第3話 ベルベットの覆う空
「レディース アンド ジェントルマン!今宵は私のショーにお集まりしていただき、本当にありがとう!
さーて、今夜の演目はこの私を倒しに来た若手をいかに楽しく解体するか!だね。」
クスリと観客もいない場所で笑顔を浮かべながら司会進行役のように言葉を並べる少女の容姿をしたキメラらしき人物をアリア、イデン、ロロ、紅丸はじっと見つめる。そんなキメラの着用している服装は彼ら4人と同じ、制服であった。しかし、彼らがそれをキメラだと定義させたのは彼女の背後にある同じ制服を着た少年少女が無作為に山積みにされているからだろう。そんな彼らの瞳には生気が宿っておらず全員が殺されてしまっただなんて考えたくもないようなことが頭に過ぎる。
恐らく、目の前の少女はこの学園にいる誰かの姿を模倣しているのだろう。そうアリアは考えながら視線を奥の殺された者たちからキメラの方へと移した。すると視線が合ったのか彼女は嬉しそうににこにこと頬を緩めはじめた。そして、両手を大きく横に広げながら幸せそうに言葉を放った。
その様子を見て4人は各々すぐに動けるように武器を持っていた。
「もう〜!そんな怖い顔しないでよ〜っ!!
あ、それとも私が君たちに情報を渡してくれた律儀な子に死という恐怖を植え付けちゃったのがダメだったのかなぁ?」
4人が一斉に武器を持ったことによる影響かワタワタと両手を横に振りながら焦る様な行動を取り始めたキメラをアリアはじっと見つめる。この行動は相手に自分は無力ですと教えるためか、それとも実際に怖気づいての行動なのかと考えてると彼女は動きをピタリと止めた。そして、何かを考えるように顎に手を当てて悩む素振りをしてから彼女はゆったりとした視線をアリアの方へと向けた。
そんな目の前のキメラと支線が合ったアリアは一瞬、心臓が浮いたかのようにぞわりとした感覚に襲われた。不快感によるものなのかそれとも彼女の中にある考えの危険を自身の危機感知能力が感じ取ったのか、とりあえず何も分からない現在では自分に出来ることは警戒心を強めるだけだと思いながらアリアはそっと動きやすいように左足を半歩後ろに退げた。そんな様子を見ても目の前のキメラは楽しそうに言葉を発することを辞めなかった。ゆったりと嫌によく聞こえる声が鼓膜に張り付くような感覚に耳を塞ぎたくなった時、キメラの声が嫌に大きく聞こえた。恐らく、"律儀な子"とはこのキメラの情報を渡してくれた"彼女"を指しているのだろう。そんな彼女を殺したとも取れるような発言に憎悪や殺意が湧いてくる。しかし、感情に任せてはならないとアリアは自身の感情を落ち着かせようと深呼吸をしながら目の前にいるキメラを見つめていた。
「あっれれ〜?もしかして私の誤算だったのかなぁ?君たち人間って仲間意識がすごく強いから誰かが殺されたらすぐに怒って目の前の敵を倒そうとするような人たちだと思ったんだけどなぁ…?」
不思議そうに自分の顎に軽く手を当てては首を軽く傾げて悩んでいるような素振りを見せる。アリアはそんな少女の様子を見ていると時よりアリアのことをちらりと少女が見ていることに気づいた。見当違いで言葉を出さない僕を不思議に思っているのか、それとも僕を怒らせたいだけなのかと思考を回しつつも分析をしていると目の前のキメラは諦めたようにため息をついた。
「はぁ…君の反応、見ててすごーっくつまんないんだよね……つまらないのは…"イラナイ"と思うんだよねぇ?」
がっかりしたかのように肩を落としたキメラはそのまま目を瞑り言葉を口にした。不要だと言う言葉にアリアは少し不快感を覚えながらもその言葉の続きを黙って聞く。すると目の前の彼女はにんまりと口元を緩めながら細く目を開かせた。僅かに開いた瞼から覗く淡い水色が不気味に映えていることにアリアはぞわりと毛が逆撫でされた感覚に陥った。
不要だと言われることに少し腹を立てながらも目の前のキメラに警戒心を放つ。多分、このキメラは只者じゃないとアリアが思っているとキメラの瞳が少しづつ色が変わっていることに気がついた。薄く光を含んだような水色から血液を連想させる程の鮮やかな赤色に変わった瞳を見てはもしかしたら戦闘能力や基礎能力が上昇しているなどの変化があるかもしれないとその場にいる4人は考えていた。
そんな4人の考えなんて無視をするように少女は緩く緩めていた口元を強く歪ませて笑った。
「じゃあ、不要物ちゃんたちはここで消えてね!!」
少女が声を上げると共に右手を上に掲げた。そして開いていた手のひらを握るとアリアたちの周りに竜巻が出来上がる。風力やその大きさから見て人1人は簡単に飲み込んでしまえそうなものに全員が冷や汗を流した。
