三題噺 復讐、破滅の道、虎柄
やれやれとため息をつきながら二人について行く。実は同じ教室なのだ。まぁなんでかって言うと俺が4月生まれであいつらが3月生まれなんだよな。まったく親たちはがんばりすぎだろ。
「兄さんおそーい」
こっち振り向いて麗奈が叫んでくる。遅れているっていっても5歩分にもならないような距離だし、そんな叫ぶほど遅れてないんだけどな。
昼休みも終わりかけで、当然廊下にいる人も多い。そんなとこで騒がれたら。あーほら、無駄に注目浴びちゃってるよ。二人はいつも通りの事だからいいかもしれないけどさ俺はこうゆうの嫌いなんだよね。
「わかったからそんなに騒ぐな。」
「はーい!」
ひまわりの様な笑顔の麗奈と何食わぬ顔でいる鈴奈。こいつら遺伝子レベルで同じはずなのになんでこうも違うんだろうな。ま、どうでもいいことか。二人とも可愛いし。
二人が待つところまで駆け寄ると麗奈が俺の腕に絡みついてくる。
「おい、ここは学校だぞ。そうゆうことはやめろ。」
「えーいいじゃん。」
ふてくされた表情で見上げてくる。
っぐ、その上目づかいは反則だろ…
助けを求めるように鈴奈のほうを見る。目が合うと仕方ないですねと言った様子で、麗奈を引き剥がしてくれる。
「邪魔しないでよー」
「ここは学校なんだからそうゆうことはしない。」
「うー。どうせ鈴奈はしたいんだけど恥ずかしくてできなんでしょ。」
「なっ、そんなことありましぇん。」
顔を真っ赤にして否定してるけど、動揺しすぎじゃないか。噛んでるし。
「それに!私たちは兄妹なんですよ。」
「それでも兄さんの事好きだもん。」
「俺も麗奈の事好きだぞ。」
「兄さん!!」
麗奈が抱きついてくる。あ、やっちまった。つい反射的に言ってしまった。
「もちろん鈴奈のことも好きだぞ。」
「―っ!」
鈴奈の普段は白く透き通るような肌が真っ赤に染まって、俯いて黙り込んでしまう。なんか頭から煙が出てきそうな感じだな。
「兄さん?」
ゆっくりと頭を上げた鈴奈の顔には不自然なほど満面の笑みが貼り付けられていた。
あ、やばい。これはシャレにならない。本気で怒ってるときの顔だよ。恥ずかしくて真っ赤になってるもんだったけど、一転して怒りになりましたね。もうこうなったらできることは一つ。
「麗奈。」
「なぁに?兄さん。」
「俺はお前の事を信じている。だからここは任せた。」
「わかった!」
それだけいい残して、この場を麗奈に任せ俺は全力で逃走を開始した。後ろから何やら怒りに満ちた叫びが聞こえてくるが俺も命が惜しいのでそんなの気にしてられない。
やっとの思いで教室までたどり着いく。どうにか逃げ切れたみたいだな。あとは麗奈がうまくやってくれるだろう。
ん?なんか教室も騒がしいな。まぁ鈴奈に比べたらましだろう。
「お前、やる気なのか。」
「ここまで来て引き下がるわけにはいかないんだ。」
扉をあけると教室の中心で何かを話している集団がいた。中心になってるのは予想通りというかさっきの馬鹿二人だ。まわりがそれをあおってる。
「行く先は破滅の道だとわかっているのか。」
「あぁ、わかってる。」
「そうか、なら俺もついて行こう。たとえこの復讐がさらなる復讐を生もうとも…」
「いいのか?」
「当然だろ。なあ皆!」
おお!と全員が腕を突き上げる。
なにこれデジャブ。いやいつものことだから当然か。
「奴がきたぞ!」
俺を見つけた一人が指をさして叫ぶと、そこに固まっていた全員がこちらを向く。
「お前はミスを犯した。それは俺らがやられたままで終わるような奴ではないってことだ!」
「皆の者かかれ!」
それを合図にうおおおお!!という叫び声とともに津波のように押し寄せてくる集団。
俺はため息をつくと突っ込んでくる集団を適当にいなす。別にこいつらは本気でやってるわけじゃないからこうやってやればやられてくれる。
「っく、さすがにやるな。」
「俺らが行くしかないようだな。」
大体の連中が倒れたあと馬鹿二人が俺にゆっくりと近づいてくる。
全くなんなんだよこいつらは。左手で頭を掻くと、とりあえず一人の腹を殴りつける。当然手加減はしましたよ。
「ぐあ!この俺が一撃でやられるとは…」
雑魚敵のようなセリフとともに膝から床に崩れ落ちる。
「さすがにやるな。けど俺は簡単にはやられはしないぞ!」
拳を振り上げ突っ込んでくる最後の馬鹿。僅かに身の危険を感じる。
おいおい、こいつ本気で来てないか?
「死ねぇ!!」
拳をかわし、体制が崩れたところにひざ蹴りをお見舞いしてやる。今度は手加減なしのガチで。
「本気で殴りかかってきてんじゃねーよ。危ないだろ馬鹿。それになんだよその虎柄のシャツ。気持ち悪いわ。」
股間を抑えて動かなくなったソレに言い放つ。
先に倒した馬鹿が起き上がりピクリとも動かないソレの肩を揺らし声をかける。
「おい!大丈夫か!つかさ、つかさーーーーーー!!!!!」
「あれ?そいつ名前あったん?俺はてっきりお前らのこと最初きりのモブキャラA、Bだと思ってたわ。」
「酷いなおい!」
そんなふざけたやりとりをしていたら、ゾクリと寒気が走った。ギギギと音が鳴りそうな壊れた機械のように後ろを振り向く。するとそこには、涙目になっている麗奈と天使のような頬笑みを顔に張り付けた鈴奈がいた。
「あーえっと、なんだ。」
「どうしました兄さん?何かいいわけがあれば聞きますよ?」
その微笑みとは不釣り合いなほど冷たく抑揚のない声が聞こえてくる。
あー今日はいい天気だな。ふっ俺もここまでか…