28話 ドールア国王家
「ドールア国の王家の者は普段からあの姿なのか?」
ラインバードは先程、面会を果たしたドールア国王を思い出していた。
傍に控えていたエストルダ大帝国宰相のマーケストは
「あの国は元々情報が少ないので、私には閣下の質問に答えるのは難しいと思われます」
「……そうか」
ラインバードは納得した様に頷いた。
この男がそう言うのであれば、そうなのだろう。
シルバーの髪に碧眼はある者を思い出される。
性別は違えどその顔は妻のリンダに似ていた。
マーケストはリンダの6歳上の実の兄になる。
たまにふらりと旅に出て姿をくらませるのが玉にきずだが、宰相としての腕は素晴らしい。
「王家の血を継ぐ者は、伴侶にしかその姿を見せないとはおかしなものだな」
ラインバードは黒いローブを全身に覆ったドールア国王と対面した時に布の隙間から見えた黄金の瞳に意思の強さを感じた。
その瞳の強さは野性にいる獣の様にも思えた。
『華嫁』は自分の世界にいる為、会わせるのは難しいと告げた時はあっさり引き下がった事に驚いた。
もう少し食らいついてくると思ったからだ。
しかし、
「それならば致し方が無い。しかし我が妹の婿を定める為に滞在をしても宜しいか?」
書状にはそんな事も書かれていたなと思いだしたラインバードはある条件を出した。
「息子達の誰かが、妹君を気に入ったなら結婚を認めよう。我が帝国の皇族は昔から政略結婚などという強制をしていない為」
「……承知した」
その場は滞りなく済んだが、王妹の姿は無かった。
どうやら長旅で体の調子を崩したらしく伏せているそうだ。
皇子達に紹介するにも数日後になるだろう。
この件がイマリの耳に入れば……。
「これで、自覚をすればいいのだが……」
ラインバードがドールア国の王妹の件を受け入れた理由の中にこの事も含まれていた。
***
「今日はアラン兄様か……」
侍女を始めて早や4日目になりました。
私は早朝の庭園を歩いています。
アラン兄様の部屋に行くのはこの庭園を横切るのが一番の近道だ。
本日は天気が良くお仕事日和だ。
とても気分がいい上に、アラン兄様に会うのはとても久しぶりだ。
ルワリスタ国で再会後、結局私が日本に帰るまで会えなかったので私は浮かれて前を見ていなかった。
ドンっっ!!
「きゃっ!!」
何かにぶつかっていた。
その拍子に地べたに尻もちを付いたのだ。
(ん!!!??大丈夫なのか?イマリ)
エプロンに忍ばせていたセクトが慌てて声をかけてくれた。
私は『大丈夫』と心の中で話しかけ立ち上がろうとすると目の前に手があった。
「この城の侍女か?こんな朝早くからご苦労だな」
若い男性の声が頭の上から聞こえた。
顔をあげると黄金の切れ長の瞳とぶつかった。
「!!!」
「何だ?俺の顔をジロジロ見てそんなに珍しいか?」
私は男性の姿を無意識に見てしまっていた。
金髪の髪に黄金の瞳に褐色の肌は某漫画のあるキャラクターを思い出された。
あの漫画は確か主人公が過去の世界にタイムスリップをし、大変な目にあいながらも拾われたその国の王子と恋におちる話だ。
私はヒーローより途中からヒロインに横恋慕してきた、ある国の王子の方がお気に入りだった。
ただ、瞳がオッドアイでないのが漫画キャラとは違うが、目の前にいる男性は雰囲気がその王子に似ていたのだ。
服装といえばラフな格好をしているが、エストルダ大帝国の者とは違う。
――――――やばい、もしかしてドールア国の人……。
私は思わず座った状態でありながら後ずさりをしていた。
彼はそんな私に構う事無く
「俺はドールア国の警護の兵としてこの国に訪れたのだが、この庭園は素晴らしいな」
辺りを見回しながら話す男性の目は感動をしている様に見えた。
それに、兵と言う事は下っ端で王とは遠い位置だからばれる事は無いのかもしれない。
そんな考えに行きついた私は安心し何となくだが、漫画のキャラの背景を思い出し
「もしかしてドールア国とは砂漠があるのですか?」
「お前は行った事があるのか?」
黄金の目を光らせ驚いたように私を見ていた。
もしかしてビンゴだった?
衣装的にもアラビアンな服装だったので、その様に思えたのは理由の一つだった。
「ドールア国には行った事は無いですけど、砂漠は見た事ありますよ」
―――テレビの中ですけどね。
「取りあえずその状態では首が疲れるだろうから、この手を取れ」
男性に言われるまま私は手を取り立ち上がった。
しかし、立ったとしても私の目線は上に向いていた。
「小さいな」
……蹴りを入れていいでしょうか?
男性の身長は明らかに180㎝を超えている。
160㎝の私と身長差が出るのは仕方が無いのはわかるけど、一言多いよね?
「……そうか、お前は砂漠を知っているのか」
私の苛立ちに気にする事なく彼の表情は嬉しそうだ。
彼は握っていた私の手に軽くキスをし、
「!?」
「俺の名前はメニフェスだ!!次に会った時にお前の名前を教えろ」
颯爽と去って行く彼の姿を私は呆然としたまま見送ってしまっていた。
*
「主よ……今お戻りか?」
真紅の髪の男性が窓から侵入する金髪の男性に声をかけた。
「ここの皇帝は嘘つきだな。『華嫁』は、この城にいたぞ」
「そうですか。しかしあまり無理はなさらないように」
「お前の忠告通りに手荒い真似はしないさ」
黄金の瞳をキラリと光らせたその表情は楽しそうだ。
「それにもっと話を聞きたい」
「……主よ、エストルダ大帝国の者にばれない様にして下さい。貴方はドールア国の王なのですから」
「ばれる筈が無い。何のために、ここの皇帝に王家は伴侶以外素顔を見せてはいけないなんて嘘をついたと思うんだ?」
王と呼ばれたその男性は先程、伊万里が庭園であったメニフェスその人であった。