27話 寝起きイベント?
ダレンの部屋に立つ私はふと疑問に思った。
「ダレンは私が侍女をする事を知っているのかな?」
ダレンは気を許した人以外は結構扱いが冷たい。
あんなにべったり毎回私にくっついているのに、カイル兄様から教えられた時は信じられなかった程だ。
そして、自分に勝手に触れようとするならば魔力で相手の体が吹き飛ばすほど嫌がるそうだ。
――――――本当に大丈夫なの?
扉の前で悶々していた私に側にいた騎士が声をかけてきた。
「そろそろ起こして頂かないと時間が……」
「あっ!!そうでしたね」
騎士の言葉に私は慌てて扉を開けた。
部屋の中はカーテンをひかれ真っ暗だ。
私は部屋の奥に進むとベッドの中で静かに寝息を立てているダレンの寝顔を見た。
幸せそうなその寝顔に心が少し和んだけど、すぐに自分の仕事に気付きカーテンを開け部屋を明るくした。
これで目を覚ましそうだが、起きる気配はない。
仕方が無いと言わんばかりにベッドの中にいるダレンの体を揺らして見た。
「ダレン、起きて!朝だよ」
「ん~~~」
少し反応した。
起きたかな?と思っていると
「イマリのおはようのキスで起こしてくれないと僕は起きな―――い」
「……」
ダレンの声はしっかりしているが、瞼は閉じたままだ。
心なしか唇がとんがっている気がする。
「は・や・く」
これは確実に起きているなと私は確信した。
いつから私に気付いたのかは知らないが、ダレンは狸寝入りをしている。
私は肩にいたセクトにこっそり
「手の平サイズに変化して?」
ダレンには聞こえないように伝えると
(イマリからお願いされたら仕方ないんじゃ)
と、手の平サイズに変化したセクトの体を持ちダレンの口目掛けてセクトの口を近づけ
ぶちゅう~~~
(げっ!!!何するんじゃ!!!)
「ん~~~イマリの唇は意外に固くて冷たいんだね?」
セクトは抗議の声をあげ、ダレンは瞳を閉じたままなのかキスした相手に気付いていない。
すぐに気づくかと思っていた私は誤解を解くかどうか悩んでいたが、これからもおはようのキスを求められたら面倒くさいので、教えてあげた。
「ダレンが今目覚めのキスをしているのはセクトだよ」
私の言葉にピクッと体が反応しゆっくりと目を開けたダレンの顔は一生忘れられないだろう。
最近気づいた事だけど、セクトとダレンは似ているかもしれない。
これは気をつけて対応しないとセクハラが酷くなると感じ取った私は容赦なくこんな行動をさせて頂いた。
例え、延々とダレンの口から
「ファーストキスがトカゲなんてあり得ない」
と、愚痴られても知りませ―――ん!!
*
侍女2日目の朝の仕事はじめはサイラス兄様を起こす事だった。
サイラス兄様はダレンみたく悪ふざけは無かったが、起こしたのが私と知った瞬間に慌て過ぎてベッドから落ちていた。
いつもは冷水をかけても中々起きないサイラス兄様だけど、この日は珍しくすんなり目を覚ましたけど、ベッドから落ちた時に頭をぶつけ意識を飛ばしていた。
「どうしよう!!!サイラス兄様が大変な事に!!」
私が原因で意識を無くしたサイラス兄様に心配で駆け寄りサイラス兄様の頭を私の膝の上に乗せた。
「大丈夫です。いつもサイラス様を起こす時は乱暴にしても起きないのですが、この幸せそうな顔を見る限りでは気絶した振りをしてイマリ様の膝枕を堪能しているだけですよ」
「えっ?」
騎士に言われサイラス兄様の顔を確認しても、その表情は読み取れない。
どうみても気絶し、苦い顔をしている様にしか見えなかったのだけど、どこからか現れたダレンに
「あっ!!!!兄様だけずるい!!」
私はダレンに引き摺られる様にサイラス兄様の部屋を後にした。
「ダレンはいつもいつもイマリとの甘いひと時を邪魔にして」
サイラス兄様が本当に気絶した振りをしていたなんて気づく事無く……。
*
「やっぱりそういう流れなのね……。」
侍女生活3日目の朝一番の仕事はカイル兄様を起こす事だった。
ここまでくればいくら私にも分る。
ダレンにサイラス兄様と何だか慌ただしい起床タイムだったが、実は昨日偶然にカイル兄様に会ったのだ。
「話に聞いていたけど僕の天使は侍女になっていたんだね?その姿もとても似合っているよ」
甘い雰囲気を漂わせながら私の姿を見ているカイル兄様の顔が近いです!!!
