お姉様の策略なんて、なんのその!毒舌騎士団長と幸せを掴む公爵令嬢の逆転恋物語
婚約者はわたくしなのに。
わたくしが貴方の婚約者なのに。
王宮の夜会で、姉ミレディーヌを抱き締めている婚約者をわたくしは見てしまった。
フォレスティーナ・エレトス公爵令嬢には婚約者がいる。
このファルド王国の騎士団長であるテレンス・バルド公爵である。
銀の髪に青い瞳の騎士団長は、ファルド王国一の美男だ。
テレンスは、フォレスティーナが17歳の時に、花束を持って求婚してきた。
「私は現在28歳になります。正直に申しましょう。夜会でモテまくって参りました。釣書も山のように貰いました。でも、仕事が忙しくて結婚どころではなくて。私は王国の為にこの命を捧げようと思っております。この度、ファルド国王から騎士団長に任命されました。騎士団長たるもの、いつまでも独身では困ると王太子殿下からお叱りを頂きました。そこで、貴方を私のお相手にと」
フォレスティーナは、
「承知致しました。父に話を持って行って下さいませ。父もこの縁を喜ぶでしょう」
「受け入れて下さるのですね。有難うございます」
真面目そうで、言葉をハキハキと言う彼に好感を持った。
モテまくっていたことは知っている。
デビュタントで父に夜会に連れて行って貰った時に、令嬢に囲まれていた彼を見たから。
しかし、何故、自分なのだろう。
案の定、一つ年上の姉ミレディーヌが怒りまくって、
「何故、フォレスティーナですの。わたくしだって18歳。フォレスティーナより、わたくしの方が美しいですわ。それなのに、姉を差し置いて、何故、フォレスティーナ?」
酷い姉で、フォレスティーナが好ましいと思うタイプの男性を知っているものだから、先回りすることが多々あった。
王立学園でも、ミレディーヌは、フォレスティーナが密かに憧れていた金髪の美男で知られている第二王子ルイスに近寄って、そして見事に付き合ったのだ。
フォレスティーナは茶の髪で緑の瞳の地味な令嬢なのに比べて、ミレディーヌは金髪の青い瞳の美人。
ルイスはミレディーヌにのぼせ上り、婚約する話まで出た。
しかし、ミレディーヌは、
「恐れ多くて、わたくしよりも、もっと素晴らしい方がおりますわ」
と、断ったのだ。
さんざん、ルイスとイチャイチャして、キスまでしていた癖に。
許せない。わたくしはルイス様の事が好きだったのよ。
でも、姉、ミレディーヌとキスをしている姿をみていたら、心が砕けた。
ルイス王子に対する恋心も失ってしまった。
後にルイス王子は女性関係が派手だという事が解った。金遣いも荒くて借金だらけになったので、怒った王太子殿下が使えるお金を制限しているとか。
だから姉は婚約を断ったのであろう。
心に傷を負って、立ち直ろうとした。
自分にプロポーズしてきたテレンスに対して、とても嬉しかった。
真面目そうなテレンス。彼となら婚約してもよいかなと思ったのに。
姉が文句を言ってきたのだ。
フォレスティーナは姉に向かって、
「テレンス様はわたくしに婚約を申し込んだのですわ。お姉様。わたくし、受けようと思っております」
ミレディーヌは怒り狂って、
「わたくしの方が美しいのよ。わたくしが彼と婚約するわ」
「ルイス王子殿下を断って、また、わたくしが好ましいと思った人を盗るのですか?」
「わたくしも好ましいと思ったからよ。婚約を望んで何が悪いというの?」
酷い酷い酷いっ。本当に酷い。
泣きたくなった。
ミレディーヌに負けじと、テレンスとの関係を深めていくことにした。
テレンスはファルド王国の若き騎士団長だ。
忙しい仕事の合間を縫って、会いにきてくれる。
公爵家に来るときは、菓子や薔薇の花を手土産にもってきてくれた。
玄関まで出て、出迎えれば姉が押しのけて。
「まぁこの薔薇、わたくしに?有難うございます」
テレンスはミレディーヌを無視して、フェレスティーナに薔薇の花を手渡して、
「フォレスティーナ。君に買ってきたんだ。赤い薔薇の花は好きだよね」
「ええ、とても好きですわ。有難うございます」
