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アズール・アルテミス魔法記録譚  作者: あまね くろ
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第5話 軌道上のエンドコード

ポタポタと地面の色が斑模様に変わってゆく。空からは祝福のように天から雨が降り注いだが称賛を受けるべき勇者に似たものたちはその場から既に姿を消していた。そんな場所にあるのは無様に横に倒れている殺されてしまったキメラとそれをただ単に見つめている学園長である名鳥まゐの姿だった。彼は長くふんわりとした白髪を雨に濡らせていた。そして、そんな2人の背後で傘をさしながらそっと見つめている黒髪の少女もその場にいた。少女は冷めたような視線をキメラとまゐに向けた後、帰路につこうと踵を返した。



「君は何も声をかけなくていいのかな?」

「…別に、何も言うことなんてないよ。」


突然声をかけられたことにより動かしていた足を止めては振り返ることなく少女は小さな声で言葉を綴った。そしてその後は何も言わずに静かにその場を去ってしまった。まゐはそんな少女の後ろ姿を呆然と眺めるように見つめていた。やがて彼女の背が街中に消えるように解けたことを確認すると自身のポケットに入れていた小さなオルゴールを取り出した。小さなネジを丁寧に回すとそれをキメラの元へと置き、その場から立ち上がった。小さな琴線が奏でる音色を耳に残しながらもまゐはそのまま自身のいるべき場所…学園の方へと戻って行った。

1人、取り残されるような形になってしまったキメラの近くにはくるくると小さな人形が踊るように回っている手のひらサイズのオルゴールだけが置かれていた。

一方その頃、保健室の一角ではベッドを囲うように3人の生徒が椅子を置いてその場に座っていた。彼らの視線の先にはベッドに横たわる1人の少年がいた。彼の白い綺麗な髪色はいつの間にか黒色へと変化していた。その様子を見た3人は息を飲みそれぞれが言葉までも飲み込んだ。そんな彼らの様子を1つ後ろに下がってはそっと口を閉ざして見ている者が存在していた。一向に気づかれない上に誰も声を出さない現状の中、その人物はにっこりと頬を緩めてはその閉ざしていた口を開いた。



「実に見事だったよ!」


突然背後から声をかけられたことにより、3人が一斉に肩を揺らし椅子が音を立てた。その反応が面白くてクスクスと思わず笑ってしまっていた。長くふんわりとした白髪に丸く、愛らしさを詰め込んだような青色の瞳。そして、幼児のような低い身長に背後を振り向いた3人が視線に入れた人物が一体誰なのか理解していた。



「学園長、なんでこんなところに?」


ロロが不思議そうに首を少し斜めに傾けるようにして学園長の方をそっと見つめる。すると、見つめられていた学園長はその大きな瞳を細めては微笑むように口元を緩ませた。その表情を見ていたアリアとイデン、ロロは息を飲み緊張感からよるものなのか背中から一粒汗が流れ落ちるのを感じていた。彼の一挙一動に目を奪われたかのように動けずにいるとベッドの方から肌がシーツを擦る音が耳を擽った。その音に期待と不安を寄せながらもロロが後ろを恐る恐る向くとそこにはうっすらと瞼を軽く開き、額に手の甲を乗せたままじっと天井を見つめている紅丸の姿があった。ロロがその様子を不安になりながらそっと見つめていると天井を見上げていた紅丸が口を開き言葉を放った。



「おい、学園長……今回の委託相手って"本当に"死んだのか?」


紅丸の言葉にその場にいた全員が口を閉ざした。場の空気が一気に静まり返り、3人はそれぞれ驚きを隠せずにいた。そんな中で学園長であるまゐだけがにっこりと笑みを浮かべていた。そんな彼の様子を鋭い視線で睨みつけるように紅丸は見つめていた。そんな光景を目の当たりにした3人は各自、何故紅丸がここまで険しい顔をしているのかと考えていたり、学園長はどうして笑っているのかと思考を回していた。そんな生徒たちを見ていたまゐは1度目を閉ざすと瞳を開きながらも言葉を紡いだ。



「紅丸くん、君は流石だね。安心して、彼女は死んでなんかないよ。」


まゐが用意していた答えを明かすようにそう言葉を告げるとアリアとイデン、ロロは目を丸くし、驚いたような表情をしていた。3人共、その少女というのが本当に死んでしまっていると思っていたからだろう。しかし、そんな3人とは裏腹に紅丸だけはどこか納得がいっていないような苛立ちに似た表情を浮かべていた。そんな彼の様子をそっと見ていたアリアは少女が戦線離脱するような状況では無いのに戦闘に参加することは無かったことを知って紅丸自身、自分がその少女に利用されてしまったと思っては、悔しくて仕方がないのでは無いのかという考察を立てた。通常の彼ならばそんな考察を立てないが彼女が戦場に現れなかったこととロロにイデン、紅丸の3人をおすすめするような素振りが見受けられてしまったからだろう。

