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紺野悠くんは、一言で言うなら「華やか」だった。高校生活をエンジョイしています!と言った感じ。本音を言えば、高校生だった私ならあまり関わらなかったであろうタイプ。
「小牧先生?って大学生ですよね、どこの大学なんですか?」
「…えっとね、そういうことは一応言っちゃいけない決まりなの。まあ大学生だけど。」
「でもこの教室、見る限り大学生が殆どなんじゃねって思うんですけど」
「まあ高3なら分かるだろうけど…小中学生には意外と分からないものだから、そういう話は無しで。」
私が担当する生徒は、どちらかというと大人しい子が多い。女子生徒が8割だ。私より先に口を開いて質問をされたこと自体にちょっと驚いたくらいだ。…まあこういう溌剌とした男の子は、同じくノリの良い先生を好むことが多い。これから二人別の先生が持つから、彼が私を選ぶことは無いだろうな、と授業開始そうそう私は予測した。
だが、授業をやりづらいな、という感覚は抱かなかった。多分、私の苦手な「ちゃらちゃら」した見た目ではないから。私立だからか、それとも運動部での規則が厳しいのだろうか。制服もきちんと綺麗に着こなしていた。
「じゃあ授業始めるけど、まず紺野くんは…英語は好き?嫌い?学校での授業はどう?」
「うーん、嫌いじゃないんですよ。数学の次に好きかも。でも学校の成績は平均だと思います。部活ばっかやってて寝てたこともあったし」
「……まあ、高校生には有りがちなことだね。」
「うちの部活、結構きつかったんで」
「バレー部、なんだよね?引退はしたんだ?」
「つい先週最後の試合でした。終わった瞬間親にここに引っ張って連れてこられて…」
なるほど。ということは、まだあんまり勉強に乗り気では無いな。
「受験勉強についてはどう考えてる?」
「うーん、ちょっと心配ですけど、部活無くなった分の時間は割けるので」
「うん、部活頑張った人って上手く軌道に載せれば勉強も頑張れるから。それでいいんじゃないかな」
「いいんですか?ほんとに」
「…気を抜いたらダメだけどね」
先生、ちょっと発言適当じゃない?
おかしそうに笑いながらくるっとシャーペンを回す。机が少々小さいのか、紺野くんは若干背を丸めていた。
「紺野くんって、身長いくつなの?」
「184です。バレー部ん中にはもっと大きいやつもいますけど。そういう先生はいくつなんですか?で、大学何年生?」
「うん、じゃあこのプリントやろうか。全問正解したら教えてあげてもいいよ」
「えっなにそれ理不尽!」
そう言いながらもプリントに向かい始めた彼を見て、ちょっと笑う。あんまりお喋りが止まらなくなる生徒には、いつもこんな風にご褒美を提示していた。それが無茶でも適当でも、黙ってやり始める子が多いからおかしかった。
「じゃあ、今日はこれで終わりで。残りのプリント、次の授業までにやってきて今度の先生に見せてね。あと今日ちょっと教えた文法のこと、さらっとでいいから教科書でも見て復習して」
「はあい」
90分はあっという間だった。文法問題で様子を見つつ、受験についてや学校生活について聞いて情報を集めた。後でまとめて次の先生に報告しなければならない。
重たそうなエナメルバッグを持ち上げて、紺野君が立ち上がる。立たれると本当に、首を傾ける必要があるほどの身長だ。そんな彼が私の後ろをついてくるというのは、ちょっと不思議だ。
「地元はどこ?電車使う?」
「ここです。自転車で帰ります。先生たちは?ここ地元の人多いんですか?」
「そかそか。じゃあ気を付けて」
「別にそれくらい良いじゃないですか…」
そういう彼に出席カードを通させて、そのまま出口まで送っていく。他の生徒や先生もいる中で、のっぽの彼はさらりと手を振って教室から出て行った。
「小牧先生、お疲れ。」
「東先生お疲れ様です。まだ他の授業ありますけどね…」
「あいつ、どうだった?紺野君。こまちゃんにしては今日結構声が聞こえてたから、もしかして手こずってるのかなと思ったんだけど」
「やっぱりお喋り多かったですかね…でもやるときは集中してましたよ、紺野君。」
「そか、なら良かった」
何人かの生徒が出ていくのに合わせて、次の授業の生徒も入れ替わるように教室に流れ込む。東先生が自分の担当生徒を出迎えたのに合わせて、私も次に使う教材を取りに講師ブースへ戻った。
バイトのある日は、こうして流れるように夕方と夜が過ぎていく。
本当はきちんと見直してあげたいんですけど、それやると多分続かないので本当に書いたそのままを上げてます。すみません…




