頑固親父
「だったら、あの人はこのまま……?」
死んでしまうの? とは、言えなかった。
そんな残酷なこと、口にするのも嫌だったから。
けれど奏は、そんなラズリとは違いなんの感情も抱いてはいないようで、「だろうな」と一言だけ言った後、女魔性から目を逸らした。まるで、自分は彼女と関わるつもりはない、死ぬなら勝手に死ねば良い、とでも言っているかのように──。
「そんな……そんなことって……」
女魔性を見つめながら、ラズリは思わず呟く。
たとえ敵であろうとも、彼女はまだ生きている。瀕死の状態で自分達の前に現れたのも、助けを求めてのことだったのかもしれない。
なのにこのまま見捨てるしかないのだろうか? 今こうしている間にも、彼女の命は刻一刻と消えかかっているというのに。
何も──本当に何もしてあげられることはないのだろうか? 彼女を見捨てること以外には、何も──。
「ん……?」
その時、ラズリの肩に大人しく止まっていたカラスが、不意にそこから飛び降りた。
そのまま女魔性のすぐ側に着地し、ツンツンと──実際は触れていないが──身体をつつくようにする。
「どうかしたの……?」
不思議に思って近づ──こうとしたのだが、ラズリのその行為はまたも奏によって阻まれてしまった。
「だから、危ないから近づくなって言ってんだろ⁉︎」
まるで〝通せんぼ”をするかのように、彼はラズリと女魔性の間にズイ、と身体を割り込ませてくる。
「だけどカラスが!」
なんとか奏を躱そうとラズリは声を上げるも、彼は全く聞く耳を持ってはくれない。
「そのカラスが本当にお前の味方かどうか、確信が持てるまでは駄目だ。もしかしたらお前を騙して、そこの女に近づけるのが目的かもしれないしな」
「はあ⁉︎ そんなわけないでしょ⁉︎」
一体どうしたら、そんな考えになるというのか。
自分の体内から出てきた謎の黒い靄と、王宮騎士達と一緒にいた女魔性が、繋がっているはずなどないというのに。
そもそも両者が繋がっているというのなら、もっと早くに行動に移していたはずだ。今更動く意味が分からない。
それに、命を失いかけている今の状況で、女魔性ができることなど限られているように思えた。
「ねえ、奏──」
「駄目だ」
自分の考えを奏に伝えようとするも、何かをいう前に遮られ、一歩たりとも女魔性に近寄らせてはくれない。
もう少しぐらい話を聞いてくれても良いのに、頑固親父みたいでなんだか腹立つわね……。
取り付く島もない彼の態度に、若干ラズリがムッとしていると──思わぬところから助け舟が出された。
「……そこまで頑なに拒否しなくとも、よろしいのではありませんか?」
「闇‼︎」
あまりにも無口すぎて正直存在を忘れていたが、予想外に援護してもらい、ラズリの表情がパッと輝く。
「だよね、そうだよね。少しぐらい私の話を聞いたって罰は当たらないよね」
「いやだから、俺は罰が当たるとか当たらないとか、そういった話をしているわけじゃなくてだな……」
ラズリの言葉に、奏が呆れたように大きなため息を吐く。その瞬間、彼の瞳が閉じられたのをラズリは見逃さなかった。
隙あり!
サッと奏の脇をすり抜け女魔性の側へ行き、カラスがつついている部分を凝視する。
「あ、こら、ラズリ!」
慌てた奏が咄嗟に引き離そうとするも、女魔性の身体に見慣れない物を見つけて、ラズリは眉間にしわを寄せた。




