暴走超特急・美佳【第8駅】超箱入りお嬢様SNSデビューでスイーツ業界がぷるぷる震撼しましたダァシエリイェス!!
※この作品は暴走超特急です。途中下車はできません。あらかじめご了承ください。
【アナウンス】
発車いたします──この列車は、美佳のスマホ発・ぷるぷる業界行きです。
途中、文明・案件・炎上を経由いたします。
次は──文明交流駅、文明交流駅。
お乗り換えは、紅茶ライン、庶民文化ラインです。
ダァシエリイェス!!
ファストフード店の昼下がり。
美佳はバイト終わりに紅茶を片手に一息ついていた。
その向かいで、優雅に姿勢を正しているのは──西園寺須磨子様。
「こちらが……季節を感じさせるメニューですのね」
「そーそー、期間限定。今しか食べられないやつ」
「まぁ! 庶民の方々も“旬”を愛していらっしゃるのですわね」
須磨子様は紙パックのデザートを手に、目を輝かせた。
チーフは遠巻きにその光景を見つめ、ため息をついた。
「……今日も平和そうでなによりだ……俺の胃以外はな……」
【アナウンス】
次は──おにぎり挑戦駅、おにぎり挑戦駅。
包装にご注意ください、海苔が逃げる場合がございます。
ダァシエリイェス!!
その帰り道、二人はコンビニに立ち寄った。
おにぎりコーナーの前で、須磨子様は立ち止まる。
「まぁ……これが“コンビニのおにぎり”というものですわね」
「うん、そう。海苔パリパリのやつ。めっちゃうまいよ」
須磨子様は、包装の番号を確かめる。
「一……二……三……まぁ、順番まで記してありますのね。親切ですわ」
──ビリッ。
「……まぁっ!? 海苔が逃げましたわ!?」
「すまっち! 一気にいかないと! もたもたしてると逃げるって!」
「まぁ……文明は、速さを求めるのですね……!」
半分だけ貼りついた海苔を眺めながら、須磨子様は小首をかしげた。
「……このような状態でも、頂けるのかしら?」
「うん、もう行っちゃえ!」
美佳が笑うと、須磨子様は覚悟を決めたようにかぶりつく。
「……まぁ……! お箸もお皿も使わずに…!
なんて合理的な文明の叡智……!
そして、美味しゅうございますわ!」
その瞬間、美佳のスマホが反射的に構えられた。
「はい、撮ったー! これ絶対バズるやつ!」
「ばずる……? 何かが爆発いたしますの?」
「違う違う! SNSに上げるってこと!」
「まぁっ、現代の社交界ですのね!」
【アナウンス】
次は──SNS拡散駅、SNS拡散駅。
バズる際は火の元にご注意ください。
ダァシエリイェス!!
その夜──。
動画のタイトルは【お嬢様、初めてのコンビニおにぎり】。
翌朝、美佳のスマホが鳴り止まなかった。
「すまっちぃぃぃ! 再生数十万いってるぅぅぅ!!」
「まぁ! 皆さま、おにぎりを愛してくださったのね!」
チーフは遠くで、静かに胃薬を取り出した。
【アナウンス】
次は──案件到着駅、案件到着駅。
ぷでぃんぐラインとの接続はこの駅です。
ダァシエリイェス!!
数日後、メールが届いた。
件名──《案件のご相談:プリンレビューのお願い》。
「ぷでぃんぐ……ですわね?」
「いや、プリン!」
「まぁ、庶民のぷでぃんぐ……研究いたしますわ!」
撮影現場。
金のスプーンを手に、須磨子様は慎重に“ぷっちん”した。
ぷるん、と揺れるプリンを見つめて、感極まったように呟く。
「……このぷるぷる、まるで文明の震え……!」
カメラマン、吹き出す。
スタッフ、拍手喝采。
チーフ、沈黙。
【アナウンス】
次は──炎上警報駅、炎上警報駅。
コメント欄の混雑にご注意ください。
ダァシエリイェス!!
SNSの波は、須磨子様の予想を遥かに超えていた。
「#ぷるぷる令嬢」「#文明の震え」「#食レポが貴族」──タグがトレンドを独占。
コメント欄には「尊い」「これが本物の上流階級」「文明揺れすぎ」などが飛び交っている。
「すまっち! すごいよ、再生数三百万いってる!」
「まぁ……皆さまも文明の震えを感じ取ってくださったのですわね」
紅茶を啜るその横顔には、優雅な余裕しかない。
だが、嵐は唐突に訪れた。
@sumako_sama_official:
「まぁ、皆さまもぷるぷるを感じてくださいませね♡」
「──だれぇぇぇ!?」
美佳はスマホを両手で掴んで叫んだ。
「すまっち! “須磨子様公式”なんて作ってないから!」
「まぁ……わたくしの“非公認の方”が出現したのですわね。人気者の証ですわ」
「それで済むかぁぁぁっ!!」
コメント欄はさらに沸騰。
《本人降臨!?》《いや偽物でしょ》《どっちでも尊いからOK》──混沌。
チーフが画面を覗き込み、深くため息をついた。
「……SNSって、死後の世界より怖いな……」
胃薬の箱がカランと音を立てた。
そんな騒動のさなか、西園寺家のサロンでは──。
「まあまあ、須磨子が文明を伝えておりますのね!」
「うむ、文明の炎もまた美しい……」
ご母堂とご尊父は、画面の炎上をまるで文化祭の花火のように見つめていた。
「お父様お母様……この炎は、文明の進化の熱ですの」
須磨子様は優雅にスプーンを掲げ、
ぷるぷると揺れるプリンを見つめて微笑んだ。
「文明は、止まりませんわ」
【アナウンス】
次は終点──ぷるぷる業界駅。
お乗り換えは、ゼリー・ヨーグルト・スフレラインです。
本日もご乗車、誠にありがとうございました。
ダァシエリイェス!!
翌朝──。
コンビニの棚からプリンがきれいに消えていた。
『お嬢様のぷるぷる、完売御礼』
「……やっぱ、文明は甘いな」
著者はスイーツ大好きなんで、ハッピープッチ◯プリンでも足りないくらいですw




