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ディスられてます

 サッパリしたぁ!

 やっぱりシャワー気持ちいいね。欲を言えば湯船にゆったり浸かりたいけど、さすがにそれは贅沢かな。犬と思われてるし。


 広いスペースでブルブルっと水気を切る。これがまた気持ちいいんですよ。


「わぷっ」


 傍にしゃがんだままだったマリウスさんに飛沫が!

 わざとしゃないんですよ。かけるつもりはなかったんです本当です。


「きゅぅん」


 ごめんなさいの意を込めて、顔にかかってしまった飛沫を舐め取る。

 こんな姿のせいか人の体を舐めたり、人にすり寄ったりする事に抵抗が一切ない。言葉をしゃべる事が出来ない私の、精一杯の表現方法だから。


 マリウスさんは苦笑しつつもタオルで私の体を拭いてくれる。

 私が知ってるパイル地のタオルとは違って、厚手の手ぬぐいって感じの布だけど、ややこしいからこれは私の中ではタオルです。


 隊長さんにガシガシ撫でられるのも好きだけど、マリウスさんに優しくワフワフされるのも好き。自然尻尾がパタパタ揺れて、飛沫を散らしてしまう。

 

「お風呂が嫌いなわんちゃんが多いけど、チビちゃんは大丈夫みたいだね」

「きゃん!」

「とりあえず今日は私の部屋に行こうか。大きくなったら魔獣狩り出来るように訓練しようね」

「くぅん?」

「チビちゃんは脚が太いからきっと大きくなるよ」

「……きゅぅん……」


 あ、脚が太い……。今のはグサッときました……。

 水飛沫をかけた仕返しでしょうか?


「名前も考えないとね。いつまでもチビちゃんではいられないからね」

「きゃん!」


 名前! そうだよ。どんな名前がいいかなぁ?

 フェンリルからとってフェルとか? リルも可愛いな。私フェンリルじゃないけど。

 ドイツ語で狼って意味のヴォルフとかルディとかもかっこいいよね。


「チビちゃんは毛色が珍しいから、……ギンちゃんとかどうかな? 白銀ちゃん、虹男(にじお)くん……う~ん、目の色からとって青ちゃん?」


 ……残念ながらマリウスさんには、名付けのセンスはないようです。思わずジト目を向けてしまう。


「ちょっ、そんな目で見ないで!」

「ハァっ」

「ため息!? 今ため息ついたね!?」


 やれやれ、と首を振る。


「……隊長が戻ったら相談してみるよ」

「くぅん」お願いしますよ。


「ぶっ! マリウス、ギンちゃんはねぇよ」


 ですよねぇ。って、おお、新キャラ登場。この人は一緒に旅をして来たメンバーの中にはいなかった。


「……ディエゴ、今日は休み?」


 焦げ茶の短髪に碧眼を持つこの人は、ディエゴさんだそうです。


「いや、今日はこれから城の警備だ」

「そう。盗み聞きなんていい趣味だね」

「こんなとこで子犬相手にしゃべってるからだろ? 俺は別に隠れてたわけじゃない」

「気配を消してただろ?」

「そうだったか? ところでその子犬はどうしたんだ?」


 ディエゴさんと会話しながらも、マリウスさんが私を拭く手は止まらない。何となく辛辣な言葉の応酬に思えるけど、険悪な雰囲気じゃないから仲は悪くないんだろう。


「生命の湖で拾ったんだ」

「生命の湖? 野犬か? 小さいわりに賢そうだが……」


 ディエゴさんは物事の本質を見抜く力に長けているようです。

 褒められた事が嬉しくて、一度は大人しくなった尻尾が再び揺れ出す。


「よしよし、人懐っこいなぁ」


 ディエゴさんはマリウスさんの隣にしゃがみこみ、頭を撫でてくれた。


「名前つけんのか? チビでいいじゃねぇか」


 あ、尻尾止まった。ついでに耳も垂れる。


「チビちゃんて呼んでたんだけど、不満そうなんだ」


 気づかれてました。


「まぁこの脚の太さなら、でかくなるだろうな」

「がぅ」


 脚太いって言うな。


「お前、人間の言葉がわかるのか?」

「きゃん」

「そうか。賢いなぁ」


 わしわし撫でられる。嬉しいけどやめて! 毛が! 毛がきしむ!


「生後二、三ヶ月ってとこか? 人間でいうと四、五歳くらいか」

「今は少しふっくらしたけど、見つけた時はガリガリだったんだ。毛並みは綺麗だったから栄養状態は悪くなかったみたいだけど……」


 ん? 今何かひっかかったよ?


「親が狩られたのか?」

「近くにそれらしい跡はなかったけど、真実は分からないね」

「それもそうか。猟犬にするのか?」

「さすがに寮でペットは飼えないからね。この脚を見る限り大きくなりそうだし、仕込むつもりだよ」


 また脚の話してる。

 密かに凹んでたら、表がバタバタ騒がしくなった。


「どうした?」


 私のピコピコ動く耳を見て、ディエゴさんが問いかける。この足音は隊長さんだ! 


「マリウス! マリウスはいるか!?」


 ビンゴ! 隊長さんだ!

 バタン! とシャワー室の扉が開くと、隊長さんが飛び込んで来た。


「きゃんきゃん!」


 嬉しくて隊長さんに飛びつく。どこ行ってたの? マリウスさんに綺麗にしてもらったよ!


「隊長、どうしたんですか? そんなに慌てて」


 隊長さんは飛びかかる私を抱き上げると、タオルを拾って私を包んだ。


「マリウス、俺にもよく分からないんだが……」

「エンシーナ殿、私から説明しますよ」


 そう声をかけたのは、隊長さんの後から来た黒いローブに身を包んだ男の人だった。おっとりした印象のお爺ちゃんで、ロマンスグレーを体現してるような人。この世界って美形が多いな。


 マリウスさんとディエゴさんは、お爺ちゃんに軽く会釈した。隊長さんて、エンシーナっていうんだ。


「神官長がこんな所にいらっしゃるとは珍しい。何かあったんですか?」

「ここでは何ですから、場所をうつしませんか?」


 神官長とやらの言葉で、私たちは大きなアパートみたいな建物の中に移動する事になった。









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