25話 再び異世界へ
新章スタートです
「浅瀬伊万里さん!!俺と付き合ってくれませんか?」
「はいぃぃっっ??」
「伊万里……声が裏返っているよ」
大学の正門付近で友人の江南との帰宅中、突然同じ学部の男子に呼び止められ、何の用だろうと立ち止まった瞬間にいきなり告白をされた私は驚きのあまり変な声を出していた。
隣にいた江南は冷静に突っ込んでいる。
「ずっと前から浅瀬さんの事、可愛いなって思ってたんだ。夏休みが終わった後に返事を聞かせて欲しいから、今は何も言わないで!!」
彼は言いたい事だけ言って走る様に去っていた。
「柏原当麻か……爽やかなイケメンで女性にも人気があるらしいが、奴は見かけによらず黒いな……」
江南が頷きながら何か呟いている。
「夏休み期間、伊万里に自分の事を考えさせようと言う魂胆だろう。返事をすぐに求めなかったのはそういう事だと思う。で、伊万里は彼と付き合うの?」
「誰かと付き合うとか……そんな風に考えた事ないよ」
柏原君は学部が一緒で、たまに選択している授業が一緒の為に、見かけはしたが話した事は無かった。
彼の事は顔見知り程度だったので、付き合って欲しいと言われても困る。
多分、すぐに返事を求めず去っていた柏原君は正解だろう。
返答をその場で求められたら、すぐに断っていたと思うから……。
そんな私に江南は、
「まぁ、伊万里にはハイスペックで超イケメンな兄が4人も自分を可愛がってくれていたら普通の大学生の男なんて、物足りないかもね?」
「そんな事ないよ!!」
ハイハイっと言う江南は、信じていないようだ。
実は江南だけ異世界の行き来きをしている事を話している。
勿論、エストルダ大帝国の両親にお兄様達の事も全部だ。
「まぁ、告白の返事はどうでもいいとして伊万里はいつ異世界に行くの?」
中学からの付き合いなので江南は私がどう返事をするか、確認しなくてもわかっているみたいだ。
もう興味が無いと言わんばかりに、話題を変えてきた。
「今日、家に帰ったらすぐかな?荷物も既に準備できているし後は召喚されるのを待つだけ」
「今回はどの位、滞在する予定?」
「夏休みに入るから約一カ月間向こうで過ごして来るよ!!」
「ふ―――ん、まぁ、変な事に巻き込まれない様に気をつけて楽しんで」
前回の出来事は江南にも話している。
私はあの事を思い出し苦笑いを浮かべながら
「もう大丈夫だと思うよ。今度こそはエンジョイしてくるね!」
「程々にね」
私は江南に少し心配されながら帰路についた。
二か月ぶりの異世界に行くのを楽しみにしながら。
***
「ねっ?言ったでしょう……。これで誤魔化せれるわよ」
「偶然とはいえ、さすが私の妻だ」
家についてから、ほどなくして異世界に召喚され、無事にエストルダ大帝国に着いた。今回はお父様お母様に出迎えられたんだけど、私の姿を確認した途端二人は満足した様子を見せ、会話をしている。
彼らの傍には私を召喚した魔術師のノエルがいるだけで、兄様達はこの場にいない。
両親の二人は私の髪や目をじっくり見ている。
「ほお、アッシュブラウンの髪に琥珀色の瞳か?それが魔法では無く人工で作られたものだとは、信じられないな」
お父様は、私の姿に感心して
「とても良く似合っているわよ!本来の姿が黒髪黒目だったなんて思えないぐらいだわ。それに絶対にばれないわ」
「お父様?お母様?」
二か月ぶりの再会なのだが、二人は髪を染めコンタクトを入れた私の姿に夢中だ。
前あんな事があったと言うのに、また色を変えてるのか?と、思われるようだがリンダがどうしても黒髪黒目ではないイマリが見たいと言いだし、次に会う時に髪を染めカラーコンタクトをすると約束し別れたので、前回の色とは違う物にし、今回この色合いとなっている。
「お父様……さっきから誤魔化すとか、ばれないとか会話が見えないんですけど」
私がおそるおそる聞くと盛り上がっていた二人の動きが止まった。
「そうだったな、イマリの姿に問題が回避出来そうなので思わず喜んでしまっていたな」
お父様が私に向かって話しかけてくれた。
しかし、問題が回避とはどういう事なのだろうか?
