14話 拝啓 エストルダの家族様
―――エストラルダのお父様お母様そしてお兄様方、現在牢屋の中からですが私は元気です!!
牢屋に入れられ約一週間になっていた。
えっ?もうそんなに経ったの!?と、驚く方もいると思うけど不思議な事に時が経つのは早いよね……。
って、しみじみしている場合じゃなかったんだけど、たまに騎士が様子を見にきたり食事を運んだりと、それ以外はほぼ放置されている状態。
する事なく暇なので一日中ずっとミシェル君と色んな事を聞いたり話した。
「兄上がイマリさんを『まがい者』と呼んでいるのは、昔お伽噺話として伝わっていた悪い魔女の特徴の配色を持っていたからです。現在そのお伽噺話を伝えるのは禁止されていますが、中には偶然耳にしそれを信じている者も少なからずはいるとお聞きした事があります」
ほほう、あの馬鹿王子は私の見た目だけであんなに侮辱した視線を送っていたんだな。
それもお伽噺話に出ていた魔女と髪と目が一緒だったからって単純馬鹿過ぎない?
弟であるミシェル君には絶対第一王子を馬鹿扱いにしている事は言えないので、密かに心の中で愚痴ってみた。
「それにしても、イマリさんは髪と目の色を変えていたなんて僕は驚きです。もし、色を変えずにそのままの姿で召喚されていたら、イマリさんが兄上の『花嫁』になっていたのかもしれません」
ぎゃあああああ!!!!勘弁して!!!!それだけは無い無い無い無い!!
私は首と手で横に振り全身で拒否反応を見せた。
馬鹿王子の花嫁なんて死んでも嫌だし、案外『まがい者』扱いの方がマシだと感じたのは第一王子の性格を少しだけど知っている私がそうなるのは当然の事だといえる。
「でも、就寝の時だけコンタクト?ですか、その時だけに外すのは勿体ないと僕は思います。折角綺麗な黒色の瞳なのにずっと見れないのは残念です。髪も本来なら黒だと聞いていますが、いつか見てみたいものです。黒目黒髪の全てをさらけ出した貴方に……」
ジッと見つめてくるミシェル君の視線は熱い。
えっと……ミシェル君はまだ11歳でしたよね?
すらすら出てくる台詞はお世辞なのかわからないけど、女性を口説いている風に感じるのは私だけでしょうか?
お姉さんはミシェル君の将来がこわいよ……。
女性関係のトラブルに巻き込まれないようにと心配をしてしまう私であった。
そうそう!夜はどうしてるのかって?
ミシェル君と出会った初日にあんな激しい攻防を見せていたけど、勝者は私です。
考えてみてよ?只でさえ寒い牢屋の中なのに毛布一枚でいたいけな美少年を床で寝さすなんて、私の矜持が許せない。
最初はカチンコチンで緊張しているのか顔が真っ赤になっているミシェル君に緊張をほぐす為に、枕を投げてぶつけたりと悪戯を試みた時は、初め呆気にとられ固まっていたミシェル君も応戦する様になったのは2日目の夜から。
彼は王子として育てられてきた為か、枕投げなど低俗な遊びはする事が無かったらしい。
それ以前に、異世界では枕を投げるという発想はなかったらしい。
嘘!!『枕投げ』は修学旅行の夜に友人達といっそう交流を深める最大イベントなのに!!
普段話した事が無いクラスメイトもこれがキッカケで仲良くなると言うのに!!
ただ、その結果騒ぎ過ぎて担任に叱られ廊下にその部屋のメンバー全員正座させられ親交が更に深まると言うおまけ付きなんだけどね!
私もあの頃は若かったよね。
話は脱線してしまったが、そんな触れ合いでミシェル君も慣れた?観念したのか一緒のベッドで休む事になった。
「僕が責任をとればいいだけの事……」
何やらブツブツ言っていたが、その言葉は私の耳に入っていなかった。
牢屋生活はミシェル君のお蔭で気分が沈んだり落ち込んだりする事はなかった。
反対に彼に癒されたりしていた私だったが、いつもの様に騎士が食事を運んで来た時に騎士に
「女、それを食べたらマリア様がお会いしたいと言われているから急げ」
まだ一週間しか経っていないのに、マリアとのやり取りは大分前起きた出来事の様に感じそして久しぶりに聞いた名前に一瞬顔を歪めてしまった。
音沙汰がなかったのに今更何の用なのだろうか?
こちらとしては関わりたくない相手の中の一人だ。
勿論第一王子もその中に含まれている。
結局、騎士に急かされる様にパンとスープを味わう余裕も無く流し込むようにして食べた。
食べ終わったのを確認した騎士は、私の腕を取り牢屋の外に連れ出そうとした所、ミシェル君が
「イマリさんをどこに連れて行くのですか?もし、彼女に手荒な真似をすれば僕は許しません!!」
まだ若いのに男らしさを見せたミシェル君にキュンと、ときめいてしまった。
性格がイケメンな美少年グッドジョブです!!
騎士は相手が王子なのか少し畏まった口調で
「ミシェル殿下、ご安心くださいませ。『華嫁』であるマリア様が彼女に話があるという事でお連れするだけで、用が終われば再びこちらに戻します」
「その言葉を信じていいのですか?」
「……騎士の名にかけて」
「では、彼女に対し丁重に扱いなさい」
ミシェル君に言われた為か私の腕を掴んでいた手が少し緩んだ気がした。
*
「へぇ……貴方にはとってもお似合いの場所ね?」
私は今マリアと対面している。
鉄格子を挟んでだが……。
私が入れられたのは如何にも牢屋です!!という何もない変哲な場所だった。
何故、ミシェル君と過ごしている牢屋にマリアを連れて来なかったのかは謎だ。
だが、やけに満足した表情のマリアに何となく此処に入れられた理由が分かった気がした。
「うふっ、聞いてくれる?私は王子様とね三日後に結婚式を挙げるのよ」
さいでっか……。どうでもいい情報ありがとうございます。
私は無関心を装ってあさって方向を見ていた。
「その日にね、貴方は『まがい者』らしく華々しく終焉を迎えるの!」
「……えっ?」
楽しそうに話すマリアに私は彼女の言っている意味を理解した途端マリアの方を見て、言葉を失った。
彼女は残酷な笑みを浮かべ
「仕方ないよね?貴方がいると、この国が滅びると王子様が言ってるし私もそんな事になれば嫌だもん」
途中からマリアの言葉は入ってこず私は思いだしていた。
数日前にミシェル君に残酷なルワリスタ国のお伽噺話を聞いたのだ。
『まがい者』の魔女は火刑で処刑されたと――――――