合流
「それで? どうして今まで姿を見せてくれなかったの? 私ずっと待ってたのに!」
宿屋の部屋中に溢れた黄金の光が落ち着いた後、ゆっくりと目を開けたラズリは、目の前にいた奏に驚いた次の瞬間、彼の胸ぐらを光の速さでガッシリと掴んだ。
奏が姿を見せなくなってから、何度名前を呼んだかしれない。何度出て来て欲しいとお願いしたかも分からない。
とにかく何度も何度もお願いしたのに、今の今まで奏は全く姿を見せてくれなかったのだ。
ラズリがその理由を知りたいと思うのも、拗ねて八つ当たりをしたくなってしまうのも、当然のことといえた。
「ねえ答えて! 私がいくら呼んでも姿を現してくれなかった理由は何⁉︎」
ぐっと顔を近付けて問い詰めるも、奏の返答は何とも曖昧なもので。
「あ~と……うん、なんていうか……まぁちょっと色々あって?」
などという、ラズリとしては全くもって納得できないものであった。
普段の奏は、決して口下手ではない。
寧ろ口が上手い部類に入るのだが、何故だかラズリを前にした場合に限り、その機能が著しく低下してしまうのだ。結果、ラズリに「そんなので納得するわけないでしょ⁉︎」と更に詰め寄られることになる。
「だってさ? その……俺には俺の事情があるっていうか、ちょっとまずいことになったっていうか、だから暫く身を隠した方が良いのかな~? とかさ?」
「どういうこと?」
彼の言葉は適当過ぎて、ラズリにはまるで意味が分からない。幾ら言葉を濁しても、どうせ理解できるまで説明を求められるのだから、最初から素直に話した方が得策だと思うのに。
毎回変に濁されて、納得できないラズリが無理矢理聞き出すという図式が既に出来上がってしまっている。いい加減時間の無駄だからやめてくれないかな──と思いつつ、返事を躊躇い口を開かずにいる奏に、ラズリは構わず次の質問を口に乗せた。
「奏が身を隠さなきゃいけないような危険な相手がいるってこと? そしてその人に見つかりそうだったから、奏は私の前に現れなかったの?」
「まぁ……うん。そういうことになる……かな」
「じゃあ今は? 私の前に出てきてくれたってことは、もう大丈夫だと思っていいのよね?」
自分の前に姿を現してくれたことは素直に嬉しいけれど、それによって奏の身が危険に晒されるとなれば話は別だ。まさか奏に身を隠さなければいけないような危険な相手がいるなんて思わなかった。
何の根拠もなく、奏は魔性の中でも強い部類に入ると信じきっていただけに──。
「大丈夫かどうかは、正直よく分からない。けど、新たな能力に目覚めたラズリを一人にしておくこともできないからさ」
「新たな能力……?」
それって何のこと? とラズリは首を傾げる。
すると奏は、彼女の肩に乗っている黒い塊を指差して苦笑を浮かべた。
「それ。ラズリが自分の体内から見つけ出して、外へ誘導したんだろう?」
「え?」
言われてラズリは自分の肩の上を見て──喫驚して思わず大きな声を上げた。
「ええええええ! 何これぇ⁉︎」
「何これって……ラズリの身体の中に仕掛けられてたもんじゃないのか?」
きょとんとした顔で奏が聞き返してくるが、ラズリには意味が分からない。
こんなものが自分の身体の中に仕掛けられていた? なんで? どうして? 何のために?
「自分の体内から黒い靄が出てきた覚えがあるだろう? そいつの元が、こいつだ」
サラリと奏に言われて、漸く分かった。
何故なら自分の肩に乗っているその黒い塊は、黒い靄を凝縮したような色をしていたから。
「これが……黒い靄の元?」
恐る恐る手を伸ばせば、ラズリの手に擦り寄るように、黒い塊が寄ってくる。
「俺の見立てによると、そいつはきっとラズリの言うことを聞くと思うから……普段は何か黒い生き物に擬態でもさせておけば良いんじゃないかと思う」
「黒い生き物……カラスとか?」
言った途端、黒い固まりが一瞬でカラスへと姿を変え、奏の頭をつついた。
「ちょ……ラズリ! こいつなんで……いてぇ! カラスはやめろ!」
「え、ええ⁉︎ だったらえーと、えーと……そ、そうだ、猫! 黒猫!」
そう言い直せば、カラスは黒猫へと姿を変えはしたものの──。
「キシャーーッ!」
「いでええぇぇぇぇぇぇ‼︎」
黒猫の尖った爪で手の甲を思いっきり引っ掻かれた奏は、あまりの痛みに大声を上げたのだった──。




