21話 本物
「ラインバードよ、その娘に聞くだけ無駄ではないか?」
バリトンボイスの落ち着いた声で現在人間の姿のオニキスが、お父様に話しかけていた。
―――オニキスって人間に変身できるの!?お父様は知っている様に見えるけど。
それに『華嫁』は竜と契約をするって……。
私は真珠色の竜を見た。
――――――いやいやいや!!違う…絶対に違う!私はセクトの名前を決めただけでそれ以外は何もしていないもん!!
私は首を振り思い過ごしだ!気の所為だ!と自分に言い聞かせていると
「イ・マ・リ!どうしたのかな?そんなに首を振っていると首が飛んじゃうよ?」
「えええ!!!!ダレンまで!?」
エストルダ大帝国の皇帝のお父様に皇子のアラン兄様カイル兄様……そして4番目のダレンまで、ルワリスタ国に来ていた事に驚いた。
ダレンは磔にされてる私を見上げている。
「もちろん、イマリを助ける為だよ!でも、その前に僕を見て何か気づかない?」
私はダレンに促され彼が着ている衣装に目が釘付けになった。
ちなみにダレンだけ私と同じ年なので呼び捨てだ。
「そ……その恰好は、前回私がプレゼントした『軍服闘神』のメインキャラ早風様のコスプレ!!!!」
私はアッシュブラウンの髪にスカイブルーの瞳であるアニメのキャラ早風様と同じ髪に目の色をしているダレンにネットで軍服をモチーフにしたネイビーブルーのデザインに白と金のラインが入った、私の萌え心ドストライクのカッコイイ衣装を渡したのだ。次会う時に来て見せてねと一言付け加えながら……。
「どう?イマリから見て僕のこの姿は萌える?」
「……想像以上に似合ってます」
ダレンの身長178㎝ぐらいのモデル体型でスラッとしており顔も美形なので、衣装負けする事無くカッコよく着こなしていた。
私の言葉に満足したダレンはパチンと指を弾いた瞬間、私はダレンの腕の中にいた。
ダレンは魔法を使えるので、一瞬で瞬間移動?的な魔法を使ったのだろう。
異世界に召喚されて15年も経てばこんな事ぐらいで驚く私ではない。
「久しぶり!キャラメル色の髪に緑の目の色のイマリも可愛いけど、今は元の色に戻そうね!!」
そう言うや否やダレンはもう一度、指をパチンと鳴らしていた。
その瞬間に周りの声が騒めいた。
私はダレンが現れてからダレンに気を取られ周りの事など気がついていなかったが、皆私達に注目をしていたのだ。
そして、何故かセクトの目が羨ましそうに私とダレンを見ている。
(儂もイマリに抱きしめられたいんじゃ)
その言葉でハッと気がついた私はダレンから離れた。
離れる時、ダレンから『チッ』と舌打ちが聞こえたのは気のせいだろう。
「どうして貴方が黒髪に黒目なってるのよ!!!私を貶める為に自分こそが『華嫁』だとアピールなんかして、そこにいる男と共謀して何を企んでいるの!!」
わなわなと体を震わせながら凄い剣幕でマリアが私を指さしながら責め立ててきた。
彼女の言葉に私はダレンの魔法で髪と目の色が戻った事を理解したのだが、いつ私がマリアを貶めたんだ?
「明らかに白竜がイマリを守護し髪と目の色も元の黒に戻り『華嫁』はイマリだったと証明しているのに、この娘は救いようが無いな。ラインバードよ」
冷めた視線でマリアを見ながらオニキスは溜息をついていた。
「イマリが『華嫁』?」
「だから父上があの時に驚いていたのか」
アラン兄様とカイル兄様は驚いたり考え込んでいるが、オニキスの言葉に一番動揺したのは私だった。
「私は断じて『華嫁』じゃない!!セクトとは契約した覚えないから違うよ!!!」
私は渾身の限り叫んだ。
ここにいる人達に私が『華嫁』とは勘違いされたくないからだ。
絶対にこの状況は私にとってよろしくない!!
(儂は『華嫁』であるイマリの守護者じゃ!契約なら儂に名前を与えた時点で完了したんじゃろ?)
「セクトは黙ってて!!!」
セクトの横やりに思わず突っ込んでいると、お父様が
「白竜と意思が通じ名前を与えている時点で『華嫁』と言っている様なものだぞ?イマリ」
「お父様!私は『華嫁』と言う言葉にいい思い出はないんです!!自分がそれだと言われても困るだけです!」
馬鹿王子は『華嫁』を求め異世界から召喚をしたのだ。
最初それに巻き込まれただけと思っていた私がまさか『華嫁』だったなんてそんな事信じたくないし、それを認めてしまうと、とんでもない事に巻き込まれるんじゃないかと本能的に嫌な予感がするのだ。
チラリと馬鹿王子を見ると驚愕し青ざめた表情の彼と目があった。
私はすぐ視線を逸らした。
今更、そんな顔をしても私は馬鹿王子の事など興味は無いしもう関わりたくない。
お父様は私の馬鹿王子への態度を見ていたのか
「……やはりイマリはこの国で辛い目にあっていたんだな。『華嫁』と認めるのが嫌な程厳しい仕打ちを受けたのならば安心しなさい。私が代わりにお前を苛めた者にやり返してあげよう」
ニコニコと微笑みながらお父様は私の肩に手を置いた。
――――――お父様……目が笑っていません。