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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
第九章 覚醒

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消失

「それじゃあ……剥がすわよ」


 ゴクリと音を立てて唾を飲み込み、今度こそとばかりにラズリは札に手を伸ばす。 


 自分が触れたら、札はまた妙な反応をするかもしれない。先程とはまた違った動きをするかもしれない。


 そう考えると恐怖を捨て切れたわけではないが、女魔性の様子から、一刻の猶予すらないことが伝わってくる。


 自分が躊躇している間に、彼女の命は失われてしまうかもしれない。いや、確実に失われてしまうだろう。


 そうなってしまったら、もう取り返しがつかない。自分のせいで一つの命が失われ、同時に、奏達の天敵ともいえる札の情報も得られなくなってしまう。


 そんなことには、絶対になりたくない。


 私が臆病なせいで奏達を危険にさらすなんて……。


 ラズリはグッと唇を引き締めると、覚悟を決めて氷依の身体から札を引き剥がした! が──。 

 

 その時、予想外の出来事が起こった。


 ラズリが札を氷依の身体から引き剥がした瞬間──なんと、彼女自身が消失してしまったのだ。まるで、札を剥がした事が引き金にでもなったかのように。


「え……っ」


 それはあまりにも一瞬の出来事で。


 故にラズリは、今起きた現実をすぐに受け入れる事ができなかった。


 どうして? 何があったの? あの女魔性は何処へ消えたの?


 何度も瞬きをし、目を擦ってみるも、やはり女魔性の姿はどこにもない。


 どうして? なんで?


 自分は確かに札を剥がした。なのに何故、彼女は消えてしまったのだろうか。


 いくら魔力を吸う根源を排除したからといって、すぐに動けるような状態ではなかったはずなのに、一体どこへ行ってしまったというのだろう。


「奏……あの魔性は、どこへ行ったの?」


 なんとなく答えに予想がつきつつも、ラズリは明確な返答が欲しくて奏に尋ねた。


 彼であれば、自分と違い、あの女魔性がどうなったのか分かるだろうと考えて。


「転移した……という訳ではないのよね?」


 それはある意味、願いにも似た思いだった。


 自分が札を剥がすのが遅かった、なんて思いたくなくて。女魔性は自分の意思で姿を消したのだと思いたくて、口から出た言葉だった。


 けれど、それに対する奏の返事は残酷なものであり。


「あいつは死んだ。恐らく、全ての魔力を札に吸われた事により消失したんだと思う」

「…………!」


 ショックだった。


 辛うじて間に合ったと思っていたのに、ギリギリ間に合わなかったのだ。


 もう一瞬でも早く札を剥がしていれば、救えた命であったかもしれないのに。


「ラズリ……お前が悪いわけじゃない。あそこまで魔力を奪われていた時点で、もう助からなかったかもしれないんだ。だからそんな顔をするな」

「うん……」


 彼女は味方ではなかった。どちらかといえば敵であった。


 それでも、死んで欲しかったわけじゃない。


 できる事なら、あんな憐れな最期は見たくなかった。


 魔性はその命が失われる時、砂のような粒子となって消えるという。その様はとても美しく、この世のものとは思えぬほど幻想的であると、以前聞いた事があった。


 けれどあの女魔性は、その粒子さえも一瞬で札に吸い込まれてしまったかのように、跡形もなく消えてしまったのだ。それはあたかも、転移で姿を消したかのようで。


 そうであれば良いと思った。それならまだ、救えなかった罪悪感がもう少し軽く済んだのに、と。


「だけどお前は、そんな嘘を望まないだろう?」


 まるでラズリの心を読んだかのように、奏が言った。


 自分が女魔性の事を尋ねた時、もし奏が嘘を告げていたら? 自分はきっと信じなかったに違いない。


 どんなに心が受け入れる事を拒否しても、真実は変えられないし、嘘でごまかされるほど、自分は鈍いつもりでもないのだから。


 何故、彼には分かってしまうんだろう? 何故彼はこんなにも、自分を理解してくれるんだろう?


 分からないけれど、彼の腕の中は、もう既にラズリの失いたくない唯一の居場所となっていた。


「奏……あなたは絶対、あんな風に消えないでね」


 だから、願う。心から。


「安心しろよ。俺は滅茶苦茶強いからさ」


 ある意味最強だぜ? 


 と微笑んだ彼に。


 救われた、ような気がした。

 


 











 


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