23話 責任とは?
馬鹿王子とマリアがいなくなった闘技場は騒然としていた。
ルワリスタ国の貴族や馬鹿王子の婚姻式の為に招待された来賓者達も次々起きる展開に困惑していた。
動揺が残るその場を変えたのは、意外にもミシェル君だった。
「皆様!この度王族の見苦しい点をお見せして申し訳ありませんでした。そして、エストルダ皇帝閣下におかれましては、我が国の問題に巻き込んでしまった事を深くお詫び申し上げます」
ミシェル君の謝罪に人々は固唾をのみその場は一気に静かになった。
王子とはいえまだ11歳と幼さの残る顔立ちでありながら謝罪をしたその姿は一人前の大人の雰囲気を醸し出していた。
多分その場にいた者は彼のその姿に、この国の行く末に安堵しただろう。
「君は確かルワリスタ国第二王子だったかな?」
「はい」
お父様がミシェル君に声をかけた。
「私は娘を迎えに来ただけだ。そしてたまたま問題が生じていたので、ついでに解決をしたまでなので君が悔いる事は無い。これからは君が王位継承権を得て次期ルワリスタ国王になるのだから、今回の事を教訓にし前に進めばいい。それと君に伝える事があるのだが、君の父上は我が国の魔術師によって体に入った毒を抜いたので、数日後には回復するだろうから安心しなさい」
「何から何まで本当にありがとうございました!!」
お父様の言葉にミシェル君の表情は明るくなった。
それにしても、お父様の手際の良さに驚いているとミシェル君が何かに気付いたようだった。
「皇帝閣下……ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?イマリさんの事を娘と仰っていたのですが……」
「イマリは私の娘に間違いないが、そういえばイマリが牢屋に入れられた時、君もそこに入っていたんだったな?」
えっ?なんでお父様知っているの?
驚く私をよそにミシェル君は決断した表情を見せたかと思うと
「イマリさんの父親である皇帝閣下にお伝えしないといけない事があります。実は未婚の女性であるイマリさんと同衾をしてしまいました!!せざる得ない状況だったとはいえ僕は嫁入り前のイマリさんの不名誉な事をしてしまったので、僕が彼女の責任を取りたいのですが許して頂けないでしょうか!!」
ミシェル君の言葉にお父様並びにお兄様方の動きが止まった様に思えた。
私といえば、ミシェル君の言葉の意味が理解できずにいると
(……儂がエストルダ大帝国に行っている間に少年とそんな仲になっているとは、イマリもやるのう。それにしてもイマリを嫁にくれとは、イマリはモテモテじゃのう。ふぁぁ…体を変化しここまで飛んできたから眠いのじゃぁ……)
セクトが頭に語りかけてきた後あくびをしていた。
「えっ!!責任とるってそう言う意味なの!?」
ミシェル君が私と同衾をした事で、そこまで考えていた事に驚いた。
やはり異世界の人達と私とは考え方が違うのかもしれない。
まさか11歳の子が(同衾=責任(結婚))と思うなんて知る訳ないじゃない!!!
「……出来れば息子達がいない所で教えて欲しかったのだが」
ミシェル君のみ聞き取れる小さな声でぼそりとお父様が呟いていた。
「……イマリと第二王子が同衾?」
「カイル兄上、同衾ってどういう意味?」
「一つの夜具に一緒に寝る事だよ」
アラン兄様は私を凝視し、ダレンは同衾の意味を知らなかったのかカイル兄様に聞いている。
何故、一斉に兄様達は私を見るの?それに顔がこわいです!!
「済まないが第二王子よ、その言葉を撤回して欲しい。同衾は多分イマリが言いだした事なのだろう?安易に想像できる。それにイマリはその件で不名誉になる事は無いだろう。それをネタに言いだす奴がいれば排除するまでだ」
「ミシェル君も気にしなくていいよ!同衾したぐらいで責任とろうとするなんて真面目すぎだよ。それに9歳も年上の私と結婚なんてミシェル君は嫌でしょう?将来ミシェル君とお似合いの女性がいずれ現れる筈だから、すぐに責任とるなんて軽々しく口に出していっちゃあダメだよ!もし私が悪女だったらどうするの?」
「イマリさんは悪女じゃないです!!僕は本当にイマリさんが……」
少し憂い顔になったミシェル君に私は彼の両手を取った。
「結婚とかの責任は取らなくていいけどお友達になってくれる?牢屋に入れられた期間はミシェル君の存在はとても心強かったし、癒されもしたから今度は牢屋仲間で無く友達として会うのはダメかな?」
お願いするように私はミシェル君の綺麗な水色の瞳を見つめた。
「……はい、また会えるならぜひ友人としてイマリさんに再会したいです」
少し顔を赤らめてミシェル君は頷いてくれた。
――――――美少年の友人ゲット!!!!
私は心の中で小躍りしていた。
「……あれで無自覚なのだからタチが悪いよね?」
「僕もイマリを言いくるめて同衾しよっかな!」
「ダレン!!俺の目の黒い内は絶対そんな事させないからな!!」
「もう、そんな事言ってアラン兄上も羨ましいって思った癖にね」
「決してそんな事など!!」
「……お前達はイマリが絡むと何故感情的になるんだ?落ち着け」
「ラインバード、もうこの国に用がないのなら戻るぞ」
兄様がやいのやいの会話している所をお父様が呆れた声で窘めていた。
オニキスは用が済んだと言わんばかりに勝手に帰ろうとしていた。
半年ぶりとはいえ変わらない兄様達に私は横目で見ながら笑った。
*
色々合ったが私達がエストルダ大帝国に戻ったのは二日後になった。
その間、お父様やお兄様はルワリスタ城で何かしらしていたが、私はルワリスタ国の街へと出かけたり城の中を見学していたので詳細は知らない。
ただ帰国するとき
「言葉通り彼らにやり返したから安心していい」
満面な笑顔のお父様に深く追求できなかった。
今度こそ半年ぶりに戻るエストルダ大帝国に私は楽しみだった。
……余談だがサイラス兄様だけどうしてルワリスタ国に来なかったんだろう?