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ここは、コルデート公国の王城敷地内の離宮シャロン・ディアナ・コルデール姫の私室だ。部屋の主であるシャロン姫は亜麻色の長い髪を編み纏め上げ、小作りだが愛らしい顔立ちの薄めの唇をグッと引き結び、濃い紺色のハッキリとした色の瞳を鏡に向けは、幾つもの彩り鮮やかなドレスや靴、アクセサリーを身につけては鏡に向かって様々な角度から美しいドレスを身に付けた自分を見ては大きな溜め息を吐いていた。
「やっぱり駄目だわ、どれも私には似合わないわ・・・・・・。」
「そうですわね。姫様にはこちらのドレスの方が大変お似合いになると思います。」
落ち込むシャロン姫に対して、メイドは別のドレスを進めた。けれど、シャロンはそのドレスを着て今日の華やかな音楽会にはあまり行きたくないのだ。何故ならば、メイドが差し出したドレスが幼女とまでは言い過ぎだが、大変子供っぽい色とデザインだからだ。
「・・・・・・なんで、私は成長が遅いのかしら? もっと素敵なドレスが似合う様になりたいわ。」
三時間近くあれやこれやと衣装を着替え髪型を変えて見たものの、全く大人びたドレスが似合わないのだ。
シャロン姫が十五歳という年齢に達し、あと一月で大人の仲間入りを果たすはずなのに
、身長も低く外見も5歳年下の親戚の女児とあまり変わりがない。他の同じ年ごろの娘と比べても異常かもしれない。
二次性徴の証である初潮も今だ来ず、その為に王家の姫に連なる者ながら、十五歳と言う年齢なのに婚約者もいまだに宛がわれていない。
まぁ婚約者がいまだに居ないのは、他にももっと複雑な裏の事情があるのだが。
「大丈夫ですよ姫様。姫様もあと数年位経てば素敵なレディになれます。」
優しい笑顔を浮かべメイドはシャロン姫を励ます。
「ありがとう、ベルシオレ。でもその言葉も数年前から幾度となく言われ続けたセリフだわ。」
はぁと本日何度目か分らない溜息が口をつく。
「まぁまぁ姫様、そんなに気を落とさずに、今からお待ちかねの音楽会では有りませんか。何カ月も前から姫様が楽しみにされてた、特別な音楽会ですよ。」
そう今日の音賞会は特別なのだ、なぜならずっと片思いの義理の兄レイグルス・ヴァンコルデート王子のヴァイオリンソロが演目に組み込まれているからだ。
年に一度、建国記念日を祝う祭典の前夜祭である音楽会でのみ公けに王子が演奏される事が許されている。
シャロンは音楽会以外でもレイグルス王子にヴァイオリンを聞かせてもらえるが、ステージの上で華やかな衣装を身に纏った王子の演奏する姿は格別だった。
勿論音楽会が終わった後は、お決まりで舞踏会が開かれる。
そこで今日はどうしても何時もとは違う大人びた姿を見せて、子供扱いじゃないちゃんとした大人の女性として、王子にエスコートしてもらいたかったのだが、現実は厳しい。
「はぁ~。」
肩を落とし、諦めの大きな溜め息を吐きながらシャロンは言った。
「ベルシオレ、その薄紫のリボンの沢山付いた白いドレスにするわ。」
「かしこまりました。私もこのドレスが一番姫様にお似合いだと思います。」