4話 第4皇子と第3皇子
「……イマリの気が途切れた」
エストルダ大帝国の城内のある一室にて一人の男性が声を上げていた。
目線は壁を向いているがスカイブルーの瞳は見えない何かを見ている。
男性は手を彷徨わせ目的物……ではなく人物を掴もうとしたが突如その対象者の気配が一気に離れたのだ。
「……イマリ?」
動揺を隠し切れない様子で呟いたエストルダ大帝国の第4皇子ダレンは伊万里の日本からのお土産で伊万里の住む世界で作られた衣装を身に纏っていた。
伊万里に、『次に会った時にその服着てね!』と、懇願されて着てみたが異世界では全く見た事が無いデザインであった。
彼女いわく『アニメのキャラクターが着ている服なんだけど絶対にダレンに着せたいと思ってネットでついつい購入しちゃった!!』満面の笑顔で話す伊万里にダレンは彼女からのプレゼントに凄く喜んだ。
節々に飛び出す単語の意味が理解できなくても。
ダレンはある計画を立てていた。
ダレンは半年ぶりに会う伊万里を驚かせる為に師匠のノエルが伊万里の召喚を行う時にそれを妨害し伊万里を自分の所に召喚させようと企んだのだ。
自分の姿を見てもらう為に……
現在ダレンが着ているこの装いは伊万里にとっては興奮する『萌え衣装』らしい。
そんな事を言われたら着ないわけにはいかない。
ダレンは伊万里に会った瞬間、この装いをした自分に見惚れてくれるかなと期待をしていたのだが、伊万里の気配が途切れエストルダ大帝国ではない違う場所へと召喚されたのであればそれが叶わない。
はっきりと確証はできないが微かな伊万里の気配がある様に思える為に異世界にはいるかもしれない……
そう考えていると部屋の外からこちらに向かう足音が聞こえた。
「ノエル先生は表だって召喚をしていたから、イマリがどこにいるのか分かるかもしれないね」
ダレンはノエルにばれないように魔力を押さえて召喚に関わろうとしていた為に伊万里の気配を追えなかったのだ。
かなり悔やまれるが後悔をしている暇はない。
外の足音は異変に気付いたノエルが自分に迎えを寄越したのだろう。
「久しぶりのイマリと僕の二人っきりの再会を邪魔したのはどこの誰なんだろうね?」
ダレンはまだ見ぬ相手に報復する事に考えが行きついた。
折角のチャンスをどこぞの誰かが邪魔をしたのだ。この機会を逃すと中々伊万里との二人っきりになるのは難しい。
イマリの滞在中は常に誰かが一緒にいる。
ライバルは多く父親と母親にダレンの上の三人の兄。
ダレンとしてはイマリを一人占めしたいがそれを周りは許してくれない。
「考え出すとキリがないけど、まずはイマリの居場所だね」
ダレンは部屋に入ってきた騎士からの説明で父親である皇帝から呼び出しを受けた事に納得した様子を見せ彼らが現在いるという薔薇園へと向かった。
*
第3皇子のサイラスは伊万里の為にある物を制作していた。
「……間にあった」
手で汗を拭い一息ついた。
伊万里が半年ぶりに異世界に戻って来る為、サイラスは彼女を驚かせようと2~3ヵ月前からとりかかり、たった今完成したばかりだ。
サイラスが完成をさせたのは小型の通信機である。
伊万里の世界では遠く離れても小型の物で会話が出来るという物があるらしい。
魔力が高い魔術師同士であればそのような事が出来るみたいだがサイラスには余り魔力の量に恵まれなかった。
サイラスはたまに思う。
自分の気持ち程の魔力しか無いのは下の弟のダレンが全部持っていったのではないかと……。
しかし、魔力があまり無い代わりに手先の器用さは4人兄弟の中で一番だ。
そして大帝国ではかなりトップクラスの技術者といっていいほどだ。
伊万里に偶然通信機の事を聞いてからサイラスはすぐに思い描いた。
――――――遠くにいても朝の寝ぼけた声での『おはよう』や寝る前の眠たそうな声の『お休みなさい』のイマリの可愛らしい声が聞けるかもしれない!!と……。
動機はかなり不純であるが、サイラスが完成させたのはかなり精巧にできたピアスの形をした通信機だ。
パッと見た感じはシンプルだが非常にお洒落だ。
誰も通信機とは思わないだろう。
一対のピアス型通信機は、一つは伊万里にもう一つはサイラス用だ。
片耳ずつお互いにペアでつける様になる。
「これでイマリとずっと繋がる事ができ、お揃いとくればまるでカップルみたいだ」
サイラスは手の上にあるピアス型通信機を見ながら伊万里が耳に付けた姿をイメージした。
絶対に彼女に良く似合い、喜んでくれるだろうと……。
「ピアス型通信機については、他の者には話さないようにイマリに口止めをする様に言いくるめないといけないな。兄上にばれると作れと言いかねないしイマリの可愛い声を聞く回数が減るのは絶対にダメだ!!」
サイラスは非常に真面目な性格だがたまに欲望ダダ漏れに口に出す癖があった。
それも独り言を話す時に……
少しムッツリな部分があるが、これについては親兄弟以外にはばれていない。
伊万里?……ばれていないと説明しておこう。
そんなサイラスだが、表情の変化もあまり見られず冷たい雰囲気を漂わせている所為なのか裏で貴族達に『氷の第3皇子』とあだ名が付けられている。
サイラス自身はそんなあだ名が付いているとは知る由もない。
サイラスはもうすぐ伊万里に会える事に心を躍らせ思いを馳せていた。
まさかこの後打ち砕かれる事になるとは思いもせずに……