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コメディ

死すべき老婆

作者: 千路文也

 とあるスーパーに60歳を過ぎた老婆が来店していた。その老婆は見た目がみすぼらしいだけじゃなく、人生に疲れ切ってワクワク感を失くした典型的な駄目人間だ。情熱を忘れた人間に未来が無いのは誰の目でも明らかであり、生きる目標を失くした老婆は60歳にも関わらず、背筋が丸まって足を引きずるように歩いている。輝きを失った目には、もはや未来などには期待していない。生きるだけが精一杯で、とてもじゃないが他の事に情熱を捧げている余裕はなさそうだ。もっとも、こういう人間に限って自分は忙しいと誤った見解を持っているのだから皮肉としかいいようがない。そもそも本当に忙しい人間が真っ昼間にスーパーで買い物カートを押して歩いているだろうか……断じて否である。本当に忙しい人間はスーパーで買い物する暇すら与えられない哀れな人間であるのを、この老婆には理解して頂きたい。キーボードを神のスピードで叩いても、デスクに積み上げられた大量の原稿を目の前にして途方に暮れているサラリーマンが此処にいるのだ。睡眠時間もロクに与えられずに目を血走らせながらパソコンに向かってキーボードを叩く。会社暮らしの生活を余儀なくされている哀れな親父が此処にいるのに何故お前は見ようとしないのだ。こういう社畜こそが多忙に追われてストレスを溜めこんでいるのだ。しかし、この老婆は社畜とはかけ離れたサボり魔であるのを身を以って理解して頂きたい。仕事中はタラタラと動いて他の従業員からノロマの烙印を押されて全従業員から白い眼で見られても、必要最低限の仕事しかやらない。一応は仕事をやっているから解雇する訳にもいかず、まるで寄生虫のように組織に張り付いている人間だ。こんな人間が忙しいと口にする権利があるのだろうか。ああそうだ。無いに決まっている。この老婆はいかにも自分は悲劇のヒロインだという顔をしながらカートを押して歩き、目的のモノを探している。されども、いくら探しても見つからず、途方に暮れていた老婆は、ジュースの品出しをしている店員に話しかけていた。


「氷は何処にあるのですか?」


 老婆は気持ちの悪いアヒル口をしながら店員に話しかけていた。何を隠そう、ジュースを品出ししている人間は老婆が好むイケメンであり、アヒル口と同時に精一杯の甘えた声を出したのだ。これには若者も顔を引きつらせながら眉間にシワを寄せていた。頭の中がメルヘンチックな老婆など初めて見たからだ。見た目はどうみても60歳を過ぎたおばさんであるにも関わらず、精神年齢は小学6年生から中学1年生ぐらいの女子だ。こんな老婆に相手するだけでも時間の無駄ではあるが、一応お客様だから丁寧な対応が求められる。


「此方へどうぞ」


 あからさまな営業スマイルを見せながら、イケメン店員が動き始めた。勘違いも甚だしい老婆は『美人のあたしに惚れてる』と薄ら笑いを浮かべ、店員の後を追う。そして案内された先は冷凍食品やアイスを売っているヒンヤリとした場所だ。イケメンが指差した場所には確かに氷が売られているが、老婆が探している氷はこれじゃない。短気の老婆は怒り狂って店内全体に響き渡る声を出す。


「あたしを馬鹿にしとるんで! あたしが探してるのは使うとハッピーな気分になれる氷やがね!」


 ここまでくれば店員も察したのだろう。店員はさっきまでの営業スマイルから一変して汚物を見るような目で老婆を睨みつけたと思うと、彼女の顔面に向かって右拳を伸ばした。顔面を殴られた老婆は床に叩きつけられ、一部始終を見ていた他の客達も一斉に老婆に向かって牙を剥く。


「このガンギマリババアが!」


「薬が切れてイライラしてるからって店員に八つ当たりするんじゃねえ!」


「貴女の存在そのものが罪なのよ!」


「永遠に死ね!」


「天誅ぅううううううう!」


 これが現実だ。ヤクに手を染めた人物はなんであれ、その時点で人権を剥奪されるのだ。人権を剥奪された者など法では守られないのは当たり前だ。これにより、店長や主任クラスの店員達もこぞって参加して、地面に転がる汚い人間モップに向かって罵声を浴びせて殴る蹴るの暴行を加える。力強い大人達に囲まれて制裁された老婆は全身から血を流してまもなく息を引き取った。店長が代表して軽く包丁を振るい、血だらけで白目を剥いた老婆の生首を掲げると、店内から一斉に歓声の声が鳴り響いた。


「このスーパーはサービスがいいわね!」


「本当そうね。老婆の惨殺ショーが見れるなんて幸せだわ」


「今日はいっぱいお惣菜買っちゃおうかしら」


 こうして近所の主婦から祝福を浴びたスーパーマーケットは大繁盛したそうな。めでたし、めでたし。



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