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お父さん?

注:ちょっとお下品な表現があります

注2:人の死に触れる描写があります。苦手な方は注意してください

 この世界に転生して二ヶ月。

 ここにきて衝撃の事実が判明しました。


 なんと私……男の子だったようなのです!


 いやまぁ、直前の前世が日本人の女って記憶はあるけど、その前は赤毛の女性だったし、その前は茶髪の男性だったし、性別に関してはそんなにショックではないんだけど……。


 この二ヶ月日本人の女の記憶がわりかし前面に出てたから、なんと言うか……アイデンティティの崩壊?


 でも、その記憶たちも遠い所にあるから、まぁ大丈夫。かな?


 一旦その思考を頭の隅に追いやって、若手隊員から解放された私は、満足するまでお肉を食べさせてもらいました。ゲプ



「よく食べたな」

「ガリガリですもんね。もしかしたら本当に育児放棄されて、食事にありつけなかったのかも知れません」

「そうだな……」

「こんなにお行儀がいい()だし、(うち)で飼えるといいんですが……」

「そうだなぁ……」


 なにやらお二人は優しい相談をしてくれてるようですが、満腹になった私はお兄さんの膝の上で別の問題に頭を悩ませていた。


 今の私は、()の子狼らしい。


 前世の記憶ははっきりしないとは言え、これだけは言える。

 前世を生きていた時は、その前の事なんて覚えてなかった!

 てことはよ?

 普通輪廻の際には、記憶は無くなるって事だと思うんですよ。もし輪廻転生とやらが罷り通っているとしたらね。


 で、今の私が前世の前世の前世まで記憶があるってのは、どう考えてもおかしいわけで。例えその記憶が薄れていて、おおまかにしか思い出せないとしても。


 これは神とか管理者とか呼ばれる存在のミス?

 てことは、私は人間だった時の記憶をうっすら残したまま、狼のような生き物として今世を生きていかなきゃならないわけで。

 生きる為にはお肉捕らなきゃいけないし、将来的に子孫を残すために雌狼と……!!!




 おいコラふざけんな責任者出てこい




********




 なんて事を考えていたら、スゥッと意識が飲み込まれていった。

 体が重いような軽いような不思議な感覚。これ普通の睡眠じゃないよ。



 で、今私は真っ白い空間にいる。

 このあと神が出てくるんですね? テンプレテンプレ。


 なんて罰当りな事考えてたら、本当に出て来たよ。


 おいふざけんな、とか言ってごめんなさい。責任者出てこい、とか思ってたけど本当に出て来られるとビビります。

 いきなりすぎやしませんか?


 腰あたりまである虹色に輝く髪に、彫刻のように美しい顔の男の人。美しいんだけど、美しすぎて冷たく感じる。体温があるのか疑いたくなる程綺麗。

 金色の刺繍がキラキラしてる真っ白いローブに身を包んだその男は、ボケッとお座りしてる私の前にしゃがみこんだ。

 その髪どうなってんの?


「ふむ。なかなか可愛く造れたな。だが何故そんなに痩せこけているんだ?」


 第一声がそれかい。

 人間の記憶があるせいで狩りが出来ないからだよ!

 それよりなんだ、作れたって言ったか?

 可愛く作れたって? 可愛く…ふへへ

 いやいや、そこじゃない。


 この人(?)が私を作ったってのはどういう事なんだ?

 私は狼じゃないの?


 首をかしげて見せる。しゃべれないからね。


「お前の器は私が造って、あの生命の湖に送ったのだ。ここでの記憶はないのか?」


 ここでの記憶とな? さっぱり覚えてない。

 でも一度はお会いしたことがあるんですよね?

 器を作ったって事について、詳しく説明お願いします。

 今度は反対側に首をかしげる。


「はぁ、仕方ない。もう一度説明するから今度は忘れるんじゃないぞ」


 何か責められてるけど、ここまで綺麗に記憶が消えてるって、あんたのミスじゃないのか。


 目をそらすな。


「まず、私はデミウールゲインサリュヴェルトテッララーイアート。この世界を管理する者だ」


 デミウールリュ…さるテッライアー? 名前長っ!

 さっぱり覚えてない。覚えられない。


「デミウールゲインサリュヴェルトテッララーイアートだ」


 無理。覚えらんないよデミさん。創造主だからお父さん?


「お父さんも悪くないな。だが個人的な好みとしてはパパの方が……いや、ここは格式高く父上か」


 うん、わかったよデミさん。


「……まぁいい。お前の魂はあの世界、人間たちは地球と呼んでいたか? そこの管理者が持て余し、私の世界へ運ばれたのだ」

 

 私持て余される程変な事してないと思うよ?

 それよりも、ここは日本ではないどころか地球ですらないんですか……。


「お前の魂は三度、寿命を使いきらずそれらの生涯を閉じたのだ。それも、最愛の相手に裏切られる形でな」


 ドクッと心臓が高鳴る。胸をギュッと掴まれるような、あの嫌な感覚が込み上げてきた。


「一度目は男だった。将来を誓い合った女がいたが、別の男と逃げようとした。その際、相手の男と揉み合いになって、倒れた時運悪く頭をぶつけて死んだ」


 うわぁ。


「二度目は女だ。若くして結婚したが、相手の男がまぁろくでなしでな。浮気相手の女にのこのこ着いて行って揉み合い崖から転落。事故死だったようだな」


 うっわぁ。


「三度目も女だ。まだ結婚はしていなかったが、」

「きゅうぅぅぅうう(もういいですぅ)」


 泣ける。うっすらとしか覚えてないとは言え、過去の自分の死因を聞かされるのは精神的にかなりキツイ。


「まぁいい。その時の記憶が戻る事はないし、心的外傷(トラウマ)にもならないように手は打ってある」


 そうですか。ご親切にありがとうございます。


「そういう訳で、お前は今世では寿命を全うしなくてはならない。本来お前は老衰で死ぬ筈だったんだ。三度ともな。しかし五十年、それ以上の寿命をそれぞれ残している。もちろん一度なら珍しい事ではない。そういう場合は次の人生で採算が合うようになっているんだ。寿命もそうだが、飛びきり運がいい、とかな」

