表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

神殿の人が来た

6/15 日本語の言い回しがおかしかった所を修正しました。

 大きな建物は、私の予想通り騎士たちの寮だったみたいで、一階には食堂や談話室みたいな部屋があった。そこを通り過ぎて三階まで登ると、一番奥の部屋の扉をくぐる。


 書類が積み上げられた机が奥にあって、その机の手前には向かいあわせに二人掛けのソファが鎮座していた。ソファの間には背の低いテーブルが置いてあって、そのテーブルの上にも書類や分厚い本が置かれてる。

 突き当たりの壁には、大きな窓があった。曇りガラスみたいに白く濁った感じだけど、外の光を採り入れるには充分だろう。


「……隊長、まずは片付けませんか?」

「……書類が増えてるな」


 机の上の惨状に、隊長さんは疲れたようにため息を一つつくと、神官長ともう一人のおじさんをソファに座るように促した。


「エンシーナ殿は長旅から戻られたばかりですからね、私は気にしませんよ」


 神官長は本当に気にした様子もなく、隊長さんにすすめられたソファに腰を下ろした。その隣に、神官長より少し若そうに見えるおじさんが座る。神官長と同じような黒いローブを着てるけど、でっぷりしたお腹とテラテラした頭…いや額…? で、俗っぽい感じがする。

 態度は大きくて偉そうだけど、そこはかとなく漂う小者感……。


 いやいや、人を見た目で判断するのは良くないよね、うん。


 隊長さんも私を抱いたまま向かいのソファに座る。マリウスさんだけはローテーブルの上の書類や本を、奥の机に運ぶ作業を続けていた。

 ディエゴさんはお仕事に行ったから、今この部屋には隊長さん、マリウスさん、お爺ちゃん神官長、でっぷりおじさんの四人+私。


 ローテーブルの上を片付け終えたマリウスさんが、隊長さんの隣に腰を下ろした。


「お待たせしました。ああ、今何か飲み物を出させましょう」

「いえ、おかまいなく。お疲れでしょうから、あまり時間をとらせるつもりはありませんよ」


 マリウスさんの申し出を、お爺ちゃんはやんわり断る。

 何となく固い空気だけど、私ここにいていいのかな? 場違いじゃない?


「話というのは、他でもない、神獣様についてです」

「神獣様?」


 神獣、という言葉に耳がピクっと動く。


「実は、半年程前にご神託があったのですよ、神獣様を遣わすと。グラナード王国(我が国)では神獣様がご降臨されるのは実に三百年ぶりですからね、神殿の者たち一同、様々な準備をしてご降臨に備えていたのですが……一向にご降臨される気配もなく」

「半年前というと、我々がディセに向かう前ですね。しかしそんな話は聞こえてきませんでしたが……?」

「左様。混乱を防ぐために、神殿の外部には無事ご降臨されるまではと、箝口令を敷いていたのですよ。もちろん王家の皆様にはお知らせしてありますが」

「……そうでしたか」


 ご神託。デミさんかな? ディセってどこだろ?


「しかし、任務を終えたあなた方青騎士が、生命の湖で珍しい毛色の子犬を拾ったというではありませんか」

「こいつがその神獣だと?」

「こいつなどと!」

「……失礼、なかなかに突拍子もない話でしたので」


 隊長さんは気まずそうに視線を私に向けると、どこか遠慮がちに私の頭を撫でた。いつもみたいにガシガシしてよー。


「……ええ。私たちは大変な思い違いをしていたようです。神獣様は、神殿の祭壇にご降臨されると思い込んでおりました。古い文献にはそう記されていましたし……しかし考えてみれば、それが生命の湖だったとて不思議な事ではありません。なにしろ、神がこの世界を創造する際、大地の中に最初に造りたもうたのが、かの地だと言われておりますからね」


 そうなんだ。神話的なものかな?


「大精霊様のご加護を受けた地です。何ら不思議はありません。その事に思い至らなかったのは、私どもの落ち度と言えるでしょう」


 お爺ちゃんはチラっと隣のおじさんを見た。可哀想におじさん、冷や汗で額……頭? が余計テラテラしちゃってる。

 私どもの落ち度、なんて言い方してるけど、予想するにこのおじさんが祭壇での準備を進めてたんじゃないかな?