「テラスで一緒に話をしよう」
ミレディーヌが、
「わたくしも一緒に行きますわ」
テレンスはきっぱり、
「用があるのは婚約者フォレスティーナだけで、君には用はない。何故?姉である君の相手までしなくてはならないんだ?」
「わたくしが、貴方と今度、身内になるからですわ。だから交流を深めようと」
「私がまず深めたいのはフォレスティーナだ。君はともかく 邪魔 だ」
「まぁ照れていらっしゃるのね」
「照れてない。ともかく、邪魔だから」
テレンスはそう言って、フォレスティーナにテラスへの案内を頼んだ。
テレンスはフォレスティーナの向かい側に座って、
「君の姉君には困ったものだね。君の姉君の悪名は知っているよ。私はヴァルト王太子殿下とは王立学園で同期でね。王太子殿下は弟君の事をとても心配していた。まああの通り、ルイス殿下は問題だらけの男だから」
そんな問題だらけの男性を見かけだけで好きになった過去の自分を呪いたい。
ルイス殿下はともかく美男だから。
テレンスはにこやかに、微笑んで、
「フォレスティーナの事は、君のデビュタントの時に見かけて、一目惚れしたんだ」
「え?わたくしもテレンス様を見かけましたが、沢山の女性達に囲まれていましたわ。何もわたくしに目を止めなくても」
「若草色のドレスがとても似合っていて、その綺麗な茶の髪に。可憐だと思ったんだ。最近の貴族令嬢達は香水は酷いし、化粧は濃いし、ドレスは派手だし好みじゃない」
フォレスティーナは空いた口がふさがらなかった。
この人は言う言う。ズバズバ言う。
逆に表裏が無い人だと好感が持てた。
テレンスはフォレスティーナに、
「今度、街をデートしよう。私が案内してあげるから、危険は一切ない。騎士団長の婚約者を狙う輩なんぞ、この剣で真っ二つにしてやるから、安心するといいよ」
「有難うございます」
「それで、君の好きな物はなんだ?教えてくれたら、君の好きなデートコースを考える事が出来るから。もっと君の事が知りたい。愛する人の為に、何かをするのが男というものだからね」
「愛する?愛しているのですか?わたくしを」
「正直言って、今は一目惚れの段階で、恋しているよ。もっと君の事を知って、愛していけるといいと思っている」
嬉しかった。
「わたくしも貴方様を愛していきたいですわ」
彼が嬉しそうに微笑んだ。
フォレスティーナは、テレンスとなら良い関係を築いていける。
そう思ったのだ。
それなのに、テレンスは、
王宮の夜会で姉ミレディーヌを抱き締めていたのだ。
若草色のドレスが似合うと言われて、そのドレスでテレンスに誘われて王宮の夜会に出席した。
テレンスは馬車で迎えに来て、フォレスティーナをエスコートしてくれた。
黒一色の夜会用の正装をして、テレンスは嬉しそうにフォレスティーナの手を取り、
「このドレス、とても似合っているね。今度、私からもドレスを贈ろう。君は淡い色が似合うから、薄い桃色のドレスとか水色のドレスとかいいかもしれないね。君自身はどうなんだ?どういう色が好き?」
「わたくしも薄い色が好きなのです。だからこの若草色のドレスはお気に入りですわ」
「解った。一緒にドレスを作りに行こう。そこで君が好きな色や、デザインを決めて、今度、夜会でそのドレスを着用してほしい。そうだ?髪飾りや首飾りもドレスと揃いで作らないとね」
テレンスは嬉しそうに、フォレスティーナに話してくれて。
幸せだった。
今まで派手なミレディーヌの陰に隠れた人生だった。
姉は派手な金髪の青い瞳の美人で。いつも王立学園では目立っていた。
フォレスティーナは後妻の娘だ。
姉とはあまり似ていない。
茶の髪に緑の瞳で、学園でも公爵令嬢ながら目立たなかった。
姉は姉で思うところがあるのだろう。
姉の母が生きていた頃から、父は後妻であるフォレスティーナの母と浮気をしていたのだから。
本当に姉には敵視されてきて。
仲が悪くて。
そんな姉が、テレンスと王宮の廊下で抱き合っているのだ。
テレンスのあの言葉は嘘だったの?