 

 ほうほう。


「だが、三度となると話は別だ。お前がいた所の管理者は、何か別の思惑が絡んでいるのかと考えたようだが、そのような形跡はない。なら別の世界で生かそう、という事になったんだ。過去にもお前のような人間が稀にいたようだが、皆それぞれ違う世界へ行って寿命を全うしているそうだ」


 違う世界? 地球やここの他にも世界があるわけですね?


「お前の魂は私の管理する世界と相性がいい。相性はいいんだ……神獣としてなら。そんな魂、人間の器に押し込めたらバグも起きる」


 神獣? バグ?


「そうだ。そんな魂だからあの世界に受け入れられず、バグが起きたと考えられる。それにせっかくだからお前の望みを叶えてやろうと思ってな。猫のように愛されて、犬のように愛したい、だったか? そうすると、神獣という存在はこちらにとっても都合がいい」


 やめてください。恥ずかしいです。それに人の不幸をバグ呼ばわりすんな。


「事実だ」

 

 さいでっか。

 でもさ、神獣って青龍とか白虎とか、フェンリルとかフェニックスとかじゃないの?


「それはあの世界の伝説上の生き物だろう? ここは私が管理する世界だから私の好みで造ったんだ。多少参考にしたがな」


 まさかのパクり宣言! その上での器発言ですね?


「犬と猫の特徴を合わせるのは難しいんだぞ。さすがに面倒だったから特大狼だ」


 面倒って言った!

 それに特大狼? どう見ても子狼、むしろ犬っころ呼ばれてますが。


「まだ子供だからな。成獣になれば、美しさは右に出る者はない。感謝しろ」


 美しさ? あ、ありがとうございます……えへへ

 でもでも! どうせ記憶持ったまま転生出来るなら人間が良かったよ!


「人型をとればいい」


 人化出来るなら早く言え。


「お前が獣になりたいと望んだのではないか」


 比喩です。


「人間というのは我が儘な生き物だな」


 すみません。でも人間だった記憶を持ったまま獣として生きるのはけっこうハードです。それにそれだと長生き出来そうもありません。


「まぁそれもそうか。確かにその姿のまま数百年生きるのは厳しいだろうな」


 数百年!?


「言っただろう? 使いきってない寿命があるのだ」


 それにしたって長すぎやしませんかね?


「仕方ないだろう。勝手に寿命を終わらせたのはお前だ」


 覚えてないし事故って言ったじゃん!

 それに仮にそれぞれ残りが五十年だったとしても、百五十年じゃん! それにしたって長いけど!


「あー。まぁ神獣だからな。少しサービスしてやった」


 そんなサービスいらん!


「うだうだ言うな。兎に角、お前は犬でも猫でも、純粋な狼でもない。私が作り上げた神獣だ」


 そ、それなら、何かチートくれ!


「チート?」


 そうそう、よく聞くじゃん! 強い魔力があるとかさ。


「お前は神獣だから正確には魔力ではないのだが……まぁ便宜的に魔力と呼んでもいいだろう」


 呼び方なんてどうでもいいから! チート!


「お前たちが魔力と呼ぶものなら既に備わっているはずだ。精霊たちと会話出来るだろう?」


 あ、あれ魔力だったの? 動物って人間より勘が鋭いって言うから、その一種なのかと思ってた。


「阿呆か。他も訓練次第で使えるようになる。何せ私が造り上げた神獣だからな」


 ……それけっこう不安です。ここでの記憶なくされた上に二ヶ月放置されてたわけですよね?


「…………」


 やっぱりミスだったんだ!


「……仕方ない。特別に転移の術を使えるようにしてやる。この世界の中ならどこへでも一瞬で移動出来る(スキル)だ」


 おお! 文句なくレアスキル! ありがとうございます!


「但し、自分が移動出来るのは行ったことがある場所だけだ。その場所を思い浮かべて魔力(ちから)を放出して全身にまとわりつかせ、飛ばすイメージだ。物体を移動させたい時は、その物を魔力で包め。あとは自分でコツを掴むまで練習するんだな」


 じゃあ練習してみる! あ、あとね、


「まだあるのか」


 いやこれけっこう重要。私の寿命が数百年だとして、他の人は? 一人取り残されるのって辛いと思う。


「神獣は王を決めるんだ」


 いや、デミさんデミさん、質問に答えてないよね? よく分かんないから出来ればこの世界の人の平均寿命で……


「それはダメだ。向こうの管理者とそう約束したからな」


 向こうの管理者って? 


「もういいだろう。そろそろ戻すぞ」


 あ、待って! この世界の事もうちょっと教えて! 使える魔法とか服装とか世界観とか! 


「そうだな、回復魔法と呼ばれるヒールはすぐに使えるだろう。危険がないとも限らないしな。あとは自分で学べ。知らない事を知っていくのは、人生の楽しみでもあるからな」


 ふむ。それもそうか。


「では今度こそ戻すぞ。性別が定まったら、また私を呼べ。じゃあな」


 

ちょ、ちょっと待てぇぇーーー!!!






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