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魔女になって!  作者: まよまぐろ
幻狼と古小屋
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3

 

 腕を組み机に腰を寄りかからせて、目の前の少年達の話を聞いていたカレン。三人とも自分とは同学年だがクラスは別。特に接点がなかったため今まで話したこともない。


「探し物とはその行方不明の二人のことか。それで? 何故こんなもん呼び出した」


 親指で差す先には自分たちと同い年くらいの少年がニコニコ顔で此方の話す様子を眺めている。

 彼はここの生徒ではない。

 それどころか人間ですらない。

 それもそのはず。今カレンの目の前で正座をする三人は、この国で禁忌とされる黒魔術で喚び出してしまったのだ。この少年の姿をかたどる悪魔を。


「それは、その……」

「さあ吐け。何処で魔術書を手に入れた」


 人の魂を堕落に導く悪魔を喚び出す術は黒魔術に分類され、国の法律によって禁止されている。

 無表情のカレンの迫力に耐え切れず仔犬のようにぷるぷる震えていた三人は祈るように謝り倒した。


「ごめんなさいごめんなさい、本当にごめんなさい。巻き込むつもりはなかったんです」

「偶然見つけて藁にも縋る思いだったの。まさか出てくるのが悪魔だとは思いもしなくて」


 焦りと悲壮感の漂う目の前の三人に呆れたように溜息をついた。


「この国の黒魔術に対する悪感情は知ってるだろう。バレたら最悪停学くらい覚悟した方がいい」

「ごめんなさい。巻き込んでしまって……その、闇の精霊呼び出す術をやろうとしたんだけど……きっと呪文か術式か、何か間違えたんだ」


 しょんぼり俯くネビル達にそれまで大人しく此方の様子を伺っていた悪魔ロイが励ましの言葉をかける。


「君は悪くない、何一つ間違ってないぞ。あの術式は精霊達が住所変更したから無効になってただけ。前はあれでいけてた。ドンマイ」

「住所って、そんな郵便みたいなかんじなの術式って」


 悪魔が言うには、黒魔術に限らず召喚術というのは手紙に例えるなら魔方陣がポスト兼郵便受け、呪文の前半が住所(精霊の所在地)、後半が手紙の中身(依頼内容)、術者の魔力が切手(手数料)の役割と同じ……らしい。


「それに黒魔術じゃないぞ。闇属性とはいえ精霊に変わりない。ごく普通の精霊召喚術」

「出てきたのは悪魔だろうが」

「そりゃあそうだよ。俺魔界から喚び出されたんじゃねぇもん。その精霊の元の住処に偶然いただけ」

「ってことは本当に黒魔術じゃないの?」


 不安そうに尋ねるネビルにロイはにっこり笑う。


「もちろんだぞ」

「よかった……」

「いや、良くないだろ。何一つ解決してない」


 カレンは思わず突っ込んだ。


「ではこれらの魔術書をばらまいたのも」


 資料として見せてもらった魔術書の写しをひらひらと見せる。


「あ……それ片付け忘れた奴」

「お前らか」




 *****




「黒魔術じゃないなら、大した罰はくだらんよ。まぁここまで騒がせたのは怒られるだろうけどな。だが、このまま悪魔に頼られたら私もとばっちりを受けるので困る。召喚がそうでなくても悪魔との契約は黒魔術だからな。私も捜索に協力しよう」

「あ、ありがとう……」

「ええー! 俺に頼らないとか駄目なんだぞ」

「帰れっつったのが聞こえてなかったのか」

「え、意味分かんない。呼び出したのそっちじゃん」

「ごめんね。悪魔の下僕になるわけにはいかないから」

「無理だよ。契約は契約」


 にこにこと笑顔でカレンの右手の自分の頬に刷り寄せる。


「君達の助けを求める声に応えて扉が開いた。精霊召喚ってのは一度召喚に成功したら約束が果たされるまで破棄できないぞ。俺が君らの願いを叶えた時点で、俺の願いも叶えてもらうことになる。さぁ、願いを言って呪文を唱えて。友達助けたいんだろ? 聞いた様子じゃ、相手はきっと魔物だぞ。普通の人間が関われば逆に襲われる」


 カレンは掌を握り締め拳を作り、そのままロイの頬に押し付ける。


「痛い痛い、ごめんなさい放すから離して」





 魔術書バラマキ事件の真相は分かったが、今度はそれどころではなくなった。兎に角一度職員室に寄って誰か残ってる先生にでも相談しようかと階段を降りる。自分だけでは(知恵的な意味の)荷が重過ぎる。

 しかし、一つ懸念があった。


「クラスにも行方不明の生徒がいたとは報告はなかったな。普通何かしら情報が入ってくるんだが」


 もしかして連日行われていた職員会議は魔術書の件ではなく生徒の失踪のためだったのか。しかし、それなら生徒に何の知らせもなかったのは何故だろう。


(何かを隠してる? だとすればこのまま大人を頼るのは得策ではない?)


 生徒に対して目撃情報などの聞き込みでもしていれば必ず噂となってるはず。大人が子供に箝口令敷いたところで立て板に水。特に噂に敏感でそれをホイホイ喋るクレールやウェンディが何も知らない様子だったのはどうもおかしい。


「他の生徒には話さなかったのか?」

「魔術書見つけた時にこれを頼るなら、誰にも相談しない方がいいと思っちゃって」

「周り見てる余裕もなかったもんで……」


 生徒がいきなり消えたとはとても信じがたい話だが、一週間も出席してないなら、三人の証言を信じなくても誘拐や事故という可能性だって視野にいれるはず。


「記憶が操作されたという可能性もあるんだぞ」

「魔物は、そんなことが出来るのか」

「魔物の種類によるけどね。校内の大人を限定にしたらそんなに強くなくてもいけるかもなんだぞ」

「……そうか」




「そう言えば、他にも何か召喚したのか?」

「ううん。小屋で見つけた魔術書の召喚術は全部で五つだけど、見つけた順番に試して前四つは失敗した」


 一回目は火精霊の召喚術。『アルコールランプ』が必要だったから薬品のある理科室で行った。

 二回目は土精霊の召喚術。『月光に当たった勿忘草』が必要だったから花壇。

 三回目は水精霊の召喚術。『向かい合わせの姿見』がある美術室前の廊下。

 四回目は風精霊の召喚術。『黒い動物の毛』が必要だったから黒兎がいる飼育小屋。

 五回目は闇精霊の召喚術。『見つけたい人のいつもいた場所』で教室の二人の席。


「あらまー」


 ロイがやっちゃったねーみたいな表情で笑っている。


「なんだ」

「別にー?」


 クレールから貰った例の魔除けの紙をロイの顔に貼り付けた。


「あれ?突然?前が見えないぞ?」


 特に効果はなさそうだ。



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