感謝の気持ち
次にラズリが意識を取り戻した時、そこは王宮内のベッドの上だった。
「あ……あれ?」
何度も瞬きを繰り返し、ついでに手のひらを目の前に持ってきて確認し──透けていないことに驚愕する。ついさっきまでは、確かに向こう側が透けて見えていたのに。
いつ自分が意識を失ったのか、そしていつ精神体であった自分が本来の体へと戻されたのか、ラズリには分からない。
けれど、まずは奏と兄がどうなったかを確認しなければいけないと、焦って身体を起こしたところで──誰かの手によって優しく肩を押され、再びベッドへと倒された。
「お前はまだ精神と体の状態が安定していない。無理しないで、もうしばらく横になってろ」
そう言ってきたのは、誰よりも大好きな、聞き慣れた青年の声で。
まさか、まさか、まさか──。
期待に胸を高鳴らせ、声のした方角へとラズリはそっと視線を向ける。すると──。
「…………!」
そこには思った通り、大好きな赤い瞳の青年がいて、微笑みながらこちらを見つめていた。
「奏……!」
あまりの嬉しさから、『横になってろ』と言われたことも忘れ、ラズリは思わず奏の首を目指して飛びつく。
「グエッ……」
喜びのあまり勢いを付け過ぎたのか、彼の口から若干苦しげな声が漏れたが、無論そんなことは気にしない。
奏だ、奏だ、奏だ! 奏が私の目の前にいる! 信じられない……!
「奏、奏、奏……」
夢じゃないよね? 本物だよね? もしかして幻とか、そういったものじゃないよね?
しがみついた身体からは確かな温もりを感じて、それが嘘じゃないと伝わってくるのに、どうしても信じがたく、ラズリはぎゅうぎゅうと腕に力を込めてしまう。
それに音を上げたのは、しがみつかれていた奏だ。彼は必死になって首を伸ばし、なんとか自らの気道を確保すると、大きく息を吸ってからラズリの背中を優しく叩いてきた。
「待った、待った! お前は俺を殺す気なのか? そんなに力いっぱい絞めなくても、俺は消えたりしないから安心しろ」
「本当に……?」
言われてようやく腕の力を少しだけ緩め、ラズリは至近距離で彼の赤い瞳を見つめる。
「本当だって。今まで俺がお前に嘘ついたこと……あったか?」
言われてみれば、答えは「否」で。不承不承ながらラズリが奏から離れようとすると、素早く額に口づけられた。
「なっ……そ、奏っ⁉︎」
真っ赤になって額を押さえるラズリに、奏はしれっと「今回、ラズリに色々と傷つけられた代金」なんてことを言う。
「私があなたを傷つけたって──」
「だって俺、ラズリに拒絶されたと思ったから、色々と無茶なことしようとしたんだぜ? なのに結局ギリギリで介入してくるし、俺の自殺を邪魔するし、なんなんだよ、もう……ってことで、俺の純情を弄んだ代金」
「じゅ、純情を弄んだって……」
もう少し言い方があるんじゃないか──というよりも、『純情』という一言が、こうも似合わない人も珍しい……と思いつつ、ラズリは言葉をなくし、黙り込む。
確かに自分は勝手な思い込みから奏に酷いことを言ったし、それに対し謝ることもなく、自らの感情で奏のやろうとしていたことを邪魔したことは間違いない。
それに怒ることも、防ぐことだって彼の能力ならできたのに、彼は結局そうしなかった。ただ自分のことを静かに見守り、やりたいようにやらせてくれた。
そのことに感謝しこそすれ、文句を言う権利なんてあるわけがない。
この場合、ラズリにできることといえば──。
「ご、ごめんね、奏」
チュッ。
謝って、自分から彼の頬に口付けることだけだった。
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ようやくようやく、もう少しで最終話です!
来週中には完結します!(本当は今週中に完結する予定だった……泣)




