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アハト
階段を上がると、マルカの凛とした後ろ姿が視界に入る。
「やあ、マルカ。何を見ているの?」
と、僕は声をかけた。
「海よ、海を見てるの」
マルカは海の方に眼をはせて呟いた。
「海か、海ねぇ。こう暗いと、波の音しか聞こえないね」
「夜の海はきらい?」
「いいや、好きさ」
僕は、マルカの嘴をそっと撫でた。
「もう、行くんだろ?」
「……」
マルカは黙ったまま、静かに俯く。
「いつ、戻ってくるんだい?」
「わからない。一年後かもしれないし、十年先になるかも……」
「―そうか」
ぼんやりとマルカが滲み、涙の気配を感じた。
「いつかまた、会えるよね?」
「もちろん、僕はずっとずっと君を待つつもりさ」
「ほんと? 約束してくれる?」
「ああ、約束する。だから、君も僕のことを忘れないでくれ」