気づきました
――神獣様は強い魔力をお持ちです。
それを聞いたマリウスさんは、何か考える様子で黙り込んでしまった。
それに構う事なく、隊長さんと神官長は何やら言い合ってるけど、私はそれどころじゃない。
隊長さんとソファの間で、今までの状況と皆の言葉を反芻していた。
デミさんは、二ヶ月私を放置したわけじゃなかったんだ。
神獣を遣わすよ~って事を神殿の誰かしらに、神託っていう形で伝えたんだ。
当然デミさんは、神殿の人が私を保護したもんだと思ってた。これは行き違いだし、結果的にイルミールや隊長さんたちに会えたから、どうのこうの言うつもりはない。
……私は、強い魔力があるらしい。
デミさんは、お前たちが魔力と呼ぶものは、既に備わってる筈だって言った。
教わらなくても念話出来てたし、亜空間もサクッと出来た。回復魔法もすぐに使えた。多分それなりに強い魔力があると思っていいだろう。
じゃあ何で人型をとる事が出来なかったんだろう?
デミさんは、人型をとればいいってサラッと言ってたし、イルミールは、簡単だよ? って言った。
神獣の持つ魔力量なら、当然出来る筈なんだ。きっと。
『まだ子供だからな。成獣になれば……』
『人型をとればいい』
『簡単だよ? ほら』
『……魔力が大きければ大きい程、広く使う事ができる。今の君はそうだな……』
『大人になったら人間の家位の大きさに……』
『焦るな、まだ子犬じゃないか』
『大きくなったら魔獣狩り出来るように……』
『チビちゃんは脚が太いからきっと大きくなるよ』
『人間でいうと四、五歳くらいか』
――どうして気づかなかったんだろう?
私は人型をとろうとした時、何となくイルミール位の見た目年齢――二十代半ば位をイメージしてた。
神獣だって子供から大人に成長するんだ。
この際、犬と同じ位の成長速度かもって所は突っ込まないでおこう。強い魔力持ってるんだったら融通きかせろよ、って思わなくもないけど、デミさんてば「面倒だったから特大狼だ」なんて言っちゃってたから、多分面倒だったんだろうな。
地球でバグ起こした魂拾ってもらっただけでも、ここは感謝しておこう。……色々思う所はあるけど。
あと何かヒントになるような事は? 何かなかったかな?
あの時マリウスさんは何て言ってた?
『チビちゃんは毛色が珍しいから、……ギンちゃん……白銀ちゃん、虹男くん……目の色からとって青ちゃん?』
『この毛色は正しく神獣様のお色味……』
あの白い空間で会ったデミさんは、虹色に光る髪に青い目をしてた。私の毛は銀色だと思ってたけど、マリウスさんが名前の候補に虹男くん、を入れたって事は、そういう事なんだろう。
面倒くさがりのデミさんの事だから、自分の姿に似せて神獣を造ったとしても不思議じゃない。過去の神獣たちも、きっとそうやって造ったんだろう。
態々狼に似せる必要があったのかっていう疑問が新たに追加されたけど……。
『……せっかくだからお前の望みを叶えてやろうと思って……神獣という存在はこちらにとっても都合がいい……ここは私の世界だから私の好みで……』
そうだった。都合がよくて好みだったんだ。
ああ、いけない。考えが脇にズレた。落ち込んでる場合じゃない。
この仮説が正しければ、四、五歳くらいのデミさん似の子供をイメージすれば人化出来る筈。
ああ、神官長たち、早く帰ってくれないかな。