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聖母様の物理学~その3

 雑誌会1日目の夜は杏からなにの連絡もなく、杏の発表が問題なく終わって気楽に飲んでいるのだと思っていた。そもそも雑誌会の様子は明くんの親衛隊への投稿でよくわかったから、特に心配もしていなかった。

 翌日は雑誌会2日目のはずだが、親衛隊の更新は止まってしまった。明くんはスマホの使用を先生にでも見つかったのかもしれない。なぜなら親衛隊のフォロワーには、杏の指導をしてくださっている池田先生をはじめとした教官が何人かいたからだ。


 午後1時近くになって、明くんからダイレクトメッセージがあった。

「バレました」

「誰に?」

「のぞみんとまみちゃんです。多分聖女様にもばれてます」

「怒ってるの?」

「かなり」

「最悪の場合は助けてあげる」

「おねがいします」

 

 その後夕方まで連絡がなかった。

「今から拉致られてきます」

「大丈夫?」

「飲み屋でおごらされるので、命は大丈夫そうです」

「修二くんも呼んだら?」

「修二にも怒られそうです」

「どうせいずればれるよ」

「わかりました。覚悟しました」


 克彦さんはまだ仕事から帰ってきてないのでSNSで明くんのピンチを伝える。

「仁王様はないよな」

 克彦さんの反応は当然のものだった。


 しばらくしたらのぞみちゃんから連絡が来た。

「聖母様ごぶさたしてます。あきらくんがひどいんです。聖女様親衛隊とかつくってたんです。聖母様ご存知でしたか?」

「ごめん、知ってた」

「どういうつもりなんですかね?」

「多分、修二くんを応援したいみたいよ」

「仁王様ってひどくないですか?」

「多分照れ隠しだよ」

「どういうことですか?」

「明くん、のぞみちゃんのこと嫌いじゃないよ。だけどそうも言えないんじゃない?」

「そんなもんですか?」

「多分」


「のぞみちゃんさ、明くんって、修二くんより奥手かもしれないよ」

「そうですか?」

「だって修二くんの気持ち、わかりやすいじゃん。肝心の杏には通じてないけど」

「そうですね」

「明くんは馬鹿っぽく見せてさ、本心は簡単にさらさないタイプだよ」

「それはわかる気がします」


 私は明くんの気持ちは直接聞いて知っていた。のぞみちゃんの気持ちは、のぞみママからなんとなく聞いていた。のぞみママの言うとおりだとすると、この二人も杏と修二くんに負けず劣らずじれったい。もう私はもろにのぞみちゃんに聞いてみることにした。

「のぞみちゃん、明くんのこと好きなの?」

 なかなか返事がない。返事がないということは、そういうことなのだろう。

「のぞみちゃん、わかった。のぞみちゃんの思う通りに行動してれば、きっと大丈夫だよ」

「そうですかね?」

「うん、無理して自分をまげちゃだめだよ」

「わかりました」


 その後明くんからものぞみちゃんからも連絡はなかった。なるようにしかならないと思いながらも、どういうことになるか心配になる。

 

 杏は勉強に関しては一直線だが、如何せん恋愛経験が皆無だ。


 修二くんは誠実な人柄で私は信頼している。だけど誠実すぎて押しが弱い。


 のぞみちゃんは、活発そうな外見と裏腹に繊細な心を持っている。


 明くんは頭脳明晰だが、それを軽薄な行動で押し隠している。

 

 みんないい子だ。

 

 みんな幸せになってほしい。

 

 だけどその幸せは親たちが与えるものではない。

 

 幸せはやっぱり自分の力で掴み取ってほしい。

 

 親の私としては心配で心配でならないけれど、もうあの子達は親がどうこうできる年齢ではない。親の子離れとはこういうことかと思い知らされた。

 

「雪帆さん、雪帆さんが落ち込むことではないよ」

 いつの間にか克彦さんが帰宅していて、スマホを前に考え込む私の横にいた。

「あ、おかえりなさい」

「うん、ただいま。で、どうなった?」

 私はスマホを見せながら、これまでの経緯を説明した。

「なんかお互いのことを思いながら、微妙にすれちがっちゃってるな」

「そうなのよ。不器用なのよ」

「でも雪帆さん、あの子達が自力で解決しなきゃいけないこと、わかってるんでしょう?」

「そうだけど」

「あのさ、自分の娘と、娘の友だちを信じようよ。多少時間がかかっても、回り道をしても、きっと良い結果が出るよ、あの子達」

 私は克彦さんの配偶者で良かったと、改めて思った。

 

 夜結構遅くなって、明くんから電話があった。

「のぞみんファンクラブをやることになりました。なんでも終身会長だそうです」

「終身の意味、わかってるんでしょう?」

「僕は終身でいいんですが、肝心ののぞみんが酔いつぶれてます」

「あ、そ。じゃ、ちゃんと送ってあげるのよ」

「もちろんです」

「変な気おこしちゃだめよ」

「そんなことしたら真美ちゃんに殺されます」

「じゃ、がんばってね」

「ハイ」


 電話を切ると、克彦さんが私を見つめていた。

「明くんね、のぞみんファンクラブの終身会長だって」

「ふーん、じゃ、僕は雪帆さんファンクラブの終身会長だ」

 私は年甲斐もなく、克彦さんに抱きついた。

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