アイスクリーム
、
「ありがとうございました~」
にっこり笑顔の店員さんに見送られながらあたしと綾ちゃんはコンビニをあとにする。綾ちゃんの大きな手にはたくさんのお菓子とあたしの大好きなオレンジジュースが所狭しと詰め込まれていて重そうだけど、そんなことはおくびにも見せない。いつも鼻をすすりながら抱き着いてくる割には男らしいんだなって思った。
「大丈夫、重くない?」
「重いよ~?誰かさんがハーゲンダッツ2つも買った上にオレンジジュースもちゃっかり2つ買ったから」
「う、ごめん」
まさかちょっとした腹いせに、だなんて言えないしね……。
「まあいいけど。あ、ところでましろ、明後日の土曜日って暇?」
「え?あ、暇だけど」
「ね、二人ででかけない?」
首を傾げて伺う綾ちゃん。
そんな可愛いことされて断れる人っているの?いや、いないでしょ!!
「い、いいよ」
「よかった。孝仁には内緒ね?」
なんでお兄ちゃんに内緒?
まあ綾ちゃんとでお出かけできるならなんでもいっか!
「賄賂は駅前のジャンボパフェね」
「はいはい。全くよく食べる子なんだから」
ポンポンと頭を撫でる綾ちゃんにあたしはほっぺたを膨らませた。あそこのパフェすごく美味しいんだから!生クリームとチョコレートのしみ込んだスポンジ、それにお店自慢のアイスとの相性は計り知れないくらい良いんだよ!?全く綾ちゃんはわかってないんだからっ。
「綾ちゃん、そこのパフェ食べたことないでしょ」
「まあ、あんまり食べないね」
「明後日はきっとそこのパフェの虜になるよ!」
「え~……」
「えーじゃないの!あたしが美味しさを教えてあげるからっ」
「はいはい、ましろは甘いの大好きだからね?」
も~っ!!
綾ちゃんてばバカにしてっ!!
「ただいまぁ」
「あらお帰りなさい。綾稀君もお疲れ様?」
「そんなことないですよ。俺もお菓子食べたかったし」
にっこり笑えばお母さんがうっとりしたように微笑んだ。
「綾稀君、ましろちゃんのお婿さんにならない?」
「はぁ!?」
お母さんなにおっ!!!???
「あぁ、それもいいですね。ましろ俺の嫁になる??」
またしてもぴったりとくっついてあたしの肩を抱き、意地悪な笑みを浮かべて問う綾ちゃんを軽くどついて、あたしは赤くなりながらも反対した。
「あたし、駅前のパフェの良さがわかる人と結婚する!」
「パフェ?」
「どんだけあそこのパフェ好きなんだよ……」
きょとんとした顔のお母さんに、呆れた顔しながらやってきたお兄ちゃん。
お兄ちゃんとも一度パフェ食べに行ったけど良さはわかってもらえなかったんだよなぁ……。
「だって美味しいんだもん。あそこのパフェ……」
綾ちゃんにはあの美味しさわかってもらいたいなぁ。やっぱり好きな人にはわかってもらいたいって、押し付けがましいかな……?
「そんなましろって可愛いよ。女の子っぽくてさ」
ね?ってお兄ちゃんに同意を求めれば、お兄ちゃんも苦笑しつつそうだなって言った。別に無理して同意しなくてもいいのにっ。お兄ちゃんに言われたって嬉しくないし!!……でも綾ちゃんに言われるのは嬉しい、な。でも綾ちゃんは男の子好きだから女の子っぽいって言われても褒められてる気がしないいいいい。
「ほらましろ、早く部屋は入れ。みんなでゲームするぞ」
「え?ゲーム?」
「綾がWi〇持ってきたからやるぞ」
お兄ちゃんの手にはマ〇オカートやらリズ〇天国やらが握られていてそりゃあもう楽しそう。うん、いますぐやりたい!!!
お母さんの後を追いかけてそそくさと部屋に入ろうと思ったけど、先に綾ちゃんにお礼を言おうと振り返れば、お兄ちゃんが綾ちゃんから軽々と荷物をさりげなく受け取ってそのまま台所の方へと向かっっていった。そんな兄ちゃんをなんだか嬉しそうに眺める綾ちゃんがいて胸がズキズキと痛む。
その表情はいつもあたしに見せてくれる優しい眼差しと違って愛おしさが溢れんばかりに出てる。
嗚呼、やっぱり綾ちゃんの心はお兄ちゃんに向いていて、ちっともあたしなんか見てくれてない。
ズキズキと痛む心は増すばかり。
本当にあたしのお婿さんになってくれればいいのに。
あたしは綾ちゃんのお嫁さんになりたいよ……。
(心が、痛い……)
あたしは綾ちゃんから目を離し、一人部屋の中に戻った。
テーブルに置いていたアイスは溶けかけていて、ほんのりと甘いにおいが鼻をくすぐる。
一口食べたアイスクリームはやっぱり甘くて、でも不思議となんだかしょっぱい気がした。