへの愛情が間違いなく感じられる点は評価出来る。その入れ物、見えないところに下げてもらっていいかな」


 元の場所に戻すと彼はホッとしたように言った。

「まさか年数より茶そのものがヤバいとは思わなかった」

 私もしっかりと頷いて応える。

「ええ、恐ろしいほどの家族愛にまみれたヤバい逸品よ。正しく価値を判断してくれて嬉しいわ。さあ見せたいものはまだまだあるのよ」

 次の品を取り出す。


「私が社交デビューの時に身に着けたネックレスよ」

 それはダイヤモンドとサファイアで作られた、美しいがデビューには少し派手なものだった。

「最初はお母様から譲り受けた真珠を着けていたのよ。でもエスコートしてくれていた兄と踊りたい女性が、私にぶつかってきて……」


 こうして私は、兄と両親の思い出に纏わるコレクションと愛情を時間の許す限り披露した。

 終わる頃になるとノアは少しだけくたびれて見えたが、次は自分の話を必ず聞けよと言って足取り軽く帰っていった。


 彼は妹を愛して止まないらしい。勿論家族愛だ。いかに妹が天使かを語りたくとも誰も聞いてくれない。無理に語ってみても変態と思われるだけだった。そこに同じ想いを持つ私の登場だ。

 

 今日はとても満足のいく時間を過ごす事が出来た。彼にも是非この充足感を味わって欲しい。

 ノアのコレクションを見せてもらう日が楽しみだ。






 その前に面倒だが夜会があった。


 兄が忙しいこともあり、本日のエスコートは順当に婚約者のリチャードだ。

 一応迎えに来て、一応ドレスを褒め、一応ファーストダンスを踊ってとっととヤマダの元へ去って行った。


 私はと言えば、エスコートが側からいなくなる前に学校の友人達を発見し、奴の離脱に合わせて合流しに向かう。

 これでも侯爵令嬢なので、一人でいると男性に囲まれるのだ。


「久し振りね、アイラ」

 皆の所にに辿り着くと、艶やかな黒髪の美しい女性が声を掛けて来た。

 彼女は四つ年上の公爵令嬢で、私を愛称で呼ぶ数少ない一人であり、ヤマダに夢中な第三王子の婚約者でもある。

 どんな時でも優雅な彼女は私の憧れだ。


「ご無沙汰しております、ジュリア様」

「その『ご無沙汰』の間の事が噂になりつつあるわ。今日は真相が聞けると思って楽しみにしてきたの」 とニッコリ笑う。

 ヤマダの事だろう。少し込み入った話になるので、衝立で区切られた休憩スペースに移動する。婚約者の王子が関わっているのだ。怒っている風でも無いし、ここは素直に話してしまおう。


 と言っても、私の知っている事など『王子がヤマダ研究会を立ち上げようとした』、この一点のみだ。しかし同席していたサンドラやカーラが補足してくれたので、充分な説明が出来たと思う。


「そうなの……。最近お会いする機会も減っていたから、そんな気はしていたんだけど」

 こんな美女を悲しませるとは! エドワード許さん。

「面白いわねえ」

 え?


「エドワード様って何でも卒なくこなされるけど、四つも年下なのに無理されてるんじゃないかって心配していたのよ」

 そう言ってほうっとため息をついた。


 憂い顔も絵になる。サンドラ達もうっとりしていた。流石我が友らよ、好みが合う。が、役には立たない。

 なんと声を掛ければいいか迷っていると、ジュリア様の侍女がやってきて、何事かを彼女に耳打ちした。見ていると一つ頷き、手早く指示を出す。

 こちらに向き直り発した言葉は


「エドワード殿下がこちらに来られるわ」

 だった。



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