消化不良
「それにしても、彼の中にあった〝黒い嫌なもの”というのは、一体なんだったのでしょうね?」
心当たりはないのですか? と、闇はラズリとピーちゃんを見比べながら、そんな疑問を口にする。
「そもそもラズリ殿に流れ込むはずだった"嫌なもの“を、どうしてピーちゃんが代わりに引き受けることができたのでしょう? ピーちゃんの元になった魔性は、そういった能力を持っていなかったわけですよね?」
最後の質問については奏を見ながら──。
ラズリに聞いても答えが分かりそうにないその疑問は、ピーちゃんの創造主とも言える魔性──死灰栖から魔力と能力を奪い取った奏であれば、答えられるだろうと考えたのだろう。実際、闇のその考えは的を射ていた。
だからだろうか。奏は一瞬驚愕したかのように目を見開いた後、観念したように軽く肩をすくめた。
「死灰栖の能力については……実はあいつの能力を奪い取った時、僅かばかりではあるものの、俺と同じように他者の能力を奪う性質が含まれていることに気づいたんだ。もちろん俺に比べたら全然大したことはないし、本来の能力のおまけ程度の力だったから、本人も気づいていなかったかもしれないが。だけど今回、ピーちゃんがラズリを〝嫌なもの”から守ろうとして、無意識にその能力を使ったんだとしたら……」
「その〝嫌なもの”を身体に取り込んだせいで、ピーちゃんは巨大化した……と?」
「俺の予想では、そうじゃないかと思ってる」
奏がピーちゃんに視線をやりつつ、そう言った刹那──ラズリは奏を押し倒さんばかりの勢いで、思い切り掴みかかった。
「それってピーちゃんは大丈夫なの? 変なものを身体に取り込んだせいで巨大化したって……そのせいでピーちゃん、死んじゃったりしない?」
ガクガクと奏を揺さぶりながら、必死になって尋ねる。
最初はピーちゃんが自分にとって嫌なものを吸い取ってくれたことに感謝の気持ちを覚えていたが──それがピーちゃんの害になるなんて、考えもしなかった。
いくら自分のためとはいえ、そのせいでピーちゃんを失うなど耐えられない。せっかく仲良くなったのに!
この時点で、既にラズリの頭の中にはピーちゃんを武器として使うだとか、自分のためになるよう使役しようだとかいう考えは欠片すら残ってはいなかった。あるのはただ、懐いたペットに対する純粋なる情のみ。
だからこそ絶対に失いたくなくて、まるで奏を責めるかのように問い詰めてしまったのだ。
しかし、そんな風に詰め寄られた奏はというと──。
「大丈夫だって。多分だけど今は吸い込んだものが消化不良を起こして若干身体が大きくなっちまってるだけであって、もう暫くしたら元のサイズに戻ると思うからさ」
と笑みを浮かべて、優しくラズリの頭を撫でた。
「本当? ピーちゃんは本当に大丈夫なのね?」
それでもすぐには安心できず、ラズリはもう一度尋ねる。
すると奏は、意地悪く片側だけ口角を上げた。
「ラズリ……俺の言うことが信用できないのか? だったらキスして信じさせてもいいけど?」
「…………っ‼︎」
その言葉にラズリが大きく目を見開くのと、闇が片手で顔を覆ってため息を吐くのがほぼ同時で。
室内に平手打ちの大きな音が響くと共に、闇はやれやれとばかりに首を横に振った。
「恋は人を変えると言いますが……流石にこれは……嘆かわしい限りですね……」
思わず闇が遠い目をして呟いてしまったとしても、仕方のないことといえよう。




