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アズール・アルテミス魔法記録譚  作者: あまね くろ
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第2話 プロットコールの音色

「キメラ討伐のために集まったのはいいけど、人数揃ってない?」

「通常の討伐ならこうして集まることもないと思うけど…?」


小さな教室のような場所に集められた3人は口々に文句のようなものを言っていた。最初に人数を気にするような言葉を言ったのはサラリとした黒髪を長く伸ばし、左目をその長い髪で隠したミステリアスを含ませ、あどけない幼さを残した顔立ちの少女…"ロロ"だった。

その次に言葉を発したのは白色の髪を持ち、くすんだ青い瞳をした儚げな雰囲気の少年…"イデン"である。異様な雰囲気に何かを感じとったのか何かを探るような視線をしていた。

そして、差程興味が湧かないのかシラケた視線をこの場に集めた少年の方へと飛ばしてくる黒い髪を持った鬼人の少年…"紅丸"がいる。

そんな光景を見ながらもどうやって話題を広げていこうかと主催者とも言える立場の少年であるアリアは頭を回転させていた。事前に情報を預かっているといえどこの関連の話を言語化させ、相手に分かりやすく伝えるのは至難の業で、僕には少しばかり力量が足りないことを自覚していたからこそ尚更頭を抱える羽目になっていた。



「とりあえず、僕らを集めた理由を聞いてもいいかな?」


この場で1番年上であるが故か、イデンくんがアリアに向けて質問をするような口ぶりで言葉を放った。それに対して彼は普段通り意図の読みずらい笑みを浮かべながら首を縦に振り、頷いた。



「あぁ、もちろんだ。君たちに集まって貰ったのは昨日戦ったキメラを倒すためさ。」


彼がそう言うと先程まで黙り込んでいた紅丸は肩をぴくりと揺らした。しかし、それ以降は何もせずに再びまた黙り込んでしまったのだった。それを見てはこれは話しても大丈夫そうだと察し、話の続きを行おうとアリアは考えていた。



「昨日のキメラってもう討伐済みじゃないの?」


不可思議そうに首を傾げてはアリアを見つめるロロを見ながらどうやって説明しようかと彼は考えていた。先程の行動的にも今の会話は紅丸の耳に入っているため、今多少は話しても問題は特に無さそうだと悟りながらもアリアは本格的に話題を展開させようと口を開いた。



「とある人から聞いた話なんだが、先日倒したキメラはどうやら複製体だったらしいんだ。つまりは、本体がまた別にいると「誰だ、そんな腑抜けたことを言い出したのは」……」


アリアが彼らを集めた理由を語ろうと言葉を口にしていた途中だった。突然、黙りしていた紅丸が口を開いた。しかし、それはいいことなんてものでは無く、怒りを露わにするようにアリアのことを睨みつけながら言葉を口にしていた。

そんな彼を見つめながらもアリアは彼がどうして怒りを表に出したのかと考えていた。あまりにも内容がつまらない物だったのか、それとも先日一苦労だった相手をいきなり"偽物だ"と言ったからなのかと紅丸の心理を探ろうとちらりと彼を見ながらもアリアは思考を回していた。



「おい、聞いているのか?俺は"誰が"そんなことを言ったのかと聞いてるんだ。もし、このまま俺の質問に答えないと言うなら…貴様のことを燃やしてやってもいいんだぞ…」


アリアが黙り込んでいたからか本格的に怒りを表していた紅丸はアリアの胸ぐらを左手で掴みながら自身の顔を近ずかせて言葉を放った。

恐らく、相手に恐怖感を感じ取らせることによって情報を吐かせようという魂胆なのだろうがアリアはその考えを読み取っていたのか普段通りの笑みを浮かべていた。その笑みは一般人では嫌悪感を抱くような恐怖を含ませていた。薄明アリアという存在がいかに不可解で恐怖を含んでいるものか理解したもののそこで引き下がれる程、心身が弱くは無い紅丸はそんな彼に少し驚いたように目を丸くしつつも直ぐに表情を強ばらせて彼を睨む瞳を強めていた。

そんな彼を見つめながらアリアはこのことを打ち明けた本人を示してもいいのかと考えたがすぐさまにその意図は消させることになった。理由としては彼の中でこのことを打ち明け、他人に多く知り渡れば知りわたるほど彼女がキメラに狙われ殺されるリスクが高くなってしまう。もし、その事を理解して上で彼女が僕に話したのならば…僕は彼女の意思を汲み取るべきだと思ってしまっていたからだろう。



