13話 まがい者
「グルルッ!!」
「……オニキス?」
動揺した表情を顔に出していたラインバードにオニキスが話しかけているのか鳴き声あげている。
「……そうか。その様な事が起きていたんだな。イマリが――――――」
傍で見ていた皇子達は静かにラインバードとオニキスのやり取りを見ていた。
そして、皇子達はオニキスの頭上にいる真珠色のトカゲにもくぎ付けになっていた。
オニキスが大人しくトカゲを乗せている事自体あり得ない事だったのだ。
竜は誇り高き種族だ。
人間では誰彼も背中に乗せる事はしないし、ましてやトカゲといった違う種類の生き物を頭上に上らせるなどほぼ皆無だ。
それ以前に動物などの生き物が竜に近付く事自体ないのだから。
「皇子達よ、どうやらこのトカゲはルワリスタ国から来たとオニキスが言っている」
「本当ですか!!」
「イマリは?」
「ルワリスタ国から一体どうやって……」
「オニキスはトカゲと会話ができるのか?」
口々に言葉にしながら皇子達はオニキスに詰め寄ろうとすると『グワッ』と、口を開き近付くなと言わんばかりに威嚇しだした。
その模様を見ていたラインバードが皇子達に
「そこにいるトカゲはまだ幼いらしく、私達にイマリの状況を伝える為に、早急にここに来た為に力を使い果たしたそうだ。詳しい事はオニキスを通して私が聞いたので説明する。トカゲは力を回復させるために眠りに入るという事で、オニキスはトカゲに刺激を与えるなと言っているのだ」
ラインバードの説明にトカゲを見れば成程、いつの間にか瞼を閉じ微動せず寝ているトカゲを確認した。
トカゲが力を使い果たし疲れて寝ているのかは傍から見たら全く分からないが。
皇子達は頷きながらもこの時、皆同じ事を考えていただろう。
ラインバードがトカゲを見た瞬間の驚いた表情……それも一瞬だけ。
竜のオニキスとトカゲの関係。
だが、ラインバードを見る限りではその謎についてはこの場では語らないだろう。
もしくはまだその時ではないと言う事か。
「簡潔に言えばイマリは無事だそうだ」
その言葉に皇子達はホッとした顔を見せた。
「だが、『まがい者』扱いで牢屋に入れられている」
しかし、その後に続く言葉にピシッと空気が固まった。
「父上、『まがい者』とは一体どういう事ですか?」
カイルは少し、疑問を感じたのかラインバードに説明を求めた。
『まがい者』
お伽噺の中で華嫁を騙し洞窟に閉じ込めて華嫁に変身し偽って王子と結婚しようとしたまがい者として登場した魔女をさす。
だが、異変に気付いた王子が本物の華嫁を助け出し、まがい者の魔女を火刑で処刑した。
その魔女の特徴が明るい茶色に緑の目をしていたそうだ。
そのお伽噺話はルワリスタ国に伝わっていたが残酷すぎるお伽噺として2代前の王が物語の口伝を廃した筈だったが……。
ルワリスタ国ではキャラメル色に緑の目の者を『まがい者』として差別し、侮辱する者が未だにいるらしい。
「非常に馬鹿馬鹿しい話だが、ルワリスタ国の第一王子はそれを信じているそうだ」
皇子達も歴史の一環としてルワリスタ国について話には聞いた事はあったが、イマリと物語の中の『まがい者』の魔女とはどう考えても違う。
黒髪黒目のイマリでは魔女と全く持つ色が違うからだ。
皆が疑問の中、今まで大人しくしていたリンダが
「私がイマリにカラーリングとカラーコンタクトした姿を次の召喚で来た時に見せてとお願いしてしまってたの」
「イマリは偶然にも魔女と同じ色をして、それで『まがい者』扱いで牢屋に入れられたという訳か!!」
アランは直ぐに察したのか言い当てていた。
ラインバードは軽く頷き再び口を開いた。
「ルワリスタ国の第一王子は『華嫁』を異世界……多分、イマリと同じ世界の者を召喚しているとトカゲから聞いたとオニキスが言っている。……私が思うにその者を『華嫁』とし、第一王子の花嫁にするつもりなのだろう」
「華嫁!?」
「その者は本物なのですか?」
「まさか、ルワリスタ国に現れるなんて……」
「これは、調べる事がまた一つ増えたという事ですね?父上」
最後、確認するようにカイルが聞いてきた。
「そうだ、その『華嫁』の事も詳しい詳細を調べろ。イマリの牢屋入りの原因に、もしや関わっているかもしれん」
「では、早速に父上の指示通りにルワリスタ国の貴族と懇意している者に繋ぎを取ってきます」
カイルが一番最初に動いた。
「ノエル先生と直ちに転移魔法の準備に取り掛かるのでこの場を離れてもいいですか?」
ダレンがラインバードに頭を下げ、ノエルと一緒にこの場を離れた。
「私は何を作れば……」
「サイラス、後程私の執務室に来い。そこで伝える」
「はい!」
サイラスは執務室という言葉でピンと来た。
ラインバードが何かを依頼する時は、大抵紙に図を書き説明するからだ。
サイラス自身も口頭で言われるよりは図で説明してくれた方が技術者としては、ありがたい部分もあった。
「俺はルワリスタ国に入国するまで、時間があるから騎士団の所でも行って訓練でもするか」
アランが颯爽と離れようとすると、ラインバードが呼び止めた。
「お前はルワリスタ国から返事が来るまでは城の外へは外出禁止だ!!」
「父上!それは……」
アランが振り返り抗議をしようとすると、アランの腕をがっしりと取る者がいた。
帝国騎士団副団長のイーニストだ。
アランも183㎝と身長はあるほうだが、イーニストは190㎝のうえに大柄で力持ちの為、アランの腕は動かそうとしてもビクともしなかった。
「アラン団長!!!何回言えば分かってくれるんですか?貴方は極度の方向音痴なんですから、城外に出れば最後、数日は城に戻れないじゃないですか。皇帝閣下はその事を含めて命令されているのを理解して下さい!!」
イーニストは嗜めるようにアランに伝えた。
アランとイーニストは幼い頃から同じ年齢とあって仲がいい。
イーニストが公爵家の三男と身分が高かった事もあり、一緒に過ごす事が増えお互い信頼関係を気づいている。
アランが帝国騎士団の団長に任命された時も後を追う様に副団長になっていた。
イーニストはアランを友人として信頼し皇子として敬い尊敬をしているが、アランの方向音痴に一番巻き込まれているのがイーニストである。
何度アランを求めて森を数日彷徨った事か……。
一番の被害者であるイーニストがアランを外に出ようとするのを阻止するのは至極当然であった。
イーニストに引きずられる様に離れたアランを見ながらラインバードはオニキスとの会話を思い出していた。
―――トカゲが言うには牢屋には第二王子と一緒に入っているそうだが、イマリはその王子との触れ合いをかなり楽しんでいるそうだと……。
イマリの精神状態は良さそうで安心したが、若いとはいえ異性である王子と個室である牢屋に二人っきりとは、息子達には決して言えないな。
もし息子達の耳にこの事が入ると確実に血を見るな……。
ラインバードはこの件について、ばれた時はシラを切る事に決めた。