幼い思い出
鉄の匂いと油のべたつき。
それが僕の中で最も古い記憶。
生まれてきて父と母の顔を見たことない僕は、ガーネストの孤児院で育った。
当時ガーネストでは流行病が流行し僕みたいに孤児になった子供が一杯いた。
だから両親のいない僕は自分の事をそれほど不幸とは思っていない。
周りがみんなそうだったというのもあるが、何よりも孤児院での生活はとても楽しかったからだ。
優しい保母さんに清潔な住居、それと美味しい食事にありつけたためここまで健康に成長することができ、そして友達も作ることが出来た。
あまり口を開かない僕にできたその友達は、頭はあまり良くないがいつも元気で明るく運動が出来て、なにより乗り物を動かすの上手かった。
大小様々なモーターマシンを乗りこなし、そのテクニックなら大人顔負けの実力だった。
僕の彼の後ろのしがみついて良く、街の外へ抜け出したりもした。
今ではいい思い出だ。
そんな彼の将来の夢は空挺士だった。
空を駆け、大地を巡り、新たな新天地を目指す。
パイロットになる者なら一度は志す誇り高き空の冒険者、それが空挺士だ。
そんな大志を抱く彼とは対称に僕は屋内で子供が手に取りづらい学書や教本を乱読するのが好きだった地味な人間だった。
しかしそんな僕に彼は興味を抱き、自分に空挺士になるための空挺機を造ってほしいと頼んできた。
幼いながらもぼんやりと浮かび上がったその夢は年を重ねるごとに膨らんでいき、そしていつしか絶対に叶えて見せたい希望へと変わった。
あの時は本当に楽しかった。
孤児院にあった機械工学にかかわる教本を読み漁り、それでも足りず街の図書館に足を伸ばして専門書も読んだ。
そうして知識を溜め込んだ次を、いよいよマシンの製作に応用する。
図面を敷いて自分の中の理想の走るが出来そうなマシンの骨格を作っていく。
エンジン、フレーム、ハンドル機構、様々な分野で僕等は議論をし、時には揉め、製作を進めていった。
良く意味は分かっていなかったが教本に書いてある理論や構造理念を採用しようという僕とドライビングのしやすさと機動力を追及しようとする彼。
とにかく幾度となくぶつかり合った僕たちだが、そんな時間も思い返すと宝石のようにキラキラと輝く宝物だ。
そしてようやく機体が完成し、初めて実験走行。
初めの方はまともに飛ぶことも出来なかったが、それも何度も繰り返すことでなんとか一端の機体を作り上げた。
だから彼が空挺士試験に出場すると言い出すのは僕も密かに予想してた。
それが彼のかねてからの夢だったし、到達すべき目標である知っていたから。
機体にはまだ盛り込みたい要素も機構もあったが、自身の未来に向けられているその瞳の輝きに僕は何も言えなくなり結局、試験へと発つ彼を見送ったのだ。
後日、僕は彼が試験の最中に起きたアクシデントによって帰らぬ人となったと聞くこととなる。