3話 尋問
「中に入れ」
私はある部屋の前に着いた途端、放り出される様に床に投げ出されていた。
その拍子に体を打ち付けた。
「……つっ」
床は石の様に固く倒れた衝撃で体に痛みが走った。そして男性の握力が強かったのか掴まれていた部分の腕も痛い。
―――どうしてこんな目に合わなければいけないの?
泣きたくなる気持ちと男性に怒鳴りつけたい気分で入り混じっていたが、先程のやり取りを考えると今は大人しくした方がいいと考え自分の感情を押さえグッと下唇を噛んだ。
男性は壁際に置いてある木製の椅子を取り出し座りながら
「女、お前は一体どこの国から来たのだ?意図せず召喚された者は2名だったが、もう一人の娘が異世界では見ない気を放っていた為に直ぐ『華嫁』と判断出来た。だが異世界人を召喚した筈なのに、お前の纏う気はこの世界に非常に馴染んでいる。」
上から見下ろされながら聞かれた私は彼の質問の意図が分からなかった。
彼は気と言っていたが、日本で聞く気と意味合いが同じなのだろうかと?
意味が一緒であれば、私の気がエスラルードに馴染んでいると男性に聞かれた事については納得が出来る。
幼い頃からこの世界に時々召喚をされ数日間生活をしていれば異世界の空気に自然と馴染むのも無理は無い。
私は下に顔を向け考えていると男性は思わぬことを口にしだした。
「お前はどの国の魔術師を装った間諜なのだ?『華嫁』の召喚に紛れて一体何を企んでいるのだ」
「…………ふぁい!!??」
私は思わず上擦った間抜けな声を出していた。
間諜って、スパイの事よね? ……スパイの口がスッパイ?
はうぁ!! 動揺しすぎて親父ギャグついつい思いついちゃったじゃないのよ!!
それに私のどこを見て魔術師に見えるのよ!!
あまりの私の間抜けな声と顔に男性は顔を歪めていた。
「私の読み間違えか?まぁ、いい。取りあえずお前はどの国から来たのか口を割らせればいい事だ」
男性は椅子から立ち上がり呪文を唱え出した。
私は自分の身元がばれる事に異世界の両親達が数年前に話していた事を思い出し顔が青ざめた。
――――――他の国でイマリの存在がばれると貴方の身がとても危険だから絶対に身分を明かしてはだめよ……
リンダが注意深く私に教えてくれた。
彼らの身分は非常に高く父親ラインバードはエストルダ大帝国の皇帝でリンダは皇妃だ。
私が12歳をこえた頃に教わった。
彼らの住む家というかお城は大きかったので、身分が高くお金持ちだとは思っていたがまさか国を支配してその頂点に立つ偉い人とは思いもしなかった。
私の前では夫婦円満のラブラブカップルにしか見えなかったし、私に対する態度も娘に激甘な親バカぶりを発揮し反対に私が注意をするぐらいだったからだ。
度が過ぎたシスコンぶりを発揮しまくっている皇子という身分である兄様達も然り……。
話は変わるが私の異世界というか、エストルダ大帝国での身分は一応彼らの娘扱いになっているので『皇女』になるらしい。
一般市民の私にそれは無理!!と訴えたが
「イマリは私達の娘なんだから大丈夫よ!」
それからというもの異世界に行く度に教育や礼儀作法にエストルダ大帝国の歴史……その他諸々叩きこまれた。その分野の方達が教師役をしてくれたが、鬼教官如くのしごきで合格点をもらった時は嬉しさのあまり涙を流したくらいだ。
鬼教官達のムチに両親と兄様達のアメの使い分けで私は途中挫けそうになったが、どうにか表に出しても恥ずかしくない立派な皇族の一員になれた筈?だと思う。
でも、鬼教官達の中で唯一優しかった人がいるのだけど、その人の教える分野が花嫁修業的な事だったのが未だに謎だ。
話が逸れたが私がエストルダ大帝国の皇女とばれるのはかなりヤバい。
いつ頃か耳にした事があったが近隣諸国の一部の国が虎視眈々と弱みを探っているらしく私の存在が公に露見されれば私をダシに両親を脅すかもしれない。
自分で言って何なんだけど両親や兄様達は本当に私に甘いのだ。
私が原因で彼らが不利になる状況はできるだけ避けたい。
絶対にばれてはいけないのだが、呪文を唱えているという事は魔法で私の事をしゃべらす気か?
抗えない力に口が私の意思と反して言葉を発しそうになったその瞬間、ドンドンと扉を叩く音が聞こえた。
呪文を唱えていた男性もその大きな音に気付き扉に顔を向けた。
「誰だ?今は尋問中だぞ?」
男性は大きな声を上げ扉に向かい叫んでいた。
すると男性の許可無しに勝手に扉が開き、先程別れたばかりの王子が部屋の中に入ってきた。
「フレディ殿下?一体どうされたのですか……」
男性も王子だと思わなかったのか驚きの声を出していた。王子は気にする事なく私に近付き
「我が『華嫁』マリアがお前に用があると言っている。我はまがい物のお前なぞ可愛いマリアに近づけさせたくないが、どうしてもとマリアが言うので来たのだ」
「しかし!!まだこの者の尋問は終わっていません」
「それについてはマリアがこの女と同郷だと教えてくれた。そうであれば危惧する事など全く無いと言っていたので尋問の必要は無いと判断をしたのだ。それにマリアがこの女に話があると言っていたので連れて行くぞ」
男性は王子の言葉に逆らえる筈が無く少し苦虫を噛み潰したような表情で
「……御意」
納得がいかない……そんな表情をしていた。
「おい、この者を連れて行け!!」
王子は扉の外に控えていた騎士に声をかけ私は騎士達に両腕を取られた。
――――――私の事がばれるのは免れたらしいが別の問題が浮上したようだ。
まだ少ししか関わっていないが人の不幸を見るのが好きで性格が悪そうな『華嫁』の彼女マリア。
その彼女が私に用がある。
――――――嫌な予感しかしないのは私の気のせいだろうか?