今度、一緒にドレスを作ろうって言ったじゃない?
それなのに何で姉と抱き合っているの?
あまりの衝撃に涙が零れる。
酷い酷い酷いっ。酷すぎる。
その場にフォレスティーナは泣き崩れた。
テレンスがフォレスティーナに気が付いて、こちらを見た。
そして、ミレディーヌを突き飛ばした。
「違うんだ。変な香りがして。頭がぼうっとして」
ミレディーヌはにやりと笑って、
「わたくしの事を好きだと抱き締めてくれたのよ。わたくしと結婚したいって。貴方を婚約者にしたのは間違っているって、熱く愛を囁いてくれたわ」
「違う。この女に‥‥‥」
何を信じたらいいの?
何をっ。
本当にテレンスが言っていることが正しいの?
わたくしはテレンスを信じたい。
テレンスは叫んだ。
「フォレスティーナ。愛している。身の潔白を信じてくれ」
そう言って、テレンスは素っ裸になった。
廊下を通りかかった人達が足を止めてテレンスの素っ裸を見つめている。
ミレディーヌも唖然として見つめている。
勿論、フォレスティーナも、驚いて見つめた。
何故に、素っ裸になった?
テレンスは力説する。
「私の胸に刻まれている模様は、悪を懲らしめる呪文が書かれている」
ミレディーヌに胸を見せて、
「お前が私に何かしたのか?もし、嘘をつくようなら天罰が下る」
胸の模様には、赤い目をした悪魔のような絵が描いてあり、その悪魔の目が輝いた。
ミレディーヌは膝をついて。
「魅了を使いました。香水に強力な魅了薬をっ。申し訳ございませんっ。ですから罰は勘弁してっ」
そう言って震えだした。
どんな罰が下るのだろう。フォレスティーナは怖くなった。
姉ミレディーヌは警備の近衛騎士達に連れていかれた。
テレンスは素っ裸だ。
そして、フォレスティーナは思った。
胸をさらけ出すだけなら、下まで脱がないで。
そう強く思った。
テレンスは近づいて来て、
「魅了薬にやられた。私の落ち度だ。申し訳ない。私はフォレスティーナの事を愛している。いや、これから愛を育てていこうと思っている」
そう言って抱き締められた。
嬉しかったが思った。服を着て下さいと。
姉ミレディーヌは禁止されていた魅了薬を香水に混ぜて使ったという事で、牢に入れられた。魅了薬の使用は国内で禁止されている。
しばらく牢から出てこられないだろう。
テレンスは後日、薔薇の花束を持って、エレトス公爵家を訪ねてきた。
「この間は、裸になってごめん。つい興奮してしまって。胸の模様は、悪魔の形をしているけれども、怖いものではないよ。この悪魔の模様は私の正義の証だ」
「そうですの。わたくしは、再び貴方に会えて嬉しいですわ」
「それでだが、ドレスを作る話の続きをしよう」
そこへ、一人の来客が現れた。
いつの間に庭に入ったのか。
「屑ではないようだな」
「アラフ。久しぶりだな」
勝手に庭に入って来た男は金髪で青い瞳の美男で。
勝手に椅子を持ってきて、同じテーブルに着いて。
フォレスティーナは聞いてみる。
「お知合いですの?」
テレンスはにこやかに、
「こいつとは以前、ちょっと仕事関係でな」
アラフと言う男は勝手に焼き菓子を摘まみながら、
「ああ、魔物討伐関連でな。友達になった。テレンスは口が凄く悪いんだ」
「私は言いたい事はズバズバ言うタイプだ。フォレスティーナの姉君は残念な事になったが、自業自得だな。苦労したんだろう?色々と噂は聞いている。ルイス王子の事が好きだったフォレスティーナの気持ちを踏みにじって、あの女、ルイス王子を誘惑したんだろう?」
