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木の精霊

 最後にとんでもない爆弾を落として、虹色の髪の男は私を元の場所に戻したようだ。意識だけ呼ばれてたのかな?


 気づいたら朝でおじさま隊長の腕の中。


 私の野生の本能どこ行った?

 初対面の人間の前で、ヘソ天さらして寝るなんて…っ!


 隊長さんのワイルドなお髭が目の前にあった時はビックリしましたよ。

 彼はいつの間にか私をテントの中に迎えてくれてたようです。お顔はワイルドだけど優しい人です。


 耳をピコピコ澄まして外の音を拾う。

 火がパチパチはぜる音と、お鍋を掻き回す音、食器がカチャカチャ鳴る音がする。

 朝ごはんの準備してるみたい。

 今出て行っても邪魔だろうから、隊長さんが起きるまで待つことにしよう。


 さて、魔法が使えるとわかったからには、試してみたいことがある。

 そう、異世界転生のお約束。ステータス!

 体力とか魔力とか、数字で見えるっていうアレですよ!

 魔法の属性とかスキルとか一覧になってるアレ!

 神獣ってどんなステータスなんだろ? ワクワクしてきた!


 では、いきます。


『ステータス』


 ……。

 …………。

 ………………。


 ん?


 何も起こらない?


 いや、そんなはずない。騎士、魔力、管理者、神獣とくればあるでしょ!

 気を取り直して、もう一度。


『ステータス!』


 ……………。


 ちくしょー!!!

 

 私は伏せの体制になって右手をタシタシ地面に叩きつけた。は、恥ずかしいじゃないか!

 ま、確かにステータスと唱えよ、なんて言われなかったしここはそういう世界なんでしょう。

 うぅ、やってみたかった。


「うぅん…犬っころ、起きたのか」


 あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたね。

 それと私犬っころじゃなくて神獣です。名前も性別もありませんが。


「急にガクッと寝始めたからビックリしたぞ」


 あはは。まぁ不可抗力ってやつです。


 隊長さんは、私をひょいと抱き上げると、そのまま立ち上がりテントから出た。


 朝ごはんですね!







 ごはん♪ ごはん♪


 あ、皆さんおはようございます。

 今日もいいお天気ですね。


 私は隊長さんに片手で抱かれたまま、さっきの失敗を誰にともなく誤魔化すように、朝の準備をしてる騎士の皆さんに愛想を振り撒いていた。


 何故か皆驚いた様子もなく、隊長さんに挨拶をして、私の頭を軽く撫でて通りすぎて行く。

 私は人から向けられる好意を心地よく感じながら、大人しく隊長さんの手の中で尻尾を暴れさせていた。


「マリウス」

「おはようございます隊長。チビちゃんも。よく眠れましたか?」

「きゃん!」


 金髪の綺麗なお兄さんは、マリウスさんだそうです。

 マリウスさんに優しく撫でられるのは、気持ちいいから好きです。

 でもチビちゃんて名前は勘弁していただきたい所存です。


 夕べと同じように隊長さんの手からご飯を食べさせてもらう。

 わざわざ薄味にしてくれたみたい。マリウスさんかな?