「君に話したところで意味なんてないさ。」

「…ぁ"?貴様…ふざけてるのか?」

「僕はふざけてなんていないよ。いたって大真面目だ。」


アリアは紅丸に話す気がないのか事実を隠すように言葉を並べた。そんな彼の姿を見て1度目を大きく開き驚いたような表情をした紅丸だったがそんな表情をすぐさまに戻し右手を強く握りしめていた。アリアの隠そうとする姿にイライラしたのか、それともそれすらも聞き出せない自分にイライラしているのか、怒りを隠せない彼を目の当たりにしながらも更に続けるように言葉を連ねている彼をアリアはじっと見つめていた。

感情の昂り方からして彼の怒りは本質的に僕の性格と合わないことから発生しているのだろうと推測をする。彼は恐らく、自分が納得できない回答が来なければ怒りを抑えられず今のようになってしまう。ならばこの口論にも似たようなものは永遠と続いてしまうのかもしれないとアリアは考察を立てていた。

しかし、そんなことを理解はしつつも一から百まで話してしまった際の危険を軽視できる程の問題ではないと察知をしていたアリアは数十分ほど前からぱたりと連絡が途切れてしまった少女のことを気にかけていた。



「紅丸、ストップ。」


アリアの言葉と言動に本格的に怒りが限界まで達したのか、アリアに向けて攻撃を放つために1度距離を取り、左の腰にかけていた刀に手をかざした。それを見てはアリアの危機察知能力が働いたのかいきなり突き放されたことによる反動から身体をなんとかすぐに動けるような形に戻した。アリアが紅丸の方へと視線をと戻すと突然、ロロが紅丸を止めるように彼の右手を掴んでいた。彼らはじっと互いを見つめ合いながら何か互いの意見を述べているように互いの考えているとことを読み取ろうとしていた。

やがて紅丸が諦めたように刀から手を外すとそれを見たロロは彼の手から手のひらを外した。ロロはその様子を見つめていたアリアの方にゆっくりと視線を向けると彼の方へと歩を進めた。



「今回はあなたの方についてあげた。けれど、あなたを完全に信用したわけではないから。」

「あぁ、それはよく理解しているよ。」


ロロからの忠告にもよく似た言葉を飲み込むように相槌を打ちながら軽く返事をする。隠し事による自分への信頼度の低下だなんて理解している。それがどれだけ周りに自分への主観を操作させるかなんてことも理解していた。それでも言わないという選択肢を取ったのは自分自身だとアリアは思っていた。だからこそ、誰に疑われようが命を狙われようがいいと思っていたのだが、今現在ロロはアリアを守るような、庇うようなことを言ったり行動に起こしたりした。何故彼女はそんなことをしたのだろうと頭を悩ませるが回答が自分の中で出せずモヤモヤを抱えたままそっとこのことを自分の中で終わらせようと考えた。



「話が終わったなら、さっきの続きしてくれないかな?」

「あぁ、すまなかったね。では、続きを話そうか。」


イデンからの指摘に似た言葉を聞き、アリアは首を縦に振った。彼の言う通り、話を続けて情報を少しでも多く渡しておいて損は無いと考える。むしろ戦闘の際に事前知識があるのとないのでは天地ほどの差になる場合が多く通ずる。だからこそ彼の言葉に正当性を強くもてたのだと分析をしながらも周りを見渡す。

彼らの顔ぶれを見てはアリアはそっと、この4人ならば最悪、情報が無しでも普通に戦っていけそうだと思ったが危険はなるべく犯したくないという一心で情報を渡すことにした。



「キメラの特徴は昨日のものと大差ないんだけれども本体の方だけ"変化"が可能らしいんだ。」

「変幻自在…じゃあ、私たちに化けることもできるの?」

「……いや、そこまでは聞いてないかな?」


キメラの特性についてアリアが軽く説明をするとロロが気になった部分に関して質問をする。変化能力と聞き、万が一自分たちに模倣された場合に苦戦すると考えた結果、そこが出来るか出来ないかでも知りたかったのだろう。しかし、そんなロロの思考とは裏腹に返ってきた言葉は不確定なものだった。つまりは最悪の場合は出来ると考えるべきだとロロは考えていた。

