表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/29

神獣のお仕事

 違和感の正体にはすぐに気づいた。

 尻尾! 何で尻尾が!?

 初めての人化は、何とも中途半端な結果になったようです。

 

 それに、まさかと思って頭を触ってみると……ありました。耳が。狼型の時と同じ耳が!

 何で!? これ誰得よ!? デミさん!! どゆことですの!?


 そして! 何故かZENRA!

 マリウスさんに抱っこされた状態だったから、大事な所は見られてないと思うけど。何で全裸かなぁ……。木の精霊(イルミール)は人化した時、シーツみたいな布を纏っていたのに!


 それに見た目だって配色は馴染みなかったけど、ちょっと耳が尖っただけの普通の人間の姿だった。


 ケモ耳に尻尾なんてオプションいらないし!

 腰からお尻の周りの毛がフサフサしてるから、お尻から尻尾が生えてるっていうより、そこに特殊メイクで尻尾貼りつけちゃったよ☆ みたいな見た目も不満と言えば不満。


 まぁ自分の容姿を嘆いていても始まらない。

 まだ子供の姿だし、魔法使えるように練習すれば、ちゃんとした人型とれるようになるよね、きっと。


 それはそうと隊長さん、お子さんがいらしたんです!


 改めて教えてくれた事によると、男前な隊長さんに似た三歳の男の子と、もうすぐ一歳になる女の子だそうです。

 隊長さんたちはここ最近、ディセという東南にある街でお仕事してたので、ここ数ヶ月お家に帰っていないんだそうです。

 

 見た目が子供だからでしょうか?

 あまり詳しくは教えてくれませんでした。どんな仕事だったのか、とか。


 複数の前世で、それぞれ何歳まで生きたのか覚えてないけど、精神年齢は大人のつもりだから、子供扱いは正直面白くない。だけど、騎士団という仕事柄、無闇に部外者に詳細を話しちゃいけないんだろうな、って事は何となく分かるから、グッと我慢。

 前世でいう警察官みたいなものだろうし。警察官だって、家族以外には、いや家族にだって仕事の詳しい話はしないって知識としてはある。


 でも子犬として甘やかされるのは嬉しいんだから、矛盾してるよなぁ。


「チビちゃん、その格好で外には行けないから、今日は私の部屋で寝ようね。明日弟に服を届けてもらうから」


 そう。人化に成功したのはいいものの、何故か全裸だった私は今、マリウスさんのマントに包まれてる。


 これ幼児の姿で良かったよ。大人の姿だったらシャレにならない。現職の騎士さんたちの前で、公然猥褻行為! この国に公然猥褻罪があるかは知らないけど。


「マリュースさんありがとう! おとぉとさんいるの?」


 さっきよりは上手に発音できるようになりました。

 まだ舌の回りが良くないので、いっぱい喋って慣れるしかないですね。

 

「ええ、二つ下にね。さっきシャワー室で会ったディエゴ、わかりますか?」

「わかる! いい人!」


 私を一目見て、賢そうだと見抜いたのです。彼はきっとやり手の騎士さんですね。


「いい人? まぁ悪い奴ではないけど……」

「その、ディエゴさんどうしたの?」

「ああ、ディエゴと私の弟は、所属は違いますが配置が近いんです。えぇと、お仕事のやり方は違うけど、同じ所でお仕事してるんだよ」

「ちゃんとわかるから、だいじょぶよ?」

「そうですか。チビちゃんはお利口さんだね」

「えへへ~」


 褒められちゃいました。複雑です……。

 

「明日以降はどうするつもりだ? 陛下に目通り願うなら申請するが、事態は思うより深刻かも知れないぞ」

 

 難しい顔でそう話すのは隊長さん。机に向かって書類を仕分けしてる。


「しんこく?」

「難しいって事だ」

「む~ん。わかりましゅよーだ」


 さ行の発音て難しいよね。


「そうですね……。神殿がこの先どう出るかも分かりませんし」

「まじゅうがり、がんばるよ?」

「チビちゃん……。神獣様に魔獣狩りなんてさせられませんよ。まだこんなに小さくて可愛いのにっ」

 

 あ、マリウスさんのテンションがまたおかしくなった。ぎゅっと腕に閉じ込められる。


「かりに、かわいいはかんけいないとおもうけど……」

「それに言い伝えによると、魔獣は神獣様をとても恐れているから、神獣様がいらっしゃる所に魔獣は出ないんですよ」


 あ、聞いてないですね。


「そうなんでしか?」


 今度は噛んだ。この舌が憎い!


「飽くまで言い伝えだけどね」

「しんじゅうになって、まだ三かげつだから、よくわかんない」


 あ、そういえば月日の数え方ってどうなってるんだろう?

 マリウスさんに聞いてみると、一週間が七日で、一ヶ月が五週間。十二ヶ月あって、一年は四百二十日あるそうです。

 なんとも大雑把な……。

 そうすると、私は一ヶ月二十八日のつもりで計算してたから、えぇと、洞窟の正の字は五十五だった筈で……。つまり、まだ二ヶ月ってとこか。

 でもディエゴさんは私を見て、生後二、三ヶ月くらいって言ったから……地球での成長速度と変わらないってことは……つまりどういう事? 

 深く考えてもしょうがない。夜がくれば朝は近いさ!

 

 自分でも意味がわからないポジティブシンキングで、私はそれ以上考えるのをやめた。それに、もっと大事なことがあるし。


「まじゅうがり、できないのに、ここにいられるの?」

「う~ん。これからの事も相談しないとね。私はチビちゃんに、ずっとここにいて貰いたいけど、それを周りが許してくれないかも知れない」

「だれがゆるさないの?」

「さっきの神官長たちや、王家の方々かな」

「おうけ? なんでおうけ?」

「神獣様はね、存在だけで他国に対する牽制になるんだ」

「なんでけんせいになるの? ただのしんじゅうなのに」


 思ったより強力な相手に、耳が力なく垂れるのがわかった。

 そんな私の頭を、マリウスさんはいつものように優しく撫でてくれる。


「神獣様は自分だけの王を決められるんだよ。その王は、神獣様の寿命を分け与えられて、不老になるとも言われてるんだ」

「そんなのしらない」


 デミさんもイルミールも、そんな事言ってなかった。

 マントの下で力をなくした尻尾をぎゅっと抱き締める。これ意外と落ち着くわぁ。


「王家の人間や貴族どもは、挙ってお前に取り入って選ばれようとするだろうな。肉をもらっても着いて行くんじゃないぞ」

「こどもじゃないんだから、そんなこちょしないもん!」

 

 た行の発音て難しいよね。


「見た目は子供だろうが。子供のうちは余計に、操りやすいと思われてしまうだろう」

「それにね、以前の神獣様は王家の人間を王にお選びになって、その方が立太子されたんだよ」

「りったいしって?」

「王太子に、つまり次期国王様になったんだ」




 デミさん、イルミール。

 私には神獣という職業は、荷が重すぎるようです。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