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序章・始まりの歌

昔々、ある村で、それはとても可愛らしい少女が生まれました。


彼女の瞳は星の煌めきのような綺麗な緋を帯びた銀色で、髪は美しく輝く水晶のように透き通った蒼い銀髪でした。


歌声も他の誰よりも澄み切った清流のように、草原を駆け巡る風のように美しいもので、魔法の力も誰よりも強いものでした。


その為、彼女は『星歌の氷姫』と呼ばれました。




~星歌の氷姫・序章~





―――オリヴィニス大陸の東方に位置し、アハティス内海に位置する小さな村・ファータ。

その村に暮らす人々は皆、白銀の瞳に白の髪、どの一族や人々よりとても白い肌、美しい声を持つネーヴェという一族。

ほんの一握りしかいない少数民族であり、普通の魔女や魔術師よりもかなり高い魔力を持った一族でもあった。

ファータにはある御伽噺が伝わっている。

その噺に登場する少女の事を『聖なる歌姫』として崇めており、16前に産まれた一人の少年・イヴを歌姫の生まれ変わりだとして大切にしている。

村で家族5人で暮らすイヴは御伽噺に出てくる歌姫と同じ髪と瞳の色で、美しい歌声と柔らかいなめらかな白い肌、幼さとあどけなさは残っているが、整った中性的な顔立ちをしており、その為、彼は男の子でありながら少女の名を名乗っていた。

本人にとってはコンプレックスであったが。

「月を喰みし紅き月夜…彼女が謳うは祈りを交えた儚き歌…♪」

井戸で水汲みをしながらイヴは言葉を紡ぐように、小さく歌を謳っていた。

「イヴー!?どこぉー!?」

辺りに響き渡る少女の声。

苦笑しながらイヴは声をはるように、しかし静かに叫ぶ。

「ボクならここだよ」

彼の声を聞いた少女は井戸端に駆け寄る。

雪のような白髪に銀色の瞳の少女は乱れた息を整え、イヴを睨み付けるように目尻を吊り上げる。

「もうっ!クリスがイヴの魔力を感じ取ったから、まさかとは思ったけど…また謳ってたでしょ!」

「う…うん…」

「あまり謳わないの!自分が帝国から狙われている事、分かってるの!?」

彼女の言葉にイヴは俯いた。

彼は村の誰よりも内に秘めた魔力がとても強く膨大なもので、上手くコントロールすることは出来るのだが、歌を謳うと魔力が外に流れ出てしまう為、イヴは謳う事を禁じられていた。

以前、イヴの魔力に感ずいたアルパガス帝国が村近辺を徘徊していた事があった。

「分かってる…よ…もし気づかれたら、皆に迷惑をかける…」

「まったく…明日はイヴの16の祝日なんだからしっかりしてよね!」

少女はくるりと踵をかえす。

「おば様や長には黙っておくわ。早く家に帰りなさい」

「アリエッティ…ボクは」

「いい?あなたは『星歌の氷姫・ルナ』様の生まれ変わりなの。それだけは分かって」

「違う!ボクは…っ!」

アリエッティはイヴが何かを言い出す前に、すぐさまその場を離れた。

彼女の姿が見えなくなると、イヴは表情を暗くし俯く。

「ボクは…氷姫の生まれ変わりなんかじゃ…ないよ…」

微かな呟きは風のさざめきにより掻き消えた。








夜の帳が降り、深淵の闇の中、村には生活の営みの灯りが点々と輝きを放っていた。

自宅に戻ったイヴは家族と共に団欒の時間を送っていた。

「明日でイヴは16か…早いものだな…」

「そうね、あなた」

寄り添うように座るイヴの両親―フリストフォルとテオフィラは微笑みを浮かべながら愛しい息子を見ながら呟く。

「けど、注意はしないとな。イヴはアルパガスに狙われてんだからさ」

「そうね。奴等がイヴを狙っているのは明らかだからね」

イヴの兄姉―レオンとセレナは表情を厳しくしながら語る。

「分かっているわ。けど、折角のお祝いですもの。楽しくいきましょ」

幼児のように笑うテオフィラにレオンは溜め息をついた。

「そう言えば…アルパガスに新しい騎士が入ったらしい。兄妹のな」

「へぇ…兄妹の騎士って珍しいわね。名前は?」

「確か…兄はフローリアン、妹はオクタヴィアと言うらしい。しかも腕はかなりのものらしいぞ」

フリストフォルの言葉にレオンは表情を険しくする。

「明日は警戒しなくちゃな。何が起こるか分からないし…」

同感ね、とセレナは頷いた。

一方イヴはと言うと、悲しげに俯きながら静かに自室へと戻っていった。

キィ…と音をたてて扉が閉まると室内には満月の青白い光が満ち、光の当たらない部屋の片隅は蒼黒い闇が渦巻いていた。

「………………」

黙りこみ、扉に背を凭れるように木の床に座る。

「ボクは…村のみんなが望む星歌の氷姫じゃない…魔力だって…髪と瞳の色だって…ただの偶然なのに…なんで…」

自身にのしかかる重圧に耐えきれず、静かに涙を流した。







―――アルパガス帝国・騎士団の宿舎の一室。

そこには肩にかかるくらいの銀髪に蒼の瞳を持った青年と、長い金髪をうなじ辺りで結わえた紅の瞳を持った少女、長い白髪をポニーテールに結わえた緑の瞳の少女がいた。

「兄様、グラードは明日の明けにネーヴェ族の村を襲うようで、その部隊に我等を入れるようです」

「ネーヴェ族…星歌の氷姫を狙っているのか…」

「そのようです…『エルフェ』『フィニカス』『ドラコス』『ルサルカ』『ディアヴォロス』の『神霊使い』…そして『桜華とフリージスの混血姫』を見つけ出せなかった為故の行動でしょう」

金髪の少女の言葉に青年は表情を険しくする。

アルパガス帝国の王・グラードは悪名高き王として知られ、また、おぞましいな趣味を持った者として知られていた。

アンヘル族が暮らしていた小国・ラピスはグラードによって滅ぼされ、ラピスの王妃・レニア・ティス・ヴァナキアは彼の『コレクション』として東西の塔にある狭い個室に囚われていた。

「それとさ、星歌の氷姫は…前氷姫であるルナのような女の子じゃなくて、成人の域を越えていない男の子だったよ」

「っ!?」

白髪の少女は怪訝そうな表情になる。

「そんな顔しないでよ。あたしはしっかりこの眼で見てきたんだって。あ…でもそいつ、あんまり男らしくなかったな。なんか、可憐な少女みたいな華奢な体躯をして、しかも男が好む清楚な顔立ちだった」

彼女の報告に苦虫を噛み潰したような表情になる青年。

「もし、グラードが知れば、そいつは奴の玩具になるな…奴に犯された少年の数は知れないからな」

「兄様、彼を助けてあげないと…」

「分かってるさ」

青年は白髪の少女に目を向けると彼女は不敵な笑みを見せる。

「あたしを誰だと思ってんの?あたしは神速の使徒でもある『神霊使い・獣神の使徒』だっての」

少女は自身の身長よりも長い柄、刃の大きく鋭い斧槍(ハルバート)を軽々と担ぐと、窓の縁に足をあげる。

「あんた達には助けてもらったからね。約束を守るのがあたし達一族の掟の1つだ」

じゃ、あたしは先いくよ、と軽く手を振る少女は窓から飛び降りて夜の都を駆け抜ける。

彼女が窓から外に出たのを見送ると青年はゆっくりと立ち上がり、金髪の少女と共に部屋を後にした。


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