アリアが3人に声をかける前に、海羽からとある資料を受け取っていた。それは生徒たちに関するファイリングらしく、数百という生徒の中で十数人を選んではそれぞれの性格や能力、戦闘技術に得意分野などこと細かく書かれている資料にはたった3人だけマーカーで記されている人物がいた。今回は時間が無いためパッと見てその3人に決めてしまったが彼女からしたらこの3人を僕に注目させるための手腕に過ぎなかったのかもしれないと思っていると1人の少年の姿が目に入った。彼は考え込むように小難しい顔をしては眉間に皺を寄せていた。



「あ、そうだ。学園長、普段通りの討伐だったら今回もポイント加算されるはずだけど、どうするの?」

「あぁ、その辺についてはもう決定済みだよ。いつも通りそれぞれに1ポイントずつの加算って結果になったんだ。」


まゐの言葉にアリアとイデンは自分の携帯端末を取り出し、互いに各々の所持ポイントを確認した。2人の画面にはしっかりと今回の討伐のポイントが加算されていた。しかし、そんな行動を見ては彼らは一体何をしているのかと理解ができていないと言いたげな目をした紅丸と、目をぱちくりとさせているロロを見かねたまゐは2人を含めた1年生にはまだ説明をしていなかったことを思い出した。



「ごめんね〜。1年生にはまだ説明してないこと忘れてたよ。実はキメラ討伐には貢献度によってポイント数が増えることがあるんだ。原則では1人1ポイント。これはどんな方法であれその討伐に携わった子達はもらえるよ。そして更にその回で重要な役どころを自主的に引き付けた子には追加ポイントで合計2ポイントまでの数値がつくんだ。ちなまに、そのポイントは君たちが普段使ってる端末に記録されるからいつでも見れるよ。あと、そのポイント数で成績が決まることもあるから多ければ多いほど得なんだ。」


まゐの説明を受けながらも紅丸とロロは自分の携帯端末を取り出し画面をじっと見つめながら操作していた。2人は見慣れないアプリを見つけてはそのアプリに触れると端末が手持ちスクリーンのように変わった。そのことに驚きながらも2人は自分たちの所持ポイントを見つめていた。それを離れたところから見ていたアリアは昨年のことを思い出しながらも興味深そうにスクリーンを見つめる2人を遠くから眺めるように見つめていた。



「入学してからまだ2ヶ月も経ってないのにもう22ポイントもあるんだ!流石だよ、紅丸くん!」


アリアとイデンも2人のポイントを見たいものの他人に見せたくない場合を考えた上で見に行かなかったと言うのにまゐの方はズカズカと紅丸とロロの方へと行ってしまった。ましてや、紅丸の所持ポイントを堂々と声に出して言ってしまったことに対してイデンとアリアは内心で冷や汗をかいていた。そんな中で口を開いたのはポイント数を言われていないロロ……では無く、紅丸の方であった。



「おい、学園長。今リザルトを見てたんだが、今回でなんで俺が2ポイントになってるんだ?」

「順当に活躍したからじゃないからかな?最後に首を断ったは君だったし。」

「だとしたらさっきの説明では"バトルで"って言ってるはずだ。それに逆に言えば俺は決定打を打ち込むぐらいしかやってない。」


ベッドの上で寝転んでいた体を上半身だけ起き上がらせては分析をするように呟く紅丸に、彼を見つめながら楽しそうに笑顔を浮かべているまゐを少し離れた場所から見てたたアリアは2人の様子と言葉を聞いてごくりと固唾を飲んだ。



「今回は討伐よりも発見した奴にポイントが行くと踏んだんだが、その考えは違かったか?」


紅丸の吐いた言葉にその場にいた全員がまゐの方へと顔を向けた。それぞれの表情には確かに緊張感が迸っており、誰もが紅丸とまゐの話の真意について知りたがっていた。そんな感情を向けられてしまったまゐは驚くように目を丸くしてからフツと力を抜くようにして笑ったそして、答え合わせを行うため落ち着きのある口調でぽつりと言葉を言葉だした。



「そうだね。紅丸くんの言う通り今回のボーナスポイントは彼女に渡るものだったんだ。しかし、彼女はルールの裏側…またの名をルールの抜け目と言えばいいのかな?それを利用してきたんだ。ポイントの讓渡は原則不可能だがそれ相応の理由がある場合は許諾されるんだ。今回は"発見者よりも討伐者の方がポイントを多く貰うものだ"という正論を言われてしまったんだよ。」

「理由って、本当にそれだけだったんですか?」

「いや、正しくはもっと論理的で長かったよ。でも、間違えのない事実だつたからこれは僕が負けてしまった結論みたいなものだよ。」


まゐから聞いたポイントの讓渡について皆が困惑をしている中イデンは少しでもその事実が嘘であって欲しいと願うように言葉を紡ぎ、まゐに向けて質問をなげかけた。まるで言いくるめをされたような感覚がしてままならないせいなのかとイデンが考えているとまゐは少し悲しそうな声色でそのことが紛れもない事実だと伝えるように言葉を並べた。その言葉を聞いてイデンの方を心配そうに見ていたアリアだが彼の様子が至って普通に近しいことに疑問を覚える。そしてそのまま紅丸へと視線を向けると彼は悔しそうにベッドの上に敷かれたシーツを力強く握っていた。