 綺麗なだけじゃなく、(神獣)相手にも紳士的だなんて何ていい人なんでしょう。


 それにしても、昨日の残り物とはいえ朝からお肉が食べられるなんて、幸せです。

 隊長さんは胡座をかいた脚の上にお皿と私を置いて、右手でスプーンを持って、左手で私にご飯を食べさせてくれる。器用な方。


「ちょっと熱いから気を付けろよ」


 大丈夫! と勢いよくじゃが芋(っぽいもの)を食べたら、


「ピギャブフゥ!」

「だから言ったろ! そんなにがっつくな!」


 周りからどっと笑い声が起こった。

 ひ、ひどい……がっついてなんてないもん。

 じゃが芋って中が熱いよね。


「隊長、わかるわけないじゃないですか。ちゃんと食べやすくしてあげないと」


 マリウスさん、やっぱりあなたは紳士です。わかってた事は内緒です。恥ずかしいから。


「何だ今の声、ブフッ」

「声って言うより音だよな」

「犬ってあんな声出るんだな」


 聞こえてますよ。人間の時より、明らかに耳が良くなってますからね。犬じゃなくて神獣です。

 神秘性も威厳もゼロ? 聞こえません。



 ご飯が済んだら、後片付けしてる騎士たちを尻目に、湖の精霊たちに挨拶をして水を飲む。やけどした舌に冷たい水が気持ちいい。


 木の精霊にもご挨拶しないとね。いつも木の実もらってるし。 この木の実も不思議で、見える所には実なんて成ってないんだけど、精霊に挨拶すると食べなさいって渡してくれるんだ。


『おはよう、(いと)し子。今朝はご機嫌だね』


 がしがし大木を登っていつも寝床にさせてもらってる場所まで行くと、木の精霊が声をかけてきた。今日は人型じゃなくて、テニスボール位の大きさの緑の丸い光。ちなみに湖の精霊は、水色じゃなくて鮮やかな青色。


 木の精霊も湖の精霊も、私のことを愛し子と呼ぶ。

 あだ名みたいなものかな、なんて思ってたけど、デミ……なんとかさんって人(?)の話を聞いた後だと別の意味があるのかな?って思う。

 何せ神獣らしいし。


 デミさんが造った私が『神獣』なら、やっぱり造ったデミさんは『神様』ってやつなのかな?

ちゃんと名乗って欲しいよね! 管理者イコールこの世界の神ってよくある話しだし。


『おはようイルミール、お腹いっぱいだからね。ところで私って神獣だったみたい』


 イルミールは、この木の精霊の名前。この辺にはイルミールだけだけど、色んな所に別の木の精霊がいるんだって。


『……知らなかったの?』

『うん。狼だと思ってた』

『狼は我ら精霊と念話出来ないよ』

『あ~、やっぱそうなんだ? 教えてくれたら良かったのに』

『神獣なんて三百年ぶりに会ったからね。まさか自分をただの獣だと思ってるなんて分からなかったよ』

『神獣って珍しいんだ?』

『そりゃそうだよ。神獣は神が気まぐれで造るって言われてるんだ。でもそうか。不便そうにしてるのに何で人型とらないのかな? って不思議だったけど、知らなかったなら納得』


 やっぱ神様だった!

 それにしてもイルミール……


『……教えてくれたら良かったのに……』

『神獣のことなんてよく知らないし、何か事情があるのかと思ったんだよ』


 む~ん。。それなら仕方ない。


『あとね、まだ性別がないんだって』

『ないわけじゃないと思うよ?』

『そうなの? じゃあどういうこと?』

『それより人型とれるようになったの?』


 性別って重要じゃないのかな? サラッと流された。

 

『とれるとは言ってたけど……』

『簡単だよ? ほら』


 そう言うとイルミールは、緑の玉から人型になった。


 背中の真ん中まである髪も大きな瞳も、ばさばさ睫毛も緑!

 白いシーツみたいな布を纏っただけの格好だけど、裾の方に蔦みたな刺繍があって、それがどこか厳かな雰囲気を感じさせる。

 つんと尖った耳に、人間ではあり得ない程完全な左右対称(シンメトリー)な中性的な美形のお兄さんです。

 こんな所でいきなり人型とらないで! いや人型はいいんだけど、今は騎士たちが近くにいるのに!


『大丈夫。普通の人間に我の姿は見えないから』


 あ、そっか。


 う~でも簡単だよ? とか軽く言われてもなぁ。


『体の中心の核に力を込めて、人型になった自分をイメージするんだよ』


 体の中心の核? 心臓かな?

 中心に力を込めて……人になれ人になれ人になれ……


『……ならないね』

『うへぁ』


 何でだぁ? イメージが足りないのかな?

 魔法ってイメージが大事って言うもんね。

 でもイメージって言っても、何をイメージすればいいんだろう?

 前世の私? 取り立てて特徴のない、のっぺり顔の日本人だった気がするけど……


 人になれ人になれ人になれ人になれ人になれ……


『ならないね』


 なーんーでー!?





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