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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
第八章 魔力を吸う札

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剥がれない札

「……さて、問題はこれをどうやって調べるかだが……」


 かつて自らの居城があった空間で、死灰栖は氷依の身体に貼り付いた札を至近距離から見つめていた。


 戻って早々、自分の腕に貼り付いた札を剥がそうとしたのだが──やはりというか、思った通りというか、ピッタリと貼り付いた札は全くもって剥がれる気配がなかった。


 いっそのこと腕を切り落とそうかとも考えたが、魔力が減っている今そんなことをすれば腕を再生するため更なる魔力が必要となるし、幸いにも札は吸収できる魔力量に限界があるらしく、少し前ぐらいから魔力を吸われる感覚はなくなっている。


 ならば放置で良いかと貼り付けたままにしているのだが、如何せん、自分の腕に貼り付いた状態では思うように観察できない。というわけで、氷依に貼り付いた札を眺めているというわけだった。


「しかしこの札……どうやら吸収する魔力によって色が変わるようだな……」 


 死灰栖に貼り付いている札は真っ黒に染め上げられているのに対し、氷依に貼られた札は青空のように透き通った色をしている。


 人間に札を投げつけられた際に見た時は、薄い金色だったことを覚えているから、きっとこの考えは間違いないだろう。


「だからと言って、何が分かるというわけでもないが……」

 

 問題なのはやはり、一体何者がこんな物を作り、何をしようとしているのかということと、今現在何枚ほど作り置きがあるのかということだ。


 この札のことを何も知らぬまま人間に近付き、一気に複数枚貼り付けられたら、自分とてどうなるか分からない。それは相手が魔神であっても同じだろう。


 下手したら、人間と魔性の立場が入れ替わる──なんてことも考えられる。


「いやしかし、流石にそれは考えすぎか……」


 いくら何でもそれはないだろう──と、死灰栖は軽く頭を振って、その考えを追いやった。


 そもそも魔神はほとんど自分では動かないため、居城からほぼ外に出ることはない。そんな彼等が札を持った人間と偶然出逢うとは考えにくいし、もし出逢ったとしても、札を投げつけられる前に相手を殺してしまうだろう。


「とすると……今できることは特にないのか」


 攫ってきた女魔性に目をやるも、意識を失った状態では尋問もできないし、瞳の奥を確かめることも不可能だ。


 貼られた札についても──様々な角度からじっくり眺めてみたところで、それぞれ色が違うということぐらいしか分からなかった。


 これ以上構うのは、時間の無駄だな……。


 最近何かと動いているし、そろそろ休憩したいと思っていたところだ。


 取り敢えず現状としては目的の物を手に入れられたわけであるし、あとはゆっくり──気が向いた時にでも考えれば良いだろう。


「幸い時間はたっぷりあるしな……」


 今更余計な時間をかけたところで、特にこれといって問題はない。


 その間に魔性への脅威となる札を多く作られるのは厄介だが、それとて上手い手を考えれば、この先どうとでもやりようはある。


「それにしても……」 


 あの青年からは、妙な気配を感じた。


 以前感じたことがあるようなないような、魔性や人間とは明らかに違う、不可思議な気配を。


「そういえば、あれは……」


 人間の居城で女魔性の瞳の奥底に見えた光。


 色までは分からなかったが、彼女の瞳からは確かに青年の纏う気配が混在し、漏れ出していた。


「アイツが原因……そう考えて、まず間違いないと思うが……」


 かといって、彼が何をしたかまでは定かではない。


 分かっているのは事実のみ。


 魔性の魔力を吸収する妙な札についても、魔性のくせに人間などに従う女魔性についても、どちらもあの青年が関わっていることに間違いはないということだけだ。


「あんな物を作るぐらいなのだから、このまま奴を放置しておけば、そのうちとんでもない物を作り出すかもしれんな……」


 いくら何でも、それはまずいのではないか?


 今のうちに始末しておいた方が──と考えて、死灰栖はふと「何故に我が?」と呟いた。


 なにも魔性は自分だけではない。


 この島には多くの魔性が存在する。


 だったらわざわざ自分が対処する必要などないではないか。


 今まで通り、自分は離れたこの場所から見ているだけで良いのだ。


 そう、基本的に自分は見ているだけで良い。


 そのはずだ。

 

 なのに何故、今回は自分からこうも動いてしまったのだろう?

 

 ずっと動きたくないと思ってきた。身体を起こして椅子に座ることすら面倒くさいと思っていた。


 それなのに──。


「あーーーーっ! 面倒くさい! 知るか、もう」


 死灰栖はそこで、考えることを放棄した──。











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