「そいつの名前ってなんだよ…」

「教えることは出来ないよ。だって君、その子の名前を知ったら探し出して問い詰める気だよね?別にするなとは言わないけど君たちが説得できることはそうそうないよ。彼女に君たちの力では口論で勝てることはないと思うよ。」


まゐの言葉を聞いて口を開いて何かを言おうとするが何も言い返せる言葉が見つからなかったのか悔しそうに唇を噛み締めていた。そんな光景を見ていたアリアは今回は自分に決定権を渡した少女がそんなふうに周りを利用するとは思わなかったと頭を抱えていた。それとも、彼女は元々僕らを試すようなやり方をする気がなかったのかと色々と考えてみるが全く回答に近そうなものが思い浮かばずにいた。そんなことをしているといつの間にか学園長であるまゐの姿はどこかに消えていってしまっていた。


パタリと扉が閉まる音が隣から聞こえる。ようやくと思えばようやくだが短かったと思えば短い時間その場所にいた本人をとある少女は見つめるように扉の方へと視線を寄越した。そんな視線に晒された本人であるまゐは苦笑いを浮かべていた。彼は自分よりも少し背の高い少女を見上げながらも言葉を放った。



「盗み聞きとは、感心しないよ。」

「…どこかの誰かさんがおかしな事を言わないか確認をしに来ただけ。まぁ、お生憎様僕が話術に長けてる嘘つきみたいな言われようだったけどね。」


まゐが小さく笑顔を零しながら小さい子に注意をするような優しい口調で言葉をかけると少女は目を瞑り肺に溜まった空気を吐き出すようにため息をついた。そのまま妬み事を連ねるようにペラペラと言葉を並べた末軽く学園長を睨みつけた。彼女の普段通り何一つ変わらない反抗期の子供のような言い訳を右から左に流しつつも話を続けようとまゐは再び口を開いた。



「そんなつもりはなかったんだよ。でも、君が誰からも勘違いされないようにと思うとね?本来は君もあの場に参加したかったんじゃないのかな?僕からしたらあの場に君がいても何もおかしくないと思うけどね。実力も十分にあるんだから。ね?海羽ちゃん。」


まゐが少女の名前を呼びながら1歩近づいて言葉を告げる。彼が名前を呼んだことに視線を鋭くさせたがこれ以上言っても聞かないということを理解しているのか視線を下に向けながらそっぽを向いた。その行動を見てまゐは海羽自身がなんの事を言われているのかちゃんと自覚しているであろうことをちゃんと分かっていた。彼女はかなりの頭の良さと察し能力があるため全部言わなくても分かってくれると思いながらも受け入れたくないという感情が出ているところに彼女もまだ子供なのだと学生らしさを感じて安心していた。



「単独での戦闘とチームでの戦闘だと勝手だとかが違うし…そんなすぐに即戦力になるほど僕、出来てないんだけど…」

「相変わらず自分のことになると徹底的に卑下するね。でも、クラリスちゃんと一緒の場合はかなり良い戦績を収めてると思うんだけどなぁ?」


彼女のどこか自分に自信の無い様子に普段見せている冷淡でどこか考えの読みにくい雰囲気とは違うなと思ってしまう。脳内でもしかしてとちょっとした考察を立てるがそんなことは無いとその考えを消した。きっと彼女の本性はこっちなのだろうと思い込むことで何とか嫌な予感というものを振り払った。そしてそのまま話題を他のものに変えようと彼女の戦績ついて考えていた。決して悪いとは言えない程の勝率を収めている。つまりは彼女と彼女の隣を高確率で占領しているどちらか、若しくはどちらもかなり優秀ということなのかと思いながらよく隣にいる少女の名前を出していた。その名前を聞いた途端、海羽は肩を軽く揺らして目を丸くしていた。



「…あいつとは付き合いが長いだけ。それに、あいつが勝手について来るだけ…っ…話が終わりなら僕は帰るから。じゃあね。」


名前を出された相手が癪に障るような不満がある人物だったのか視線を鋭くしてまゐの方を睨みつけては言い訳に近しいようなことを零すように呟いた。その言葉を聞いたまゐは慈悲に溢れたような笑みを浮かべる。そんな表情を見た海羽は居心地が悪くなったのか、はたまた別の理由なのか逃げるように去っていった。去り際に残した言葉を聞いてまゐはその少女の正体に確信を得た。そして目を瞑り、口元を歪ませるように笑っていた。



「自分は如何なるリスクも冒さないと言いたげな行動を取るんだね。生憎、さっきの少女は本人のフリをした他の誰かだろうね。まぁ、その時が来たら彼女も本格的に動くだろうね。」


近々、来るであろう未来を予測しては今後一体どうなるのだろうとまゐは楽しそうに笑みを浮かべていた。

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