20話 華嫁とは
「……イマリさん、エストルダ大帝国の皇子とご兄妹なのですか?」
私は兄様達に近付き話しかけているマリアに落ち着かない気持ちで見ていた。
「イマリさん?」
「あっ、ごめん。何?ミシェル君」
私達は大きな声を出さなくても普通に会話できる距離でいた為、ミシェル君の問いかけにすぐ我に返った。
お互いこんな状況の中でも普通に会話をしている自分に少し笑いがこみ上げてきた。
多分セクトの登場で体の緊張が解けたのだろう。
それにしてもミシェル君は落ち着いているな……と、思っていると
「先程あの方々を兄様と、イマリさんがおっしゃっていたので兄妹かと尋ねたんです。僕はエストルダ大帝国の皇子は4人と聞いていたのですが妹……皇女がいるとはお聞きした事がなかったので……」
「あっ、そうだね……。アラン兄様とカイル兄様がこんな場所にいるとは思わなかったから思わず名前を言っちゃってたね」
私はあははっと、少し乾いた笑みを浮かべながらアラン兄様達の名前を呼んでしまっていた事を思い出した。
それを聞いたミシェル君が不思議に思うのも仕方が無い。
しかし、お父様達から私がエストルダ大帝国の皇女という事を周りには隠した方がいいと言われていた手前ミシェル君に教えてもいいかどうか決めかねていた時に、マリアと馬鹿王子の大声が私の耳に入ってきた。
「私は『華嫁』よ!!!!だってフレディ王子様が召喚した私に『華嫁』だと言ってたもの!!その証拠に黒髪黒目に異世界人が『華嫁』みたいじゃない?見なさい!!私はおとぎ話通り全部ソレを持ち合わせているわ!!!そうでしょ?フレディ王子様!!」
んっ?兄様達はマリアの事を『華嫁』ではないと疑っているの?
まぁ、私も実のところ『華嫁』の事は実際おとぎ話として聞いていたからよく分からないんだよね。
それにしても、チラッと見えたけどカイル兄様……今マリアを突き放したよね?
いつも優しいカイル兄様から想像できない少し乱暴な態度に驚いていると
「私のマリアは本物の『華嫁』だ!!マリアを疑うと言う事は私にも侮辱に値する事なので、例え大帝国の皇子であろうとも私は許さんぞ!!騎士共!!!彼らを取り押さえろ!!!」
逆上した馬鹿王子が兄様達を捕まえようとしている。
兄様逃げて!!!
と、叫ぼうとした瞬間
(……来たみたいじゃの)
セクトが私に話しかけてきた。
誰が?と聞く間もなく黒竜のオニキスが父様を背中に乗せ私の目の前に降り立った。
「お父様?」
いつも穏やかな笑みで私を和ませるお父様の姿では無く、皇帝として威厳ある存在を周りに与えていた。
一瞬だけお父様は私を見て軽く目で合図を送ってきた。
『もう大丈夫だ』
言葉は無いがそんな風に感じ取れた。
私は軽く頷きこれからどんな展開になるか見守る事にした。
まさか、お父様の口から思いもよらない言葉が飛び出すなんて思いもせずに……。
*
「貴殿とはお初にお目にかかる。ルワリスタ国のフレディ王子。私はエストルダ大帝国の皇帝ラインバードと申す」
お父様はひらりとオニキスの背中から地面に着地後、馬鹿王子とは初対面らしく自己紹介をしていた。
馬鹿王子を見れば口が開いたままお父様を凝視している。
お―――い、その顔は馬鹿っぽいぞ!!あっ!中身も馬鹿でした!と、思いながらマリアの方を見てみるとマリアの顔が再び赤くなっている……
―――いや、確かにお父様は美形なのは認めるけど兄様にお父様と気を取られ過ぎてませんか?マリアさんよ。
「何故……エストルダ皇帝直々にこの国に?」
お父様の堂々とした風格に圧倒され雰囲気にのまれたのか馬鹿王子の声は震えている。
「先程、貴殿はその娘を『華嫁』と呼んでいたが、黒髪黒目を持つ異世界人が『華嫁』とは限らない。『華嫁』となる者は必ずある存在が現れ契約をする」
へぇ……。契約ね?
私は他人事の様にお父様の言葉を聞いていた。
お父様はこの場所にいる全員に聞かせる様に大きな声で話している。
「これは『華嫁』が過去に召喚された国の王家のそれも一部の者にしか伝わっていない事なので、貴殿が知らずに黒髪黒目の異世界人を召喚し『華嫁』と勘違いするのも仕方がないだろう。ちょうど他国の者もいる事なので皆に教えよう。『華嫁』が現れる同時期にある存在も必ず現れる。その存在とは……」
お父様はそこで言葉を止め、側にいた黒竜のオニキスに目で合図をしていた。
オニキスはグルッと一声鳴いたかと思えば、突然体が光りだしたのだ。
そして光がおさまったかと思えば、そこには黒竜の姿は無かった。
代わりに黒曜石の様な漆黒の髪は肩まであり瞳は綺麗な碧眼の30代半ばの大人の男性が立っていた。
「『華嫁』には必ず竜が守護する。ここにいるオニキスも500年前に我がエストルダ大帝国に現れた『華嫁』を守護していた竜だ。現在は『華嫁』の血をひく私と契約をしているが……」
お父様はマリアに鋭い目つきで
「娘よ、そなたは自分の事を『華嫁』と言っていたが竜と契約をしたのか?」
……ん?
……お父様
……よく聞こえなかったのですが―――
お父様の言葉に私は身に覚えがあるのは気の所為だろうと思いたかった。




