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平凡な私のどこに、奪い合う価値があるのでしょうか?  作者: 迦陵れん
最終章 飛翔

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微笑む瞳

 頭を抱え、小さく蹲るルーチェの頭に、奏は優しく手を乗せる。


「……今、その苦しみから解放してやるからな」


 そしてあわよくば、彼から奪った能力(天使の能力)によって、自分が消滅できればいい──。


 そんな都合のいいことは無理かもしれないが、結果的に自分の力が弱まるなら、それだけで十分だ。たったそれだけでも、自分にはルーチェを救う価値がある──。


 むしろそういった理由でもなければ、後々闇に怒られそうだなと思いつつ、奏が瞳を閉じて意識を集中しようとすると──ふと、誰かの手が自分の手の上に重ねられたような感覚がした。


「…………?」


 こんな時に、横から割り込んでくるのは誰だ?


 魔神として能力を解放している状態の自分に、気づかれないよう近付くのは容易ではない。だとすれば、相手もそれなりの強さを持っているということになる。


 一体誰が、どんな目的で……?


 不審に思い、一旦能力を行使するのをやめて奏が周囲を見回すと──すぐ傍で、優しく微笑む黄金色の瞳と目が合った。


「え……っ⁉︎」


 信じられない出来事に驚愕し、大きく目を見開くも、相手の表情は変わらない。


「え……なんで……ええ?」


 すぐには状況が理解できず、困惑する奏に──笑みを向けた人物は、声を出さず口だけで『私に任せて』と告げてきた。


「あ、ああ……分かった」


 相手の言葉がすんなりと理解でき、おとなしく頷いた奏は、ルーチェの頭から手を離す。だが、頭の中は大混乱だった。


 どこか別の部屋で眠らされているはずのラズリが、どうしてこの場に突然現れたのか。そして、彼女の全身が透けているのは何故なのか。


 魔性である奏は、天使について全てを理解しているわけではないが、それでも彼らの能力について、大体は把握していると自負していた。しかしながら、天使が全身を透けさせることができるなんて事実は聞いたこともないし、実際に目にしたのも初めてだ。


 しかも、彼女は兄であるルーチェに天使としての能力を奪われたはずで、だからこそ精神と身体がその衝撃に耐えきれず、眠りについているのだと思っていた。だが、実際は違うのだろうか?


 奏が腕を組んで考え込んでいると、そこで唐突に、ルーチェが叫び声を上げた。


「やめろおおおおおおお! 僕に触るな! 僕に、純粋なる天使たるこの僕に……うわああああああっ!」


 どうやら、頭にそっと触れるかのように伸ばされているラズリの手を、振り払おうとしているようだ。しかし彼女の腕は透けているため触れることができないのか、必死に振り回される彼の腕は、風を切る音とともに虚しく空を切っている。


「やめろ! 僕の能力を……ううっ……や、やめろおおぉぉ」


 そんな状態でも彼はまだ頭痛に苛まれているらしく、表情はとても苦しげだった。


 あの酷い頭痛から彼を完全に解放するには、もう天使の能力を全て奪い去るしか方法はないのだろう。ひょっとしたら天使としての能力を欠片も残さず無くしてしまえば、父親である魔性の能力に目覚めない可能性もあるのかもしれないが、これまで全く表面化してこなかったことを考えると、あまり期待は出来そうにない。


 つまり、天使としての能力を失ってしまえば、その時点でルーチェはただの──性格の悪い──人間になってしまうということだ。


 なんの力も持たず、周囲からチヤホヤされて育った記憶だけが残る残虐な思考の持ち主なんて、お先真っ暗な未来しか見えない。けれど、目も開けられない程の酷い頭痛に冒されたまま生きていけるとも思えないから、これはラズリとしても仕方のない選択なのだろう。


 兄である青年から放出される光の粒を身体に取り込むラズリの美しさに見惚れながら、奏は表情を緩めた。

  


 


 


 



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