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「愉悦の経済原理」(1)セリゼとフレア

 ここは異世界レッズ・エララの北国。ゆったりと漂う、澄んだ湖、イーシィ湖。全景はとっても大きく、人が百人そこら泳いだところでぜんぜん埋まりゃしない。風が静かにそよいでいる。同じく水のように透明な空は、果てることなく広がっている。新緑の季節、春なかなかに。とても平和だ。


そんなイーシィ湖のほとりに、崖ほどではないが、ちょっと高くなってるデッパリスペースがある。黒い屋根に白い壁の、北国らしいシンプルなつくりの家。それほど大きくはない。

この家の大家は、ロン・K・フレアという工学者の女性だ。物語はこの家からはじまり、この家に終わる。


少女ふたり存する。「家賃払ってください、セリゼちゃん」日当たりのよいソファに座っている、背の低い白衣が大家フレアそのひとである。「ファファファ、先月払ったであろう」そこよりは日当たりがよくない床で土下座をしているのが、この家の居候第一号、吸血鬼、セリゼ・ユーイルトットである


「毎月払うから、月極めっていう家賃なんですよ」

「そこはこれ、来月になったら倍返しで払うから」

「うーんこの」

「信じてくれよん」

土下座をしながら器用に申し開きをする、この黒い礼服でマントな少女は、貴族である。まったくその威厳はないが。


ハタからみたら、白衣の少女がソファで足を組んで、土下座黒服少女をさげずんでいるかのように見えるポーズだが、まだフレアは怒ってはいない。本気ではない。第一、セリゼのいつものこの家賃滞納は、毎月の様式美のようなものだ。it's like a 変わらない美徳


没落たぁいえ、貴族という、超絶の資産を持ちながら、どうにもこの吸血鬼はみみっちい。人間よ、そこに親しみを覚えるのは勝手だが、こんなみみっちさが毎回続くとなると、さすがに辟易する。この町の皆はそう思っている。で、その筆頭である、大家・フレアはため息をつきながら言う。


「第一、毎回言ってることですが、セリゼちゃんにとってははした金でしょうが。なんで払わないんでしょう」

ガバっと跳ね起きて、セリゼは直訴した。

「ちょっとの金がタイムイズマネー! 莫大に!」

「はい、なんか、前衛的な言語圧縮表現をしてますが、実際はほとんど意味のないことを言ってますね」


フレアは天才なんで頭がいい。セリゼはぐぬぬと渋い顔をしながら、何かを言おうとする。もちろんフレアにしたってこれが本気でないことは知っている。御歳314歳のこの偉大なる吸血鬼のたわいもない冗句だというのは知っている。だがネタがくどい。さすがに御歳だけあって矢張り耄碌してきたか。


そこで、フレアは攻撃の手法を変えることにした。


「まあ、いいんですよ、家賃払わなくても」「え、マジで!!」

 とたんに喜色満面になるセリゼ。ツリ目がちの端正な表情をしている彼女なので、笑顔になるとなかなか輝く。このようなモンで笑顔にならんでもいいとは思うが。

「そのぶん、セリゼちゃんは米と水だけの囚人生活をしてもらいます」


「え」

「電気も、ネットがギリ使えないレベルで」「鬼!」「水道は、トイレは流れますが、水で腹を満たすくらいガブ飲みはさせません」

「悪魔!」

「洗濯機も乾燥機も使わないで下さい」

「そんなスメルティの奴が同じ家にいるってどうよ」

「魔法でなんとかすればいいんじゃないですか?」

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