26話 どんな姿でも中身は一緒
「あ~~~いまり!!」
白銀の柔らかそうな髪に透き通るような白い肌、そしてこの世界ではあまり見た事が無い真っ赤な瞳の年は3歳位の可愛らしい男の子が、とてとて私に向かって両手を広げ近付いてくる。
私に向けるその満面の笑顔は殺人的にヤバい。
―――私に子供の知り合いなんていなかった筈!!それにどうして名前を知っているの?
疑問に思いながらも私はその子供を見ていると、ボスンっと私の体に突撃してきた。
「だっこ……ちて?」
男の子は上目づかいで私におねだりをしてくる。
うわぁぁぁ何!?この可愛い生き物は!!!
私は男の子にお願いされるまま抱っこをしていた。
男の子は嬉しそうに私の胸に顔を埋めてきた。
「ひさちぶり~~~(イマリのCカップも健在なのじゃ)」
……はいっ?
男の子の話す言葉と同時に頭の中に聞き覚えのある年寄りじみた口調が聞こえてきた。
「や―――ら―――か―――い……(揉めば少しはでかくなるかの?)」
男の子の手が私の胸を触っている。
副音声付きで。
こんな可愛らしい子とあのエロトカゲが、かぶるなんて私の勘違いだよね?
「いい加減にしろ!セクト!!お前の欲望ダダ漏れにイマリが困っているではないか?」
声と同時に男の子の襟首を掴み、私から離した男性が自分の顔に近づけ注意をしていた。
「い―――や!!!(オニキス、儂らの久しぶりの抱擁を邪魔するんでない!!もっとイマリの胸を堪能させるんじゃ!!)」
「……お前は恐ろしいほどの煩悩の塊だな」
漆黒の肩までの髪に碧眼のその瞳の男性は呆れかえった表情をしている。
そんな表情をしていながらも実際は竜なのに人型に変身したオニキスは大人の色気満々だ。
しかし、ふたりのやり取りで私は男の子の正体が分かってしまった。
中身と外見のギャップの差に頭痛がしそうだ。
「どうして人間に変身した姿が3歳児ぐらいなのよ!!セクト!!」
「セクトは生まれて3年しか経っていないから人型はこの姿になるのも仕方が無い」
私の訴えに冷静に答えていたのはオニキスだった。
だが、私には聞き捨てならない単語を耳にした。
誰が、三歳児だって?明らかに頭に語りかけてくる話の内容はエロ爺にしか思えない!!
「……言うな、イマリ。私も同族としてコレの性格については理解に出来ない事が多々ある」
「生まれつきと言う事ですか?」
神妙な顔つきで無言に頷くオニキスを見ながら、
エロな性格の生まれつきってどういう事なの!!と心の中で叫ぶ私なのであった。
セクトが人型になったのは、私の反応を見たいがために変身したのであって、手の平サイズのトカゲの姿が一番好きだそうだ。
あとヤモリの大きさにもなれると変化してくれたのだけど、
「ぎゃぁぁぁ!!!!!セクト出てきなさい!!!」
あろう事か、私の谷間(えっ?cカップにそんな物出来る訳ないって?ふふっ、最近のブラは機能が凄いのよ!!!)に入り込んだのだ。
(この大きさは胸を堪能できるので悪くないの?)
服の中でゴソゴソするセクトの体を掴み投げたのは言うまでもない。
オニキス曰く、例え体の大きさがどれだけ変化しようとも元は竜なので非常に頑丈という事で、お言葉に甘えさせて頂きました。
しかし、ドールア国の方々がいらっしゃる時はヤモリサイズの方が竜だとばれる確率が低いのでそれがいいだろうと、オニキスに言われた時はセクトからのセクハラ攻撃にどう回避しようかと頭を悩ますのであった。
*
私は侍女の姿にてある扉の前に立っていた。
肩にはヤモリ姿のセクトがいる。
(……イマリ、この部屋に何の用があるんじゃ?)
不思議そうに聞いてくるセクトだが、それは私が一番聞きたい。
朝一番に侍女長から与えられた仕事は第4皇子を起こす事だと言われたのだ。
私は侍女長がいる部屋に入った時から色んな事に驚いていた。
私に仕事を言い渡した相手が何とお父様の実の妹さんだったからだ!
「お久しぶりね?イマリ」
部屋に入った私に開口一番、話しかけてきた侍女長の姿を目にした私は驚きで声が出なかった。
背筋が伸び凛としたその姿は、衣装や髪形が違えど見間違える筈が無い。
「……キャロライン様」
「ここでは名前でなく侍女長と呼んでね」
軽くウインクしながら言うキャロライン様の姿はお父様に似て赤い金髪に緑の瞳をしている。
確か今年で38歳になると言っていたと思う……。
お父様の話では22年前に、この国の公爵家に嫁いで育児から離れた今は趣味にはまっていると聞いていたけど、まさか趣味が侍女って……事はないよね?
私の考えが分かったのかキャロライン様はニッコリ微笑み
「侍女のお仕事は凄く楽しいわよ。気がついたら侍女長になる程どっぷりはまっていたわ」
やはりそうなのですか……。
「それにしても皇帝の妹が侍女なんて周りは変に気を使うのではないのでしょうか?」
「大丈夫よ。今はイマリに分かりやすく眼鏡や侍女帽を外しているけど、これを装着したら……」
彼女が眼鏡や侍女帽をつけた途端、そこに高貴な貴族女性はいなかった。
どうみても侍女にしか見えない。
私はこの時思った。
異世界にも女優がいると!!
眼鏡と帽子だけで雰囲気が、がらりと変わったハリウッド女優顔負けのキャロライン様に私は目の当たりにした。
「イマリが侍女をしている間は私が全面に指導やサポートをするから安心してね!それで、早速だけど第4皇子を起こしに行ってくれないかしら?」
「へっ?」
第4皇子と言えばダレンの事だ。
それにしても皇子を起こすのは侍女では無く男性騎士の仕事では……?
一度聞いた事があった。
4人の皇子……お兄様は寝起きが非常に悪い?というか色々大変らしい。
侍女では起こす事が困難の為、いつも男性騎士がその仕事に当たっている事を。
「部屋はイマリなら知っているわよね?すぐに向かってね!」
私の疑問をよそに有無を言わせないキャロライン様……いや侍女長としての迫力に押され私はダレンの部屋に向かう事になった。
*
「今日はダレンだけど、一日ごとにサイラス、カイル、アランと順番に起こしに行くなんてイマリは思いもしないでしょうね」
リンダの思惑に賛同しているキャロラインは独り言を呟き
「それにしても、ドールア国の王妹を甥達の誰かの花嫁にってこれからどうなるのかしら?」
イマリは恋愛ごとに疎そうなので、心配だ。
それに、
「甥達の中にも恋情と親愛の違いに気付いていない子もいるから……リンダの思惑通りすんなりいけばいいのだけど」
これからの行く先に憂いを見せるキャロラインであった。