2話 4人の息子達
「貴方そろそろイマリが到着する頃ね」
「そうだね、愛しのリンダ。私達の可愛い娘に会うのは約一か月ぶりだね」
伊万里の異世界の両親は新婚さながらの甘い雰囲気を出しながら庭園の中央に位置する薔薇園の一角でお茶をしながら会話をしていた。
彼らには4人の息子がいる。
上から今年26歳になる長男のアランは長男らしく兄弟達の面倒みが良く周りからも人望が非常に高い人物だ。
そして顔は父親ラインバード譲りの赤に近い金髪に緑の瞳と鼻筋通った精悍な顔立ちの男前でもある。
性格も朗らかながらも剣の腕に覚えがあり帝国騎士団長と言う肩書きから騎士達から絶大の人気を誇っていた。
伊万里は実の妹の様に猫可愛がりしており会う度に片腕で抱っこをしたまま散歩をするアランだが、伊万里的には16歳を過ぎた頃から恥ずかしいので止めて欲しいと訴えているのだが聞き入れてくれないので最近は諦めているらしい。
次男のカイルは24歳は甘いマスクの顔立ちに柔らかい物腰で女性達に絶大の人気を誇っている。
色味が薄い金の髪色に琥珀色の少し垂れ気味の瞳は、初めて会った者にも警戒されにくい人懐っこい雰囲気をしている。
しかし役職は宰相補佐といずれ次代の帝国を担う人材として周りの貴族からは一目置かれている。
性格は穏やかな雰囲気の外見に騙されやすいが人の弱みを握るのが非常に上手いらしい。
どこからそんな情報を握って来るのかが分からないが伊万里はカイルを腹黒と認定しているが、絶対本人には言えない。
そんなカイルもアランと同じく伊万里の事を可愛がっており会う度に『僕の天使』と木端ずかしい言葉を囁かれながら膝の上に乗せてお菓子を食べさせてくる。
伊万里もいい加減止めて欲しいとお願いしてもアラン同様に聞き入れてくれない。
サイラスはとても真面目な性格の22歳だ。サイラスはシルバーの短髪でアイスブルーの瞳と色味が薄い美形で顔立ちのせいか周りから冷たいタイプと勘違いされやすいが情にもろく一つの事に凝りだすとトコトン熱くなる隠れ熱血タイプだ。
目が悪いのかいつも眼鏡をかけている。
彼の仕事は研究者で制作者だ。それもオールマイティに。日用雑貨の研究から武器制作で幅広く人々が生活しやすいように色々な物を日々作り続けている。
最近は伊万里が安心して生活しやすくなる様にサイラスは物を制作する事に余念がない。
彼女が来るたびに自分の研究室にいさせ二人っきりで伊万里との時間を過ごすのが彼の密かな楽しみだ。
他の兄弟にばれないように研究室にバリアーを張り伊万里の気配を周りに察知させないようにして一人占めしている事はここだけの話。
末っ子のダレンは魔力が高く魔術師をして国最高の魔術師のノエルを師匠として師事しているが魔力は実のところ師匠を超えている。
しかしかなりの面倒くさがりな部分があるので魔力が高いのがばれると仕事量が増える為に上手に隠している。
20歳と伊万里とは同い年でまるで双子の様に伊万里が来るたびにじゃれついている。いつも抱きついて甘えて来るので伊万里はそんなダレンの仕草が可愛い弟の様に目に移りそれを許しているが伊万里に分からないようにダレンの口元が上がっている事には気付くわけが無い。
アッシュブラウンでスカイブルーの女性に見まがう中性的な綺麗な顔立ちをしているが、伊万里以外の者に対してかなりの毒舌である。
みんなそれぞれ性格が違うが兄弟の中は非常によく伊万里を可愛がっているのは全員共通している。
度を越して溺愛しすぎている部分もちらほら見えるが……。
紅茶に口をつけながらリンダは軽く息を吐いた。
「早くイマリをこの世界に永住して欲しいわ……。もしあちらの世界にいい人を見つけて結婚されでもしたら!!!どうにかしてわたくし達の馬鹿息子達に頑張ってもらわないとわたくしの計画が……。イマリは確かにわたくし達の娘だけど本当の娘になるには息子の誰かと恋をして結婚をしてくれたら一番いいのに」
「リンダ、それだけはイマリの気持ちが一番大切だから強要はしてはいけないよ。それに息子達皆イマリを気にいっているようだから様子を見たらいいよ。でもイマリは恋愛ごとに関しては息子達は苦労をするかもしれないけどね」
ハハッと苦笑いをしながらラインバードは妻のリンダに優しくたしなめた。
「そうね、イマリの気持ちが一番大切だわ……。でも息子達の恋の応援ぐらいはしてもいいわよね?貴方」
「……度が過ぎないようにね。リンダ」
ラインバードがリンダに笑みを向けていると、彼らお抱えの魔術師のノエルが顔面蒼白になりながら二人に慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ラインバード様!!!緊急事態発生でございます。イマリ様をいつもの様に召喚をしようとしていた所、別の魔力を感じた瞬間に彼女の気配をある国で見失いました!!!」
ノエルの言葉に目を見張ったラインバードが
「それはどういう意味だ?ノエル、落ち着いてから分かりやすく説明しなさい」
ノエルはラインバードに言われ息を整え一呼吸を置いたあと説明をしだした。
「……はい、私がいつもの様にイマリ様を召喚をしようとしたところ私とは違う魔力を感じた途端に彼女はそちらの魔力に引きずられ気配を閉ざされたのです。原因としては召喚をしたタイミングが私の方が一歩遅かったせいであると思います。まさか他の国で召喚の儀を同じタイミングで行われていたとは思いもしなかったので、これについては読み取れなかった私の責任でございます」
ノエルは頭を下げながらラインバードに一部始終伝えた。
「……他の国で召喚だと?」
「!!!貴方、もしかして『華嫁』を求めて異世界人を召喚するのにイマリは巻き込まれたかもしれません」
「ノエル!イマリの気配はどの国で途切れたのだ?」
「ハッ、ルワリスタ国でございます」
「……あそこか。あそこの国の王子はあまりいい噂を聞かないな」
ラインバードは苦い表情をしている。
「貴方!!わたくし、イマリに今日こちらに来るときイマリの世界の髪染めや目の色が自在に変えれるコンタクトという物をつけて来て欲しいとお願いをしていたのよ」
驚愕な表情を浮かべリンダはラインバードに詰め寄った。
「では今のイマリは黒髪黒目では無いという事か?『華嫁』の条件を満たしていないという事で彼女は迫害を受けるかもしれない」
ラインバードの言葉にリンダは涙を浮かべ
「貴方!!」
ラインバードの纏う空気が変わった。
「ノエル、我が皇子達全員を我の元へ呼び寄せろ」
エストルダ大帝国 第68代皇帝ラインバード・エストルダ皇帝の顔に切り替わった瞬間であった。