16話 フレディ王子
「ルワリスタ国にようこそ!アラン殿」
にこやかな笑みを浮かべルワリスタ国第一王子であるフレディは、今しがた馬車にて到着したアランを城門まで出て来て出迎えていた。
王子自ら招待客を出迎える事は非常に珍しい事だ。
それほどまでに、フレディ王子にとってエストルダ大帝国という国は重要であった。
―――イマリをこの国に召喚させ牢屋に入れた張本人か……。
アランは軽く王子を一瞥し、内心イマリの事で追及したい気持ちを抑え表面は愛想よく微笑みながら
「お初にお目にかかる。フレディ王子」
手を差しだし握手を求めた。
この行動は王族や貴族の男性同士の一般的な挨拶の礼式だ。
それが初対面の相手や敵対している国の相手であっても、正式な場を設けられた場所では必ずこの様な挨拶が交わされていた。
挨拶を交わした後、アランは本題に入った。
「噂によると、王子の花嫁になる女性は『華嫁』とお聞きしているが、それは真実なのか?」
アランは訝しげに尋ねた。
伊万里の事も重要だが、アランには個人的に『華嫁』に強い思いれがあった為に、目の前にいる王子が召喚した事に憤りを感じていた。
リンダは伊万里には『華嫁』の事はおとぎ話と教えているが、エストルダ大帝国で500年前に実際に起きた出来事である。
その『華嫁』の結婚相手となった王子が後にエストルダ初代皇帝へと即位した。
彼らはラインバードやアラン達にとって先祖に当たる。
その子孫になるアランは王家にしか伝わらない『華嫁』を寝物語として聞いてきた為に、幼い頃から憧れていた。
アランにとって『華嫁』とは、清き尊い存在であったのだ。
それが血の繋がった実の父親に毒を盛り、動けない事をいい事に王の許可も無く『華嫁』を求め召喚させそれにイマリが巻き込まれた事など言語道断。
アランは王子が言う『華嫁』が本当に本物なのか?と疑いを持っていた。
問いかけにフレディ王子は
「ええ……。彼女、マリアは『華嫁』で間違いありません。おとぎ話で語られていますが『華嫁』の特徴である黒髪黒目に美しい容姿、そして何より彼女が異世界人でありこの世界に召喚された事が一番の理由だと言えます」
フレディ王子は相手によって言葉遣いを変えていた為、格上の相手であるアランには丁寧な口調で説明をしていた。
だが、会話の端々に何か引っかかる部分があった。
まるで『華嫁』を手に入れた事でお前達の国などいずれ簡単に手に入れる事が出来る……そんな雰囲気を一瞬だけ出しながら。
その事に気付きながらもアランは
「……そうか。婚姻式の時に『華嫁』を見る事は出来るのか?」
確認するとフレディ王子は
「アラン殿。実は『華嫁』である彼女との婚姻式の前にある儀式を行います。特別にアラン殿専用の来賓席を用意しておりますので、その場所まで別の者に案内をさせますので、その者の後について行って下さい。『華嫁』はその儀式の時に見る事が出来ます。私は儀式と婚姻式の準備がありますのでこの辺で失礼いたします。後ほど儀式の場にてお会いしましょう」
フレディ王子は軽く会釈をしなが、近くに控えていた案内係の騎士を紹介しアランから離れた。
―――儀式?
サッサとフレディ王子が自分から離れたので、アランは確認する間もなかった。
カイルの情報では婚姻式の前に儀式など行うとは聞いていない。
カイルとつながりのあるルワリスタ国の貴族も儀式があると聞かされていなかったのだろうか?
それだったらこちらまで情報が伝わっていなかったのかもしれない。
儀式をすると聞いてからアランは嫌な感じがしていた。
―――案内の騎士をまいてイマリを探しに行った方がいいのではないのか?しかし、カイルには……
アランはこの国に来る直前に交わしたカイルとの会話を思い出していた。
*
「アラン兄上はルワリスタ国に行っても自分からイマリを探さない様に!兄上が勝手に動けばルワリスタ城で迷子になるのがオチです!!兄上は堂々とあちらの第一王子の相手をしていれば僕達が裏で勝手に動くので安心して下さい」
カイルに念押しされた後、ダレンの転移魔法でルワリスタ国のカイルが懇意している貴族の屋敷まで転移し、そこから馬車に乗りルワリスタ城に向かいフレディ王子に会ったのだが、現在カイルに相手をしろと言われたフレディ王子は準備の為にいない。
普段のアランであれば、カイルの言う通り大人しくしていたのだが、儀式の事を聞いてから一番に頭に浮かんだのが伊万里だった。
彼女を早く助け出せと頭の中で訴えているのだ。
カイル達が伊万里を助け出す為に色々画策しているのは知っているが、儀式が始まる前に伊万里を助け出さないと大変な事が起きると予感したアランは自分がこの手で伊万里を助け出そうと決意した。