17話 儀式当日
その頃カイルは牢屋の前に立っていた。
魔術師のノエルとダレンにより、婚姻式当日にある魔法が完成した。
カイル的には早めに完成をさせて欲しかったのだが、事細かく組み合わされた牢屋にかけられた魔法を解除するには、天才と言われた二人ですら解除魔法を作り上げるには時間を要した。
第2皇子のカイルには特殊な体をしている。
自身には魔力は全く無いが魔力を他の者から受け取りそれを放出させる事ができる。
ただ体に魔力を置く事ができるのは数時間のみだが……。
莫大な魔力でも容量はかなりある方だと思う。
弟であり帝国でもトップクラスの魔力を持つダレンの魔力を受け取れる事がその証と言ってもいいだろう。
「欠点と言えば、魔力を使用した後少し体がだるい事かな?」
現在、解除魔法を使用した事で少々倦怠感があるが、可愛い伊万里を助け出す為に身を引き締めるカイルであった。
カイルたっての希望でダレンに直接ルワリスタ国の牢屋がある場所まで転移をしてもらった。
情報を集めている内に、伊万里は牢屋に入れられているが罪人の間という、高貴な身分の者を幽閉する牢屋にいると聞いた。
ルワリスタ国の第一王子には母親違いで10歳下の第二王子がいる。
若干11歳ながらにとても聡明で周りにも人気が高いと言われていたが、父親に毒を盛った疑いをかけられ捕まったらしいが、もしかしたら第二王子と共に伊万里はその牢屋にいるとカイルはそうみている。
牢屋を警護する騎士を軽く手刀で気絶させ奥に進むカイルだったが、途中違和感を感じた。
―――牢屋を守る騎士が少なすぎないか?
その違和感は罪人の間の扉を開いた瞬間に理解した。
余談だがカイルには針一本で鍵を開けられる特技がある。……皇子なのに。
「……イマリがいない。それに第二王子も」
牢屋には人の姿が無かった。
気配すら感じれない事に伊万里は既に違う場所を移され少し時間が経過している事に気がついたカイルは
「嫌な予感が……」
言葉にしながら後ろを振り向くと、そこにいる筈のない男性が立っていた。
「イマリは大丈夫なのか!!!」
焦った様子でカイルに問いかけてきたアランは走ってきたのか少し呼吸が乱れている。
「アラン兄上!!!何故ここに?」
「第一王子が婚姻式の前にある儀式を行うと言っていたんだが、何か嫌な予感がし先ずはイマリを助け出す事に決めてここまで来たんだ」
「儀式!?」
「ああ……。やはりお前の所にも情報がいっていなかったか。で、イマリはその部屋にいたのか?」
カイルは考え込みながらある結論に行きつき返答した。
「いいえ、イマリは別の場所に移された後です。多分兄上の言う儀式の為に……」
カイルの言葉にハッとしたアランは顔を見合わせ
「すぐにその儀式が行われるという場所に向かうぞ!!」
アランは急ぐ様に牢屋から出ようとした所をカイルはがっしり捕まえる様に服を掴み咎める様な口調で
「アラン兄上?僕の言う事を聞かずに勝手に行動した事は全て終わった後に言わせてもらいますね。取りあえず方向音痴の兄上がここまで辿り着いた事は奇跡に近い事ですが、それが続けて起きるとは限りません。ですので兄上は僕の後をついて来てください!!」
「……ああ」
あまりのカイルの迫力に圧倒されたアランはゴクリと唾を飲みこみ頷いた。
―――カイルの説教は無駄に長いから面倒くさいんだよな……。
そんな風に思っているとギロリと睨まれ、ビクッと体が動くアランであった。
兄弟の中で一番怒らせていけないのがカイルという事は他の兄弟の中で暗黙のルールだった。
先ずは騎士を捕まえ儀式が行われるという場所を聞きだす為に二人は牢屋を後にした。
*
誰か夢だと言って……。
伊万里はマリアに自分の処刑宣告という爆弾を落とされてから、気分はずっと沈み滅入っていた。
途中、冗談かもしれないと自分に言い聞かせはしたが此処は異世界で、ルワリスタ国である事からあり得る事だと再び落ち込みそれをこの三日間過ごしてきた。