そんな彼らのやり取りを残りの2人は呆然と見ていた。片方はアリアに向けて意外とポンコツなのか?と考えたり、もう片方はキメラにしか興味が無いのか話を右から左に流していたりしていた。



「とりあえず作戦についてはどうする?」

「作戦…立てたらそこに拘って足元すくわれるかもしれないから無くていいと思う。」

「分かった。じゃあ、作戦はなしで前衛と後衛だけでも決めとかない?」

「うん。そうしよう。」


イデンとロロが話し合いをしながら今後のキメラと対峙をした時に向けて決めていた。2人ともマメで準備をしっかりとしたいタイプなのだろうか。いや、きっとロロの方は長年暗殺をしていたことによって事前準備の重要性を知っているからこそのことなのだろう。

そんな彼らの話を聞きながらアリアは作戦をあえて立てないという案に酷く賛成をしていた。作戦に囚われて視野が狭くなってしまうのは大変危険だと理解しているからか彼らの選択肢になにも口出しをしなかった。



「ちなみに、僕の能力も戦い方も前線向きだよ」

「私も、前衛の方が戦いやすい」

「俺も後ろよりも前だな」

「え?……僕、後衛なんだけど…?」


前衛と後衛の担当者を決めるために普段自分たちがどの枠をやっているのかというのを調べるのと参考にするために互いが自分たちが後衛と前衛どちらなのか言っていた時だった。最後に戸惑いながらイデンが発言をしたことで3人が一斉にイデンの方へと視線を向けた。そのことにより彼は一瞬驚いたように肩を縦にしていたがすぐさまに通常通りの姿勢を取った。

しかし、いくら態度や見かけを戻しても状況は変わらない。アリアにロロ、紅丸は前衛でイデンだけが後衛という振り分けにイデンは頭を抱えていた。1人で3人もサポートできる保証がないと思いながら3人の方を見る。流石に話がわかるはずだから誰か1人は後衛に回るはずなんて思っていた。

そんなイデンの想いとは裏腹に普段前衛を行っている3人は万が一自分が後衛になったら何も出来ないと思っていたため1人でも後衛がいてくれて良かったと安心していた。そう、彼らは1人でも後衛がいれば自分が後衛をやらなくて済むと思っていたのだった。



「じゃあ、私たち3人が前衛。あなたが後衛だね。」

「……え?なんで僕だけ1人?」


ロロの言葉に思わずイデンはどうして?と聞き返しをしてしまう。3対1はあまりにも無茶すぎるなんて思っていると次はロロが首を傾げていた。まるでイデン以外にその枠に入る人がいることが分からないとでも言いたげな雰囲気にイデンは嫌な予感がしていた。

これはもしかせずとも僕が頷くまで話が進まないやつだと察し始めていた。

そんな中断るなんてことも出来ないイデンは諦めて自分だけが単独で後衛を務めることを飲み込んだ。



「分かったよ。諦めて僕1人で後衛は担当する。でも、あんまり散らかって行動しないでよ。その場合は僕見棄てるから」

「あぁ、なるべく意識して行動しよう。」


ため息をついては諦めたかのように言葉を放ったイデンを見つめながらアリアは彼の言葉を耳に入れた。最初の言葉だけ聞けば普通に優しいと思うのだが最後の発言によりそれが軽減されてしまっているように聞こえるがそれは彼ら3人の我儘と呼べる程の行為による結末論なので仕方がないことなのだろう。


そんなやり取りをしていてると突然、校舎内にチャイムの音色が響き渡った。授業の終了を知らせる軽快なステップを刻むような音とは違うメロディに皆の顔色が一斉に変わりその場の空気が緊張感を含むものになった。

すると、スピーカーから聞き馴染みのある声が流れてきては耳をくすぐった。



「はいハ〜い!キメラが現レたから皆、集合〜!早くシないと……他のせいトにタおされちゃうヨ〜!!」


巫山戯ているとしか思えないような腑抜けた言い方にその場にいた全員が顔を見合わす。彼らの目的とこの放送が繋がっていることが皆理解出来たのだろう。

そして、更には"キメラ"という単語によって彼らはこれから起こることが"討伐"であることも察知できた。

そんな4人は一斉に教室から飛び出すように扉をくぐり抜け別の場所へと向かって行った。



そんな光景を監視カメラの映像で頬杖をつきながらゆったりと見ていた少女はその口元を歪ませて楽しそうに笑顔を浮かべていた。

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