ぎゃあぁぁ !!!チュッと侍女帽にキスをしないで!!
色気ダダ漏れのカイル兄様に私はあたふたしていた。
「明日の朝は僕の部屋でまっているよ。明日は僕を起こすのが担当なのだろう?」
さすが、カイル兄様といったところか昨日一昨日とサイラス兄様にダレンを起こす仕事をしたのは、カイル兄様には知られている。
「一緒に僕の部屋で朝食を取ろう」
この一言で、私は明日のカイル兄様を起こす仕事に無駄な労力を使わなくていい事にホッとしたのが大きな間違いだった。
*
「はい、ア―――ンして」
朝にカイル兄様の部屋に尋ねた私は爽やかな笑顔で迎え入れられた。
部屋の中には既に朝食の準備が出来ている。
カイル兄様がおいでおいでと自分の膝にのる様に手で招いている。
私が躊躇っていると
「侍女は皇子の言う事は聞かないとダメだよ」
普段は権力など笠にしないのに、この日のカイル兄様は違っていた。
抵抗を許さない……そんな空気に私は大人しく従ってしまっていた。
膝にのった私に満足した笑顔を浮かべ、カイル兄様は手ずから食事を食べさせたのだ。
――――――羞恥プレイだ(涙)
部屋の中にいる騎士の視線が憐れんでいる。
その視線が私を一層悲しい気持ちにさせていた。
これは、ダレンやサイラス兄様を起こす方が楽だったかもしれない。
「クスっ、侍女姿のイマリもそそるね。まるでイケない事をしているみたいだ。これは癖になるかもしれないね?どう、ドールア国の者がいなくなるまで僕専用の侍女にならない?」
断固拒否します!!!!
私は食事が終わった瞬間に逃げる様にカイル兄様の部屋を飛び出した。
可愛がってくれているのは知っていたけどここまで酷かったかな?と疑問に思いながら……。
***
侍女の仕事を初めて兄様方を起こす仕事以外は勿論ある。
最初から決まっていたお父様とお母様にお茶を持っていたり、この城で勤めている貴族の食事の準備にお城の清掃に洗濯など忙しくしていた。
仕事の持ち場には必ず数名の侍女達がいる。
私の身分を知っている人は皇帝の勅命により口止めされていたが、多数は私の身分を知らない人が多い為にすんなりと中に侍女の仲間に入っていけた。
三日目になると仲がいい侍女仲間が出来てくる。
仕事がひと段落して、侍女たちが集まる部屋で他愛無い話に盛り上がっていた時に、ドンドンと勢いよく扉を叩かれバタンと扉が開かれた。
あまりの大きい音にビックリしていると、扉の入り口にはこの城では見かけない服装をした20歳前後の金髪の髪を一つに纏めた女性が立っていた。
エストルダ大帝国は基本的に洋装だが、その女性の衣装はアラビアンだ。
「この城の下女は仕事もせずにお茶なんか飲んでサボっているのかしら?」
部屋にいる私達を見ながらジロジロ見ながら、厳しい口調で言っている。
「大帝国と聞いていたけど、下女がこの有様だったら姫がこの国に嫁いだら、苦労をするのが目に見えて分るわ」
下女ってもしかして侍女の事?それに嫁ぐって誰に?
「さっきから私達に暴言ばかり吐いているけど貴方は一体誰なの?」
彼女の言葉に怒りや疑問を感じた私は思わず口答えした。
初対面の人にそこまで言われる筋合いは無いと!!
話しかけた事により、彼女は私の存在に気付き顔を歪めた。
「まぁぁ!!!下女の分際で私にたてつくの?私の事を知らないなんてこの部屋にいる者は随分下の身分なのね?なら教えてあげるわ」
彼女は小馬鹿にした様に私達を見下しながら
「私はいずれこの国の皇子様に嫁ぐドールア国の王妹のいとこにあたるのよ!私は王妹であるアイナ様のお世話をする為にこの国に来たの。ただ、ドールア国の王と王妹は母親が違うので、私は王妹の母方の従兄になるので、陛下とは血のつながりは無いけど身分で言ったら下女の貴方方より高い女官の位を持っているわ!!」
高らかに声をあげる彼女に私は
――――――変なのが来た……。
彼女の強烈なキャラクターに気を取られ、ドールア国の王妹が兄様達の嫁候補など私の耳に入っていなかった。