ミシェル君にはこの事を話していない。
彼を変に心配させたくないし、処刑されるなんておぞましい事を口に出したくないからだ。
そう思っていたのだが、騎士達が処刑当日に牢屋に来た事からその事態は思わぬ方向になっていた。
「ルワリスタ国の第二王子であるミシェル殿下には王の毒殺容疑に国に恐怖をもたらす『まがい者』を召喚した罪でまがい者もろとも火刑となった事を第一王子であるフレディ殿下より刑が下された。本日をもってその刑を遂行させる」
「……兄上、何故ですか?そこまで僕の事がお嫌いだったのですか……」
驚愕な表情を浮かべるミシェル君の目から涙が流れた。
彼のその姿に思わず私はミシェル君の体を抱きしめた。
「まさか、あの馬鹿王子は弟のミシェル君まで殺そうとするなんて……」
私の言葉にミシェル君は
「えっ?イマリさん……。貴方は自分が火刑される事を知っていたのですか?」
「うん、『華嫁』のマリアにね三日前に……。でもミシェル君も一緒だなんて聞いていなかったよ」
震える声で聞いてきた私もつられて少し涙声になっていた。
ミッシェル君も私の背中に手を回してグッと腕に力が入り
「ここ数日イマリさんの様子が少しいつもと違ったのはそれが原因だったんですね?すみません、イマリさんが不安な時に僕は気づかなくて……」
「ミシェル君が謝る事ないよ!!私が話さなかったんだし、現実を受け入る事ができなかったんだから!!」
そんな私達のやり取りに横やりを入れた者がいた。
「お別れはその辺しろ!!時間が無いから処刑場に連れて行く!!」
私達を引き離す様に騎士たちは私達に手首と足に鎖をつけた。
本当に死刑囚の様な扱いで。
*
「そこに繋がれている者達はこの国を破滅に追いやる『まがい者』にその忌みしき者を召喚したこの国の第二王子であった者だ!!我の婚姻式の前にこの者達を火刑を行う」
伊万里達の処刑が行われる場所は普段は闘技場として使用されている場所だ。
周りに客席があり、その中央は地面は土の運動場のトラック位の広さだ。
客席には婚姻式の為に招待された各国の来賓にルワリスタ国の貴族達がいた。
困惑顔をした者が多いが、数人であるが微笑んでいる者もいる。
別の国から招待された来賓の者は静かに事の成り行きを見ている様に思えた。
――――――人間は死の間際になると案外冷静なのね……
私の今の状態は十字架の形をした木の板に両腕と足を縄で括られ磔をされ膝から下は燃えやすくする為に藁が置かれている。
隣には私と同様にミシェル君も磔されていた。
つらつら話している馬鹿王子と横で楽しそうに笑顔を浮かべている馬鹿マリアを私は睨んだ。
すると、それに気づいた馬鹿王子が私を見ながら
「優しい我はせめて最後ぐらいは『まがい者』に温情を与え一言ぐらい話す事を許してやろう」
ムカッ!!!!鼻にかけた様な態度の馬鹿王子に私は
「この馬鹿王子に馬鹿『華嫁』!!!!一生祟ってやるんだから覚えておきなさいよ!!絶対に私達を殺した事を死ぬほど後悔させてやるんだから!!!!!」
私は出来る限り大声で叫んだ。
死ぬ前に絶対この二人に馬鹿と言いたかったのだ。
「へへん!!言ってやったわ。馬鹿がトップのこの国何てすぐに滅びるわよ!!」
私は馬鹿王子を小馬鹿にした様に言った。
その途端、王子は
「火矢を撃て」
いつの間にか騎士たちが矢じりに炎があがった矢を私達に向けていたのだ。
王子の合図を皮切りに火矢が私達を目掛けて放たれた。
――――――私の実の両親に異世界のお父様お母様にお兄様!!先立つ私を許してください!!
覚悟を決めギュッと目を瞑った瞬間ドンと私の近くで何かが降り立った大きな音がした。
……?
火矢が私自身や藁に当たり燃えてだした気配がない。
おそるおそる目を開けた私の前に太陽の光に当たり白く光り輝く物に思わず目を細めながら確認した。
そこには真珠色の鱗を持つ2メートルほどの大きさをした竜が私を守る様に立っていたのであった。