そんな中アリアはどうにかしなければ僕が戦闘不能になり足を引っ張ってしまうと思っていた。そんな危機感からか彼は右足に力を込めて集中させる。すると彼が持ち得ている"妖力"が発動した。そのままサッカーボールを蹴りあげるイメージで竜巻を蹴りあげる。するとそれは形を保てなくなり少しづつ崩れていった。残りの3人は無事かと辺りを見渡すと各々が竜巻を破壊したり、竜巻から身を守るために防御魔法を使ったりしていた。
「っ…せ、せめて1人くらい死んでも良かったんじゃないのかなぁ?」
「誰も死ななかったってことはお前の実力がそんなもんだったってことだろ。」
紅丸の言葉にキメラの少女は苦虫を噛み潰したな顔をしていた。そんな少女のことを見つめながら紅丸は攻撃をしようとどこからともなく取りだした剣を取り出し、鞘から刀を抜き取った。そしてそのまま少女に向かって一直線に跳んでいった。その様子を見てはロロが目を丸くしていた。
「死ぬのは…お前だ!」
言葉を放ちながら紅丸はキメラの首を落とそうと切りかかった。かなりの近距離に寄っただなんて思っていたが次の瞬間、少女が口元を緩めて笑っているのがアリアには見えてしまった。その笑みは微笑みなんてものではなく黒く歪んだ笑みだった。もしかしたら彼女はなにか策を持っているのかもしれないと思い声をかけようとしたがそれよりも先に相手に動かれてしまった。紅丸の隣に竜巻が形成されてしまったのだ。さっきよりも遥かに大きさや威力は莫大に増加しており紅丸ですらも対処が難しいかもしれないと頭の中でアリアは分析をしていた。今、僕が動いたとしても距離的にも間に合わないとアリアはそんなことを思い、諦めてしまおうかと視線を落とそうとした時、視界の端で微かに黒色が横切った気がした。そして、それは彼の視線を大きく動かすようにその黒いものを追いかけさせた。その正体はロロであった。彼女は目の前の竜巻に自分が持っていた短剣を突き刺すと自身の魔力をぶつけさせて竜巻を消し炭にしてしまった。
突然の出来事にアリアはついていけていないのか目を丸くしていた。一方でキメラの少女の方は分が悪いことを察してしまったのかイラついた様子を隠すことなく舌打ちをした。
「せっかく…せっかくこの私が殺してあげたのに…!!何邪魔してくれてるのよ!」
ロロの行動にキメラは怒りを顕にしてロロのことを睨みつけていた。その瞳には明確な殺意が篭っており殺気を感じたロロは一瞬ビクリと肩を揺らしつつも短剣を右手に持ちじっとキメラのことを見つめていた。そんな状態を知ったアリアは急いで自身に向けて妖力を使い身体能力を上昇させた。その状態のままキメラに近づき、右足に電気魔法を纏った状態でキメラの胴体を目掛けて蹴りを入れた。
しかし、キメラは彼の足を自身の胸の前で足を掴むことでダメージを受けずに済ませてしまった。バチバチと電気が飛び散る音が耳に入ってはこの状況から逃げないとと危険を察知する。しかし、相手に足を掴まれていたせいか振りほどくのに時間がかかってしまい逃げるのに遅れが生じてしまった。
「アッハハハ!とりあえず1人目もーらい!焼き殺しちゃえ!"リバース・サンダーズ"!」
「っ…!その技は、さっき僕が使った…?!!」
アリアの目の前にいるキメラは自身の手のひらに電気を纏ってはそれを地面に向けて放った。電撃は地を這うように沿い、逃げようとするアリアの方へと真っ直ぐに向かっていった。あと少しで追いつかれてしまうとアリアが焦るように魔法を放とうとした瞬間だった。
誰かの声が聞こえた。
「"ステイルス・フィールド"!!」
アリアが魔法を使うために身構えるように身体を強ばらせていると彼の目の前に半透明の障壁のようなものが張られた。そのことに驚きぺたぺたと障壁に触れてみると独特な感触と魔力をアリアは感じた。もしかして、これはATフィールドに似た結界なのか?と思う。そんなことを思いながらもそっと結界の外の様子を見てみるとそこではバチバチと電撃が音を立てながら結界を突き破ろうとしていた。そのことに驚き魔力を溜めようとした瞬間背後から大声が聞こえた。
「アリア待って!今魔力を使ったら結界が不安定になる。だから、もう少し待って相手の行動に注視しててくれないかな?」
声の主を探すように後ろを見てみるとそこには額に汗を流しながら言葉を並べつつ魔力操作をし、短い白銀の髪を風に靡かせているイデンの姿があった。彼の声色からしてかなり操作をするのは難しいのだろうとアリアは考え、溜めていた魔力を解く。そして彼の言う通りに相手の出方を見ようとキメラの方を見ていた。彼女はキョロキョロと辺りを見渡しているが攻撃をしようとする気配がないことを察した。すると先程の切羽詰まった声色とは違う、少し落ち着いた声色のイデンの声がアリアの耳に入った。
