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私は、兄ではありません。
新野は悩んでいた。いや、悩んでいる。
それは、自分の地球に比べてしまえばちっぽけな人生を彩ってくれるであろう、"自身の思い描く夢"がないということについて。ではない。
それは、大学を卒業してから仕事が見つからず、他人に相談しようものならば「何でもかんでも甘く見すぎていたのだろう。自業自得だ」など扱き下ろされることばかりでどうにも遣る瀬無いこと。でもない。
新野は自宅のリビングで、もっと言えばリビングに置かれたソファの上で悩んでいた。いや、悩んでいる。
目の前に置かれた色違いのソファには新野の兄、一志が座っている。一志は何度も生唾を飲んで、膝の上で拳を握り締めている。更によく見ると彼の体が小刻みに揺れていることが分かるが、新野にはそこまで兄をまじまじと見る趣味などなかったし、今はそんな余裕などなかった。
目の前に座っている、どう見ても兄である一志が、
「京ちゃん、あのね・・・」
― 自身のことを指し、「実は姉である」という発言をしたことについて新野は悩んでいた。いや、悩んでいる。