我儘
「諸々の使い勝手を考えて、取り敢えずはカラスのままで良いんじゃないでしょうか」
険悪な雰囲気で睨み合う奏と黒猫の様子を呆れたように見つつ、闇がため息と共にそう口にする。
「カラスでしたら肩にとまることも出来ますし、咄嗟に飛ぶことも出来るので汎用性が高いかと。その他の生き物にしておいて、その場その場で変化させて使うことも可能でしょうが……どうもラズリ殿には、そういった使い方は向かないような気がしますので」
「あはは……すいません」
出会ってまだそれほど時間が経っていないというのに、自分の資質を見極め、助言をしてくれる闇に、ラズリは苦笑するしかない。
一体何をどうしたら、こんな風に人を見る目が養えるのだろうか。絶対無理だとは思うけど、出来ることなら教えて欲しい。
「それで……えっと、具体的に私はどうしたら良いのかな」
黒い塊をカラスに変えて連れ回すだけでいいの?
言外に問えば、「ひとまずそれで良いのでは?」と、あっさりとした言葉が返された。
「でもそれで……それだけで、私は奏の力になれる? 足手纏いになったりしない?」
最初は、頼るばかりの自分は奏に愛想を尽かされたのだと思った。だから強くなりたいと思った。
けれど実際は、自分の知らないところで奏が誰かに狙われていたと知り、守られているだけじゃ駄目なんだと思い直した。自分は人間で何の力もないけれど、それでも何か一つぐらいは奏のためにしてあげられることがあるんじゃないかと。
だから、力を求めた。
誰かを傷付けるための力じゃない。傷付けずにすむための力を──。
「だ~いじょうぶ。ラズリは俺の隣にいてくれるだけで、十分俺の力になってるから」
笑顔で奏は言ってくれるが、そういうことじゃないのだ、自分の言いたいことは。
だから、ラズリは言う。
「私が言いたいのは、そういうことじゃないの! 私だって少しぐらい奏の役に立ちたいと──」
「はいはい、分かった分かった」
全てを言い終わる前に奏の胸へと引き寄せられ、まるで子供をあやすかのように優しく頭をポンポンされてしまう。ただそれだけで、ラズリは二の句が継げなくなってしまった。
私は本気なのに……。
魔性である奏にとっては、人間である自分の本気など、大したことではないのかもしれない。気に留めるほどのことではないのかもしれない。
でも、それでも、自分が彼の役に立ちたいと、少しでも彼の助けになりたいと思う気持ちは本物なのだ。
だから──。
「ねえ奏、本当に危ない時は、私を置いて逃げても良いからね」
そう言って、ラズリはそっと奏の胸を押し、彼から距離を取った──けれど。
「いや、もういいよ。何処にいたって結局俺はラズリのことが気になるし、今回は面倒ごとを避けたくて隠れてたけど……ラズリに何かあった時、やっぱ近くにいた方が対処しやすいからな」
そんな言葉と共に、再度引き寄せられた。
「奏……」
暖かい彼の胸に耳を寄せながら、けれども自分のせいで奏が危険に晒されるのは嫌で、ラズリは複雑な気持ちになってしまう。
奏に危険な目に遭って欲しくない。だけど、傍にいてくれないのは嫌。結局私は我儘なんだよね……。
「ごめんね、奏。いつも守ってもらってばっかりで……」
しょんぼりしながら謝罪を口にすると、優しく頭を撫でられた。
「気にすんな。俺がしたくてやってるんだから、ラズリは何も気にしなくて良い」
「うん……。ありがと」
奏の胸に縋り付くようにしながら、ラズリはそっと目を閉じる。
なんとか黒い靄は塊にして手に入れることができたけれど、それだけでは全然足りない。
これからも奏と一緒にいるためには、彼に守られるだけじゃなく、自分も戦えるようにならなければ。
甘えるだけの自分からは、もう卒業する──。
ラズリはそう心に決めると、唇を真一文字に引き結んだ。