「多分、相手の出方からして僕らに魔法での攻撃を仕掛けさせてからそこで出てきた魔法を真似て反撃にするって戦法だと思う。」
「なるほど、つまりは魔法での攻撃は控えるべきってところになるのかな?」
短時間でイデンがたどり着いた答えにアリアは首を縦に振りながら相槌を打つ。相手の戦法は理解したもののどうやって攻撃をするべきかと頭を悩ませる。先程、魔法ではあるものの物理に魔法をかけただけでも真似をされてしまったから魔法は一切使わない方がいいのだろうと考える。増してや、相手は自分が使ってない技でも魔法の習性を理解して使ってきている気がするなんて思うと尚のこと使えないと思っていた。しかし、そこでアリアはあくまで真似をされたのは"魔法"の方だけであって種族として持っている力である"妖力"の方は真似されることは無かった。もしかしたら真似をできるのは魔法のみなのかもしれないと考えるとアリアは思いついたならば即行動に起こそうと考えていた。再び妖力を足に集中させ視線を前に戻した。目の前には力が無くなってきた電撃が段々と沈静化し、結界が音を立てて割れた。恐らく、イデンが何かを察して魔力を弱めたのだろう。
足に力を入れて駆け抜けるように走る。パラパラと結界の破片が散らかっている様子を横目で見つめる。その奥には竜巻に苦戦を強いられているようなロロと紅丸の様子があった。2人はどうやら物理での対処をしているためまだ魔法での反撃をされていないらしい。しかし、万が一魔法を使ってしまえばと思うと焦りが出てくる。とりあえず急いであのキメラを倒さないとと思いながらアリアは速度を上げた。
目標のキメラまであと1m位まで差し掛かった時、キメラはアリアが至近距離まで近づいてきていたことに気づき目を丸くしていた。驚いたような表情のキメラを視界に入れながらも右足で彼女を蹴りあげようと足を振り上げそのまま相手の左の横腹に向けて蹴りを入れた。
「1回見たものをやられても対処しやすいだけよ…!」
「そうかい?じゃあ…これはどうかな?」
キメラの余裕さを感じられるような言葉を聞いてアリアは頬を軽く緩めた。その笑みは強者の笑みのように余裕さを含めていた。しかしキメラはアリアの右足をきちんと捕まえていたため彼がどうしてここまで余裕そうに笑っていられるのか不思議に思っていた。するとアリアはキメラに掴まれていた右足を捻じる事で相手の腕から脱出させたそのまま自分の元へと戻すとその反動を利用して相手の左横腹を目掛けて蹴りを入れようとする。先程よりも速度がついたため当たればかなりも痛いかもねと思いながらも速度を緩めることなく足を振り上げていた。そのことに途中から気づいたキメラは標的となった左側に結界を張ることで防げたと思い込んでいた。自身にふたつの影がかかるまでは。
「紅一心・流転ノ泳」
一瞬、時が止まったとも思える数秒間が広がる。物音1つしない静かな世界で聞こえたのはその空間に解け落ちるような静かな声だった。微かに殺意を含んだ声色は誰にも拾われることなく落ちて次に聞こえたのは鞘から刀が抜かれる時に聞こえる微かな金属音だった。耳を済ませなければ聞こえないほどの小さな音は不思議なほど大きく耳に届いていた。そんな音色。奏でた本人である白髪の髪を持ち、赤色と黒色の瞳を持った紅丸をアリアはじっと見つめていた。
紅丸は銀色に輝く刃を右の手のひらに収めながらゆったりとした速度でキメラに視線を向けた。そして彼の瞳を見たキメラはピタリと動きを止めた。
「我が名は紅丸。この魔法学園で最強を目指す生徒であり、貴様を倒した敵だ。よく覚えておけ。」
紅丸は自分の名を名乗ると同時に目を瞑りながら刀を鞘に収めた。その場にいた誰もが切っていないのになんで鞘に刀を入れたのか?と考えていたが彼が目を開き鋭い視線でキメラを見つめた瞬間、キメラが立っている地面が瞬く間に赤色に染まっていた。キメラは未だにぽたぽたと赤色の液体をこぼしていた。そのまま赤色が滲み出してしまった腹部を抑えては崩れるようにしゃがみ込んだ。
「その痛みは貴様が殺した奴と同じような痛みだ。存分に味わって死ぬといい」
「クソ…っ、この、私が…こんな……っと、ころで……」
キメラは言葉を放つと力をなくしたのかぐったりとした様子のまま倒れてしまった。そんな様子を見てはアリアはこの戦いが終わったことを理解した。長かったような、短かったような感覚に陥っていると安堵によく似た感情が湧き出てきた。一時はどうなってしまうのかと思ったものの無事に終わってよかったと酷く安心をしていた。今回はイデンのおかげだと思いながら彼らの方へとも向かった瞬間小さく声が聞こえた気がした。しかし気のせいだと思いアリアは無視することにした。
「フッ…コレデ、ボクノ…カチ……」




