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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
第十章 動き出した魔神

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「あ……ああ、うぅ……」


 どこもかしこも黄金に輝く光の中で、ミルドは頭を抱えてうずくまっていた。


 割れる──自分の頭が実際に割れてしまうのではないかと思えるほどの強い痛みを感じる。だが、何故そこまで痛むのかが分からない。目を閉じても、頭を抱えても、痛みは一向に引かないばかりか、更に酷くなっていくようだ。


「あ……う……あぁぁ」


 痛みのあまり膝をついてしまったミルドは、頭を抱え呻くしかない。


 自分は今、こんな場所にいるべきではないのに。


 一刻も早く、()()()の元へ帰らなければならないのに。


 そんな風に思うも、そう考える思考ごと、激しい頭痛によって全てを塗り替えられていく。


 痛い、痛い、痛い……頭が……割れる………。


「死にそうに痛いだろう?」


 その時、不意に何者かの声がミルドの頭上から降ってきた。


「君のその頭の痛みを、僕だったら取り除いてあげられる。……ううん、僕だけが君を楽にしてあげられるんだ。だから……どうだい? 僕と取引してみないかい?」


 それはまるで、悪魔の囁きのようだった。


 人間からしてみれば、魔性も悪魔も同じようなものに違いないが、魔性であるミルドにとっては、どちらも同じようなもの。否、魔性であるからこそ、彼は自分の能力を過信し、その提案に縋り付いた。


「内容を……話せ……」


 肩で荒い息を吐きながら、ミルドは声の主を促す。


 それを聞き、その提案をした青年は、ニヤリと口角を上げたのだった──。





※※※※





 うまくいった──。


 自分の提案に乗ってきたミルドの言葉を聞き、ルーチェは喜びを抑えきれず、つい上がってしまう口もとを手で覆い隠した。


 氷依を失った時はどうなることかと思ったが、こんなにも早く次の魔性が手に入るとは思ってもみなかった。


 いくら口を隠しても、嬉しすぎてつい笑い声が漏れそうになってしまう。だが、笑ってはいけない。少しでも不信感を抱かれれば、全てが台無しになってしまう可能性があるのだから。


 長い間、ルーチェはミルドを邪魔者として認識してきた。


 自分の言うことを聞かない。他の人間達と違い、思ったように操れない。何度魅了を重ねがけしても、一定以上の効果が表れない──など、思い出せばキリがないほど。


 ミルドだけが異質だった。それ故に理由がずっと分からなかった。


 魔性である氷依でさえルーチェの魅了に惑わされたのに、人間でしかないミルドに魅了の効かない理由が。


 しかしようやく、それが分かった。


 ミルドは単なる魔性であったわけではなく、恐らく能力のある魔性だったのだ。だからこそ魅了がかかりにくく、また、氷依にも正体を突き止められなかったのだろう。


 そうでなければ説明がつかなかった。逆に言えば、そう思うことで今までのミルドに関する全てのことに、納得できる気がした。


「じゃあ……まずは僕の瞳をしっかり見てもらおうかな」


 自分との取引を了承したミルドの顎を掴み、ルーチェはゆっくりと彼の顎を上げさせる。が、何故だか彼は嫌がって顔を逸らした。


「ちょっと……。僕と取引するんじゃなかったの?」


 こんな状態になってまで反抗するのかと、ルーチェは不機嫌も露わに唇を尖らせる。


 せっかく忌々しいミルドを屈服させられたと思ったのに、この男はいつまで抵抗するつもりなのか。


「勘違いするな。私は……内容を話せと言っただけで、取引に応じると言った覚えはない……」

「ふうん……そうなんだ」


 苦し気に紡がれた言葉に、ルーチェは興が削がれたという雰囲気を隠そうともせず、ミルドの顎から手を離す。

 

「……そういう態度に出るんなら、好きにすればいいよ。でも絶対に後悔すると思うけどね。僕との取引に応じなかったことを……」


 言うが早いか、真っ黒に染め上げられた札を手に取り、振り翳した。


 まっさらな札が魔性の魔力を吸収することは過去の経験から分かっていたが、限界まで魔力を吸収し尽くした札を貼り付けた場合、どうなるかはまだ未検証だった。だからこそ、この反抗的な男を屈服させるためにも、実験がわりに試してやろうと考えたのだ。


「僕を怒らせたことに対する罰は、これで許してあげるよっ!」


 そう告げると同時に、ミルドの背へと真っ黒な札を貼り付ける。


「さあ……どうなるかな?」


 ミルドから距離を取り、安全だと思われるところまで避難してから、ルーチェは好奇の目を向けた。


 これまでずっと忌々しい存在だと思っていたミルド。これで最高に彼を苦しめ、それにより自分の溜飲を下げることができるのなら、これ以上のことはない。


 彼の視線の先では、真っ黒な札から漏れ出した黒い靄が、少しずつミルドの全身を包み込むように広がっていた──。










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