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塹壕勇者の殺戮戦線  作者: 結城 からく


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前編

 豪雨に見舞われる塹壕にて、王国軍の兵士達は泥水の排出に追われていた。

 手分けして働き続ける彼らだったが、指揮官のネーニャを見て固まる。

 正確にはネーニャの背後、下を向いた金髪の男を注視していた。


 周りの兵士が戦闘服を着込む中、男だけは安物のシャツとズボンという出で立ちだった。

 武器は腰に吊るした剣一本のみである。

 銃火器で武装した兵士と比較して、やはり異様な姿だった。

 ずぶ濡れの髪の間から覗く目は赤く、そして深い闇を湛えている。


 男の到来を知った兵士達は、嫌悪感を隠すことなく囁き合う。


「勇者だ」


「世界から神秘を奪った男……」


「王国の恥さらしめ」


 あちこちから聞こえてくる陰口に、ネーニャは思わず顔を顰めた。

 彼女は振り返って男に謝る。


「すみません、マルクさん。事前に指導していたのですが……」


「いや、構わない。彼らの主張は正しい。僕が魔王を殺し、世界の法則を乱したんだ」


 およそ七十年前、勇者マルクは魔王を討伐した。

 世界は平和が訪れると思いきや、待っていたのは神秘の死と文明の破綻だった。

 人類は突如として魔力を失い、同時に魔術を使えなくなってしまった。

 混乱の果てに人々の焦りや怒り、憎しみは頂点に達して世界規模の戦争に発展、今度は人と人が銃で殺し合う時代となった。

 後にすべての魔力や魔術の根源が魔王にあると判明し、勇者マルクを史上最悪の戦犯という汚名を被せられている。


 兵士達の視線を受けながらも、マルクは冷静にネーニャに問う。


「戦況を教えてくれ」


「互いの戦力は拮抗し、塹壕にこもったまま膠着状態が続いています。帝国軍の主戦力は――」


「説明は十分だ。行ってくる」


「詳細な情報はいらないのですか?」


「不要だ。敵軍に突撃して殺しまくる。それ以外に俺の役目はない。違うか」


 マルクが冷めた目で確認すると、ネーニャは気まずそうに「失礼しました」と言った。

 彼女はマルクを塹壕の一角へと招く。

 そこには最低限の手入れを施された銃火器が積み上げられていた。


「王国産の銃の他に、鹵獲武器も揃えてあります。ご自由にお使いください」


「わかった」


 頷いたマルクは、旧式の散弾銃とその予備弾を掴み取り、置いてあったポーチに詰め込んだ。

 そして塹壕の壁をよじ登ると、敵軍を見据えたままネーニャに告げる。


「戦後処理は任せた」


「了解、ご武運を」


 マルクは単騎で駆け出した。

 腰の剣を引き抜いて一直線に突き進んでいく。

 望遠鏡で監視していた帝国軍は、大慌てで迎撃態勢へと移る。


「来たぞ、勇者だ!」


「絶対に近付けるなッ!」


「確実に止めろォ!」


 帝国軍はマルクを狙って攻撃を開始した。

 無数の銃弾と爆撃が容赦なくマルクに降り注ぐ。


 しかし彼は突撃をやめない。

 機関銃で撃たれようと、爆撃で火傷を負っても、地雷で足が吹き飛んでも走り続ける。

 マルクが受けた傷は、いずれも瞬く間に再生し、彼の動きを僅かばかり遅らせる効果しかなかった。


(考えるな。突撃だ。進め。進め。進め)


 魔王を討伐した際、その血を浴びたマルクは不死身となった。

 どれほどの致命傷でも無限に再生し、誰も彼を殺すことができない。

 老化も止まっているため、実年齢が八十歳を超えているにも関わらず、彼の肉体は若者のままである。

 マルクが神秘の独占者と揶揄される要因でもあった。


 やがて帝国軍の領域に辿り着いたマルクは、聖剣で鉄条網を粉砕すると、血と泥水と敵兵に満ちる塹壕に飛び込んだ。

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