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音楽会は第一王子であるレイグルス王子の演奏が終えようとしていた。ステージの上では美しい薄灰色の瞳とチャコール色の短すぎず長すぎない髪と相まった優しげな顔立ちと長身に合ったとても素晴らしい濃紺色の意匠の服が良く映える。

 レイグルス王子のヴァイオリンは、とても華やかさがあり、軽やかでいて、時に優しい優美な音を奏でる。

 音そのままにレイグルス王子の人柄が、とても良く表れている。

 王子のヴァイオリンが終わり、水を打った様に静かになったと思った直後に、会場全体を割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 その後もつつがなく演奏会は進み終え、シャロンが楽しみにしていた舞踏会の時間が訪れた。

 直ぐにレイグルス王子の姿を探すが、レイグルス王子の周囲には大人びて、艶やかな美女や清楚な美少女達が大勢集まり、レイグルス王子の周りを取り囲んでしまっている。

 それもその筈、先月十八歳になったにも拘わらず、婚約者が決まっていないのだ。王族のそれも長子であり王位継承権を持つ王子としては、既に結婚していても可笑しくない年齢にもかかわらず。

 なので、次代の妃の座を狙う姫君や、家柄的に妃は無理でも側室や愛妾ならば自分にもチャンスがあるのではと狙う令嬢や、純粋にレイグルス王子が好きな乙女が毎回お茶会や舞踏会、公の場などでは何時もこの光景が繰り広げられている。

 けれどその光景も、シャロンが近づく事で終了される。

 シャロンの姿を見つけた王子が、女性達の人垣をかき分けシャロンの方へやってくる。  

蕩ける様な優しい微笑みを浮かべ、優雅な身のこなしで。同時に女達は今にもシャロンを殺してしまいたい、という様なキツイ眼差しでシャロンをねめつけている。

 レイグルス王子は滑らかな動作でシャロンの右手をとり、手の甲にキスを落とす。

 「シャル。今日はいつにも増して愛らしい格好だね。そのドレス凄く似合っているよ。」

 今日こそは大人っぽいドレスをと思っていたのに上手くいかず、不本意な子供っぽいドレスだが、レイグルスの一言だけでお気に入りのドレスになった。

 「レイグルスお義兄様……。お義兄様の演奏も凄く素敵でした。」

 シャロンは少し恥ずかしそうに両手で扇を持って口元を隠しながら告げた。

 「ありがとう。でも、シャロンにはいつでもどこでも聴かせているだろう。」

 「そうですが、今日のお義兄様は一段と素敵です。」

 そう言ったシャロンの顔を覗き込む様にレイグルスも告げる。

 「シャルこの間私が言った事、忘れてしまった?お義兄様じゃなくてレイって呼んではくれないのかい?」

 暫くの逡巡の後にシャロンは、長い睫で縁取られた目を伏せながら意を決し名前を呼ぶ。

 「分かりましたわ。レイ?」

 やはりレイと呼ぶのは気恥ずかしい。

「はい。良く出来ました。」

 そう言うとレイグルスはシャロンの頭をポンポンと軽く優しく叩いた。シャロンは頬を膨らます。

 「また、子供扱い。」

 その頬をレイグルス王子は人差し指で突く。

 「シャル可愛い。リスみたいだ。」

 「う~、もう。」

 シャロンはそのままプイと横を向いた。

 そこで初めてふと違和感を感じた。

そういえばいつもと何かが違う気がする?何が違うんだろうと考え、再び視線をレイグルスに戻した時に違和感の正体に気が付いた。

「そう言えば、レイ。騎士のルフレとアベルは如何なさいましたの?」

 騎士のルフレとアベル、この二人はレイグルス王子専属の側近騎士で、ルフレは庶民の出で元騎士団所属、アベルは由緒ある貴族の次男でレイグルスとは幼馴染だ。二人は昨年の武術大会で優勝と準優勝を勝ち取った凄腕の騎士達だ。

 「あぁ、ルフレとアベルか、実はカルザランド山脈で多発している盗賊の討伐隊を指揮してもらっているんだ。死傷者が出てね。騎士団の団長からルフレとアベルを貸して欲しいと頼まれて昨日から居ないんだよ。」

 「さようでしたの・・・・・・。レイ身辺には十分注意して下さいまし。」

 そう、彼は王維継承者、故に何時如何なる時に暗殺の脅威に晒されてもおかしくない。

 特に自分達の伯父には不穏な動きがある。

 かの伯父気味はレイグルス王子が消えれば次の王位継承権を持つ人物で、彼の息子が王位継承権第三位を持つ。

 今までもいく度となく暗殺の危険にレイグルス王子は曝されてきた。

 「大丈夫だよ。少なくとも3日以内には二人共帰ってくるから。」

 でもとシャロンが心配そうに口を開いた時だった。「レイグルス王子様。陛下がお呼びにごさいます。」と父王の側近の一人が告げた。

「わかった。直ぐに行く。」とレイグルス王子は側近に返事を返し、再び視線をシャロンに戻した。

 「直ぐ戻るからココにおいで。」

 そう言い残すと、レイグルス王子は広間の中央で歓談中の父王の元に行ってしまった。

 レイグルス王子が側から離れていくと、今まで遠巻きに冷たい視線を送っていた一団が一斉に囁き始めた。

 「本当に頭にきますわ、毎回。」

「えぇあなたの言うとうりですわ、毎回私達とレイグルス様の中を邪魔してくれて。」

「妹だからって許せないわ。」

「それに見て、確かシャロン姫様って今年で十六歳でしょ、なのにあの格好とあのドレス。ふふふっ。みっともないたら。」

 彼の王子が姿を消したとたん、こそこそと声を殺していた女達が、これ見よがしにシャロンに当て擦りはじめる。貴婦人らしく口元を広げた扇で覆い隠すようにしているが話の内容は丸聴こえで、これも毎回恒例となってしまっている光景だ。

 「ふん。母親の罪が娘に来ているので無くて、王族で有りながら誰とも知らない男の種で生まれた娘よ。天の神が罰をお与えになったのでは?」

 シャロンは、自分の事を悪く言われるのは慣れている。けれど、母の事を悪くいわれるのは我慢出来ない。7歳で死別するまで母はとても優しく、愛情深くシャロンを育ててくれた。時にちょっとしたイタズラをレイグルス王子と共に仕掛け、怒られたりした。甘やかすだけでなく、厳しくも優しく躾けてくれた素晴らしい母なのに、何も知らない憶測でしか物事を語れない人になど、母の事を何一つ言われたくない。

 けれども、いくら母の事を自分が話した所で、こういう輩には新しいネタを与える位しかできず、時間の無駄なのは今までの経験上良く知っている。

 シャロンはこれ以上母の悪口を聞きたくなくて、テラスへと避難した。

 この時期、昼は過ごしやすい陽気だが、夜ともなれば近くの山間から吹き付ける風で、冷え込んでいる。

 装飾の美しい白いテラスに頬杖をつき星空を眺める。頬に一筋の雫が零れ落ちる。

 その雫を、雲一つ無い夜空に浮かぶ星々と美しい半月が照らし、宝石の様に煌めいている。

 縛らくここで、悔し涙と悲し涙が治まるのを待ってから広間に戻ろうと、繊細なレースのハンカチーフで涙を拭っている時だった。

「きゃーーーー。」

 悲鳴と共に宮廷楽師達が奏でていた音楽が止み、同時にグラスや陶器が割れる音に続き怒号と人々に逃げ惑う切迫した声が聞こえ、シャロンは慌てて広間に戻った。


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