 このお爺ちゃん、優しそうなロマンスグレーに見えるけど、案外強かなのね。それもそうか。神官長っていうくらいだし、優しいだけじゃダメだよね。


「それで、神官長自ら態々ここに参られたのは、なにも創世記の説教をする為ではないでしょう?」


 ……何か嫌な予感がするから、その先は言わないで欲しいな。


「ええ。神獣様がご降臨されたからには、神殿でお世話させていただくのが道理かと」


 ほらやっぱり! 私嫌だよ!

 神殿がどんな所かわからないけど、寮に来るか? って!

 嫌なら俺んちでもいいぞって言ったじゃん!


「きゅぅんきゅぅん」


 生乾きの私の毛が隊長さんの軍服を湿らすのに構わず、彼の腕と脇腹の間に頭を突っ込む。ここにいろって言うまで出ないんだから!

 

「……嫌がっているようだが……」

「そんなっ! 神獣様! 大切にお世話させていただきます!」

「何も無理に連れて行く必要はないでしょう? 我々とて国王陛下直轄の騎士団ですし」


 私の援護射撃をしてくれたのは、マリウスさん。マリウスさん頑張れ! 私狩りは出来なかったけど、頑張って魔獣狩り出来るようになるから!


「何を言いますかリナレス殿! 神が遣わされた神獣様ですぞ! 神殿にお迎えするのが道理というものです!」

「しかし、私たちが見つけた時はガリガリにやせ細っていました。ご降臨されてから数日……数ヶ月経っていたのでしょう。その間放置しておいて、今更引き取りたいとおっしゃるのはどうなのか」

「……っそれはっ、」

「それに、神獣様ご自身は我々と共にあることを望んでらっしゃるように思えます」

「それは、すり込みのようなものでしょう。神獣様の本能が、神殿にありたいと気づかれる筈です」

「きゅうぅぅん」嫌だよぅ。


「……そもそも」


 声を発したのは、今まで口を開かなかったでっぷりおじさんだった。

 三者+私の目が、でっぷりおじさんに向く。

 おじさんはもぞもぞ居心地悪そうに身動ぎ、私に視線を向ける。


「そもそも、本当にその子犬が神獣様なのでしょうか?」

「マルチャン! 口を慎みなさい!」

「そうですマルチャン副神官長殿! こんなに賢くて可愛らしい犬が神獣様でないわけがないでしょう!」


 マ、マルチャン?

 ダメダメ、人の名前を聞いて笑うなんて、そんな失礼な事しちゃダメだ! 犬、じゃなくて狼型だから、笑ったってヒゲがピクピク動くだけだけど。そしてマリウスさんの謎暴走も止めないと!

 隊長さん、何とかして! 縋るような目を隊長さんに向ける。


 相変わらず他力本願な私ですが、マリウスさんが謎暴走してる今、この混乱を抑えられるのは隊長さんだけです!


「申し訳ありません。しかし、文献に記されている神獣様は、その…姿形の違いはあれど、いずれも成体のお姿でした。しかしこの……今回ご降臨された神獣様は、どう見ても子供、の姿と見受けられますし……」

「しかし、この毛色は(まさ)しく神獣様のお色味でしょう! それに今だって私たちの言葉を(ただ)しく理解されているように見受けられる。マルチャン、いくらあなたでも、神獣様を愚弄するのは許しませんよ」


 今度は神官たちの内輪もめ……。他所でやってくんないかな。


「神官長、他に神獣の特徴というのはないんですか?」


 隊長さんが二人の神官に問いかける。


「特徴……ですか?」


 今度は隊長さんに、皆の注目が集まる。


「マルチャン副神官長の言う通り、私たちはこの子い……神獣を、親とはぐれた子犬だと思って保護しました。確かに賢くて可愛らしいですが、それだけで神獣だと言われても、納得出来るものではありません」

「しかし、時期といい見つけた場所といい、そのお方が神獣様だというのは疑いようがないでしょう」

「疑っているわけではないのです。今思えば確かに、この子は私たちの言葉を理解しているような行動をとっていました。しかし偶然だと言ってしまえばそれまでだ。なにか、他に伝わっている事はないんですか? 私たちは神獣様の事について、詳しくは知らないのです」

「……確かに、私も神獣様は伝説上のものだと思っていました。そういう民も多いのではないでしょうか?」


 そう言うのはマリウスさん。三百年ぶりなら、確かに伝説と思っても仕方ないよね。

 しかし特徴か。魔法が使える事?

 人の言葉は理解出来るけど、しゃべれないし人型とれないし、どうしましょう?


「もちろん、ありますよ。特徴、と言っていいかは分かりませんが、神獣様は強い魔力をお持ちです」


 ……そうなんですか?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