「実はな、『華嫁』であるイマリに会わせてほしいと言う申し出がドールア国の王より2か月前に手紙が届いた」
「……へっ?嘘でしょ」
「あともう一つ用件もある為に、ドールア国の王自らエストルダ大帝国に明日、到着する予定らしい。あちらの国の者を数名伴ってな」
ドールア国?聞いた事がないんだけど……って、『華嫁』?私の中ではとっくに無縁のモノになっていたんだけど……。
「無理!!!お父様、どうにかしてそのドールア国の王様の申し出を断って!!!」
勘弁してほしい。何故他国のお偉いさんに会わなければならないんだ?
それも『華嫁』っていう理由が気に入らない!!お父様に懇願すると
「安心しなさい。イマリが髪を染め目の色を変えるレンズをつけてきてくれたおかげで、お前をドールア国王に会わせなくても良さそうになったぞ」
お父様は優しい笑みで私を見つめた。
「『華嫁』のお前は黒髪黒目と噂が広がっている。それにイマリが契約した白竜は変化が数種類できるので竜の姿にならなければ、ばれないだろう。魔法で髪の色を変えていたならば、あちらの国に鋭い者がいれば気取られるが、魔法を使わず髪を染め目の色も変えているので、その姿で『華嫁』とはドールア国の者達は思いもしないだろう。あと『華嫁』は自分の世界に戻っており此処にはいないと伝えておこう」
ふんふんと頷きながら、私は少し気になる事があった。
エストルダ城の中にあるいつも私が利用している部屋の位置だ。
その部屋は王族専用のエリアにある為に、行き来している所を見られたら怪しまれるかもしれない。
それにドールア国の王様がどの位滞在するのか分からないが、その期間は身分が高い人がいるような場所には行けないだろう。
でも、行動を制限されるのは辛いなぁ……、ここでの友人や知り合いと話したいのに。
「お父様、いつも使っている部屋に私みたいなのが寝泊まりしたら怪しいよね?それにその王様がいる間自由動ける場所が限られてくるし、お父様やお母様に兄様方と会えなくなるのも寂しいなぁ……」
私の事を隠すのであれば、普通の娘が王族の人と仲がいいとおかしいと疑ってくるだろう。
「ねぇ?貴方、ドールア国の方々がいらっしゃる間、イマリには侍女としていれば私も自由に逢えるし、イマリも色々動いても大丈夫だと思わない?それに、まさか『華嫁』である女性が侍女の中にいるなんて誰も想像だにしないでしょ?ドールア国の方々が到着するのは明日なのだから、今日中にイマリが『華嫁』で皇女という事を話さないように、城の者に緘口令をしておけば、いいと思わない?」
お母様の提案に私は
「やりたい!!!凄く興味ある!!!」
「給料も払うわよ?」
その言葉に俄然、やる気が出てきた。
今まで、異世界に来た時はセレブらしく、優雅に過ごしていたけど実は色んな事をしてみたかったのだ。
自分が働いたらお金がもらえる!それも侍女で……。
侍女の仕事をしている自分を思い描き興奮をしている私に、お父様が溜息をつきながら
「分かった。イマリがそこまでやりたいのであれば、ドールア国の者がいる間だけ侍女になってばれないようにしなさい。――――――だが、一つだけ条件がある!!」
「お父様?」
「午後の仕事の間のお茶の時間のお茶は必ず私に淹れなさい」
「……ちゃっかりイマリとの時間を作ろうとするなんて貴方だけずるいですわ!!わたしも午前のお茶の時間にイマリに入れてもらいたいわ!!」
どうやら、侍女のお仕事の中に午前はお母様にお茶を淹れ、午後はお父様にお茶を淹れる仕事が決まったようです。
*
――――――あと、息子達を起こすのもイマリのお仕事にしてあげるわね。
お母様がこんな企みを持っていたなんてこの時の私は知る由も無かった。