「何で、わたくしがルイス王子が好きだったって知っていたんです?大声で言った覚えはありませんわ。胸に秘めていた思いを姉が気が付いて、ルイス王子に接近したまでです」
アラフが笑って、
「その頃から目につけていたんじゃないだろうな。お前、王立学園に潜入していたとか?」
テレンスは慌てて、
「俺は騎士団の仕事で忙しいから、潜入なんてする暇はない。でも‥‥‥フォレスティーナの事はその頃から知っていた。デビュタントの半年前から、ほら、王太子殿下と同期だから、色々と情報は入ってくるんだよ」
「王太子殿下は、わたくしと姉の事を調べていたんですね?」
「ルイス殿下の事で相談を受けていてね。そこで君の事を知ったんだ」
一年前から知っていただなんて。
思わず聞いてみる。
「わたくしは、秀でた美貌がある訳ではありませんわ。若草色のドレスが似合って目を引いたって言っておりましたけれども」
「清楚な感じの君が好きだ。ルイス王子について、相談を受けていた時に君の話が出た。ミレディーヌの妹はとても真面目に勉学に励んでいる女性だと。その頃からとても気になって。デビュタントで見かけた時に、一目ぼれした。私は君の事が‥‥‥ああ、何だか心が燃え上がる。愛しているっ。愛しているよ」
バっと立ち上がって、フォレスティーナは抱き締められた。
そして、何だか視線を感じる。
客がいたのを忘れていた。
アラフはテーブルに肘をついて見上げながら、
「お熱いな。まぁ、幸せになれよ。テレンス」
「ああ、有難う。アラフ。ところで何をしにきたんだ?」
「屑の美男を探しに。お前、美男だからな。どう?今からでもさらってやろうか?」
「誰が変…辺境騎士団なんかに。ところで正式名なんだった?」
「ヴォルフレッド辺境騎士団だ。ああ、誰も覚えてくれない。それじゃ又な」
あの人、何をしにきたのかしら。屑の美男を探しにとか‥‥‥そう言えば、なんか伝説があるわね。変…辺境騎士団が女性を泣かせる屑をさらうとか、実在したのね。
後に、ルイス王子が、変…辺境騎士団に修行に行ったとかいう話を聞いた。
フォレスティーナは思った。
そういえば、ルイス王子、夜会で令嬢二人とイチャイチャしていたわ。
彼は凄い美男だし、さらわれたのかしらと。
かつて思いを寄せた事もあるルイス王子。
彼の外見の美しさだけにドキドキしたけれども、性格はあまりよい話は聞かない。
かつての恋は蓋をして、さっぱり忘れる事にした。
テレンスは今日も遠慮なく令嬢達に惚気と毒を吐く。
夜会で寄って来た令嬢達に、
「私はフォレスティーナ・エレトス公爵令嬢と婚約をした。どうだ?二人で選んだ桃色のドレス。素敵だろう?髪飾りは私が特注した。こだわってこだわって、デザインの詳細までこだわった。サクラという東の国の花をイメージして作った。フォレスティーナの髪に似合っているだろう。首飾り?首飾りは髪飾りとお揃いだ。サクラの花びらを中心に‥‥‥それに比べて君たちはなんだ?何でそんなに真っ赤なドレスを着ているんだ?目がちかちかしてしまうぞ。それにその化粧の濃さは?化粧は薄い方がいい。愛しいフォレスティーナのように」
フォレスティーナは言うなぁと思った。
令嬢達は逃げて行った。
テレンスはフォレスティーナに手を差し伸べて、
「さぁ踊ろうか」
「ええ、踊りましょう」
二人で夜会でダンスを踊る。
フォレスティーナは幸せで。
愛しいテレンスの頬に背伸びしてそっとキスを落とすのであった。